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15 憧れの魔法

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 サシャは食い入るように、目の前で繰り出される魔法を観察した。

 リリアはどこからともなく水を出し、それを蛇のように自在に動かす。リリアに巻き付くように蠢くそれは、まるで意志を持った生き物のようだ。

 紅い瞳がいたずらっぽくサシャを捉えたかと思うと、水蛇は大きく口を開けてサシャに迫ってくる。

「え」

 呆然と、鼻先まで近づく蛇の牙に、食われるという恐怖に立ち尽くしていると――蛇の動きが止まった。

 正確に言うと、蛇がその場で凍り付いたのだ。

 リリアがパチパチと手を叩き、まだ動けないサシャの手をとる。

「お見事ですわ、サシャさん。迫りくる攻撃に対して微動だにしないなんて、肝が据わっていらっしゃいますわね」

「はは……ありがとうございます」

(驚きすぎて動けなかっただけなんだけど、ね)

 リリアの背後を覗くと、今にも獲物に噛みつかんとする臨場感溢れる氷の彫像ができている。

「わ。オズワルト嬢の魔法ですか、これ?」

 やってきたのは、魔法学担当の教師であり、サシャが所属する一組の担任でもあるレイブンだ。

 リリアの表情が一瞬にしてすましたものになる。

「そうですわ。何か問題でも?」

 高圧的なリリアにレイブンは少し委縮するも、じっくりと氷の蛇を眺める。

「んー、氷の魔法を使ったんじゃなくて、水の温度を下げて凍らせたんですね。新しく魔法を展開するよりも時間は短縮できますが、集中力と高度な技術が必要……さすが、幼少の頃から魔法を極めたというオズワルト嬢ですね」

「ほ、褒めても何も出ませんわ!」

 真っ白な肌が赤く色づき始めたのを見て、サシャはもしや、とにまにまする。

「僕の授業なんて受けなくても、既に魔法省の役人と張り合える実力ですよ。オズワルト嬢も時間を無駄にしたくはないでしょうし、単位をあげ――」

「わたくし、自己流で魔法を身につけたので、初歩から学び直したいと思っていましたの。最後まで受けさせていただきますわ」

 レイブンの言葉を遮って早口でまくしたてるリリアに、サシャも助け舟を出す。

「先生、リリア様はわたしの貴重なお友達なので、授業に出てもらわないと困るんです。最後まで一緒に授業を受けさせてください」

「と、ともだ、ち……⁉︎」

 隣でよろめくリリアは一体どうしてしまったのか。

(はっ。わたしみたいな貧乏くさいやつが、友達なんて言ったことにショックを受けてる……?)

 自分で思いついた答えにちょっと傷つくサシャであった。

 レイブンは頬をかきながら苦笑する。

「そうですか……ではオズワルト嬢が退屈しないような授業にできるよう、頑張らないとですね」

「そうしてくださいませ!」

 調子を取り戻したリリアは扇で顔下半分を隠し、レイブンを睨みつけた。

 「何か気に障ること言ったかな?」と脂汗をかくレイブンは、リリアの隣にいるサシャの方を向く。

「さ、サシャくんは魔法を使ったことがないんだっけ?」

「はい。使えるかも分からないです」

 レイブンは手袋をはめてから、白衣の胸ポケットを探って小さな水晶玉を取り出した。

「魔力検査用の水晶ですわね」

「そう。何人かサシャくんみたいに魔法を使えるか分からない生徒がいたから、用意してたんだ。触ったら水晶に変化が起きて、色で使える魔法の適性が、大きさで魔力量が分かるんだ。僕やオズワルト嬢が直接触れたら水晶が破裂しちゃうので、オズワルト嬢は触らないでくださいね」

「分かってますわ」

 ツン、とそっぽを向くリリアを横目に、サシャは水晶玉を受け取った。安寧を求めるサシャとはいえ、もしかしたら魔法が使えるかもしれないという期待に胸が躍る。

 だが。

 水晶玉を持つこと数分。

 掌よりも小さい水晶は、無色透明のままサシャの手の上に鎮座していた。

「これは……」

 リリアが眉根を寄せる。レイブンは手袋を外し、「ちょっと失礼」とサシャの手の甲に触れた。

 目敏く訓練場の反対側にいたアルフレッドが、険しい表情を浮かべてペアのオルドと共に近づいてくる。

「先生、何してらっしゃるんですか?」

「わ、セクハラだ~。大人しい顔して先生やるぅ」

「ち、違います! サシャくんに流れる魔力を確認しようと思って、でも」

 レイブンは悲し気な顔でサシャを見た。

「サシャくんには、一切、これっぽっちも、魔力がないです」
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