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第二章:新旧パーティーのクエスト

4、クエストを終えて

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 彼女が祈る姿はとても美しい。
 腰に届きそうな長い髪は空より青く、清らか。閉じられた瞳の奥には、海より深い緑の澄んだ瞳が隠されていることを俺は知っている。
 列をなす幽霊を前にして、祈りを捧げるルルティエラはとても美しかった。
 その肩にとまる黄金の輝きを放つ妖精が、その美しさに拍車をかけている。

「ああしてるとルルちゃんも僧侶なんだって思うよなあ。なんか近寄りがたい雰囲気がある」
「近寄ったらお前も浄化されるんじゃないか?」
「だから俺は瘴気の塊かっつーの」
「煩悩の塊ではありそうだな」
「煩悩なくしてなにが人生か」

 どうやらようやくゾンビとの決着がついたらしいライドが、俺の肩に肘を置く。
「元気でな!」とか、およそゾンビにかける言葉ではないものを最後にかけて、おとなしくなったゾンビの首をバッサリ斬ってたっけ。「もう未練はないから一思いにやってくれだって」とか、しゃべれないゾンビとなに以心伝心してんだ。
 それに対してルルティエラのさまは本当に綺麗だ。

「黙ってると、美人なんだよなあ」
「安心しろ、その発言は後でルルティエラに伝えといてやる」
「やな伝言ゲームだなおい」

 ライドが顔をしかめたところで

「聞こえてますわよ」

 とルルティエラが目を開いてこちらを睨んでいた。気まずいからと、俺の背後に隠れるのはやめてくれライド。

「終わった……ようだな」

 見れば幽霊は一体残らず消えていた。天に召されたか。

「はい、終わりました。皆さん喜んでおられました、良かった」
「この村が滅んで百年だったか? そんなに長くさまよってたら……そりゃもういい加減ウンザリだろう」

 他の地に自由に動き回れるならともかく、彼らはこの地に囚われていた。死んだ時点で相当な未練があったのだろう、この地に縛られおよそ百年。その間、誰も彼らを導いてやれなかったというのは、あまりに悲しすぎる。そんな誰にも相手にされない村だからこそ、滅んだのだろうけど。

「よし、それじゃクエストは無事に終了ってことで。戻って報告だな」
「は~疲れた疲れた。なあ俺、また足が早くなってねえ?」

 肩をコキコキ鳴らすライドには、軽く肩をすくめるにとどめる。もう既にライドに渡した俺の能力は返してもらってるからな。早くなってるとは言いにくい。かといって兄貴達のようにずっと能力を分けてると、回収するのに手間取って困る。
 ……俺はまだ、彼らとずっと共にすると決めてないのだから。いつまた突然別れがあるともわからないのに、不用意なことはできない。
 見ればルルティエラも疲れた顔をしていた。こっちは俺の能力を分けてないから、完全な実力で大したものだ。彼女が仲間になったのはかなり幸運といえよう。

「お疲れ様、ルルティエラ」
「ええ」

 短く答える彼女は本当に疲れてる様子。
 う~んと両手を天に伸ばして体をほぐす様子に、思わず目を細めた。なにせそうすると彼女の大きな胸が強調されるので。俺17歳、そういうのについ目がいくお年頃。

「おいおいザクス、どこ見てんだよ。でもわかるぜえ、男の俺にはわかるぜえ」
「……なんだよ」

 そんな俺をニヤニヤして見てくるライドは、また俺の肩に肘を置く。俺の肩は肘置きではないのだがな。

「なにがわかるんですの?」

 不思議そうなルルティエラに

「いやさあ、ザクスのやつ、ルルちゃんの豊満なおむ……ねぼお!」
「おむねぼお?」

 首を傾げるルルティエラの前で、俺の拳を顎に受けたライドが吹っ飛んだ。

「お前、報酬の取り分減らすぞ」
「そ、それだけはあ!」

 ギロリと睨む俺に涙目のライド。
 まあ減らすってのは本気じゃないけどな。報酬もらうまでは黙っておこうと意地悪心が働く。
 そんな俺に向けられる視線に気付いて、肩に乗る妖精を見た。なにやらジッと俺を見つめてくるのだ。

「なんだ、ミュセル? 俺の顔になにかついてるか?」
「顔ではない、髪を見ておった」
「髪?」
「おぬしの髪、こんな色だったか?」

 そう言われて俺は自分の前髪を引っ張って、見上げるように髪を見る。

「そうだな、少し明るくなったかな?」

 ライドが俺の言葉に反応する。

「言われてみれば、なんか明るくなってるなあ。お前もっと暗い茶色じゃなかったか? 月明かりのせいか? キラキラと輝いて見え……」
「ま、食生活で髪の色が変わるなんてよくあることだろ」

 肩をすくめて言えば、「よくあることかあ?」とライドは納得いかない様子。

「人の髪色は変化するのか? このままどんどん明るくなれば金髪か。そうなれば、我とお揃いだの」
「そうだな」

 俺の髪をサワサワといじって、どことなしか嬉しそうな妖精に俺は微笑んだ。
 ルルティエラがジッと見てるのを、気付かないフリをして。


* * *


 そして勇者一行。

「あ~やっと終わった。なんか無駄に大変だったな、くそ」

 勇者ディルドの言葉に返す余裕がある者は、パーティーの中には一人もいなかった。
 全員が、クエストを終えてクタクタになっているのだ。街に帰還する足取りが重い。

「くそ、なんか足がもたついてうまく動けなかった」

 とディルド。それにモンジーも「俺も斧を振り回すのに難儀した」と頷いて言う。

「なんか魔力切れが早かったような……」

 首を傾げるセハに、

「みなさんへの補助魔法のかかりが、弱く感じましたです」

 と気落ちするミユ。

「ザクス、あんたが回復薬をちゃんと用意しないからよ!」

 思わず八つ当たり気味に怒鳴って背後を振り返るセハ。だが勿論そこに目当ての人物は存在しない。

「セハちゃん、ザクスはもういないよ」
「チッ、そうだったわね。疲れすぎて忘れてたわ」

 セハの脳裏には、いつもいいタイミングで回復薬を渡してくる茶髪の存在が浮かんでいた。

「戦闘には参加しなかったけど、ザクスは結構いい指示くれてたよな」
「そうですねえ」

 モンジーの呟きに、思わずミユが頷いて答えた。

「なんだよお前ら、まさかザクスを戻したいとか思ってんじゃねえよな!?」

 苛立ちながら言うディルドの言葉に、だが誰も何も言わない。肯定も否定も。

「別にそういうわけじゃないけど、居ればそれなりに便利だったなと思っただけよ」
「それが戻ってきてほしいって言葉に聞こえんだよ!」
「んなわけないでしょ! ……って、あら?」

 ディルドとセハの言い合いになりそうな雰囲気に、けれどセハが訝し気な目をディルドに向けることでそれは不発に終わった。

「なに人の顔をジロジロ見てんだ。俺がイケメンだからって……」
「あんたの顔なんて見飽きたわよ。それよりディルド、あんたの髪、そんな色だっけ?」
「え?」
「もっと綺麗な金髪だったと思うんだけど、くすんで見えるような……」
「はあ? 夜だからそう見えるだけだろ」
「いや、前は月明かりなくても綺麗に輝いてたはず……」
「戦闘で汚れただけだ。くだらねえこと言ってないで、早く帰るぞ! 報酬貰って早く休みてえ。ああそういや、あいつに分け前やらなくていいんだから、取り分増えるよな、ハハハ」

 セハの言葉を聞き捨てて、ディルドは笑って足を早める。それに無言で付き従うわモンジー。話す気力もないらしい。
 そんな二人をジッと見てから、溜め息をついてセハも歩き出す。
 更に後ろ。最後部を歩くミユは、チラリと背後を振り返り、そこにいつも居たはずの存在を思い出す。
 いつも一番後ろにいる存在のおかげで、安心して歩けていたのだと今更ながらに思いながら。
 セハ以上に深いため息をついて、ミユは前を向く。先ほどのセハの言葉が頭の中を反芻する。
 以前、自身も見た気がした。ディルドの髪の色が変わっていることを。そしてそれが見間違いではなかったことを理解した。
 セハ同様に、ミユにもはっきりと見える。ディルドの髪の色が変わってきていることに。綺麗な金髪はなりを潜め、徐々にくすんで茶色に近付いている。
 それは、その色は──

「ザクス、あなた何をしたんですか?」

 その問いに答える存在は居ない。
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