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第三章:盗賊ライドと不愉快な仲間たち
19、帰る? or 帰らない?
しおりを挟む「なあホッポ、これは由々しき事態じゃないか?」
「そうだなライド、このクエストは俺たちの勝負であり、俺たちがメインだったはず」
「なんなのこれ、なにが兄弟喧嘩勃発だよ! なに主題食ってくれちゃってんの!?」
「俺らモブになってね!?」
「ちょっ、これ抗議レベルだよな!」
えっちらおっちら三階まで再び上ったところで、なんだこの状況。
「なんなの?」
「なんか目立たないのが嫌なんだって」
苦笑するエヴィアの視線の先には、なぜか肩組んでギャアギャア言ってるライドとホッポがいた。
「あいつらいつもこんなノリだっのか?」
「そうそう。幼馴染みだからかしらねえ、どうにもガキッぽさが抜けないのよ」
「あんたよくあの二人とパーティー組んでたな」
俺はライド一人で腹いっぱいだ。そう言えばエヴィアは苦笑しながら無言で肩をすくめる。
「おいザクス、上に行くなら俺も行くぞ!」
俺の姿を見つけたライドが詰め寄ってきた。
「お前剣が折れて短剣しかないだろ? 俺の剣をまた貸してやるから、俺も行く!」
ホッポも詰め寄ってきた。二人して顔が近いし圧が強い。暑苦しいなコイツら。
「一緒に行くのはいいけど、どうやって行くんだよ?」
「そりゃ勿論……どうやってだ?」
俺の問いに問いで返すライド。俺に聞くな阿呆。
「まあ階段ないからよじ登るしかねえよなあ」
「よじ登る……」
俺の言葉を反芻したホッポが、壁がごっそりなくなったとこから外に顔を覗かせて、塔の外壁を見上げた。垂直に、はるか高く上へとそびえ立つ塔を。
「……鎧、脱ぐか」
そうだな、お前の無駄に豪華な鎧は重くて、よじ登るのは無理よな。
「ふふん、この程度、盗賊ライド様の手にかかればチョチョイのチョイだぜ!」
無駄にカッコつけポーズなんなのそれ。
「エヴィアはここで待ってろ」
「え~、私も行きたーい」
ホッポに言われて、不満そうに頬を膨らませるエヴィア。遊びに行くんじゃないんだが。
「私も行く! 絶対行くー!」
セハも両手を上げてピョンピョン飛びながら叫んだ。
どうもこいつらは緊張感に欠けるな。ザジズが居たときはシリアスな空気だったのに。
「私も行きます」
その時、シリアスの女神が降臨する。
振り返れば神妙な面持ちのルルティエラが立っていた。
「ルルティエラ?」
「あなたの兄上様、以前会った時と随分雰囲気も能力も異なってました。ザクスでも苦戦するはずです。回復薬は必要でしょう?」
「俺も回復魔法は使えるが……」
「戦いながら回復するんですか? 一瞬の隙も彼は見逃さないと思いますよ。それに私のほうが確実に、そして早く回復できます」
その言葉に反論はない、というかできない。まったくもってその通りだから。
「よし、ライドにおぶってもらえ」
「いやです」
即答かよ。
「即答の拒絶!」
俺が思ったことを口にして、泣き真似するライドは放置。
同じくライドを無視したルルティエラが、なぜか俺をチラチラ見ている。なんだ、俺の顔に食べカスでも付いてるのか。
なんて思ってたら、頬を赤らめたルルティエラがモジモジしながら言ってきた。
「その……ザクスがおぶってくださいませ」
「いやです」
即答の拒絶です。
「いでででで!」
「女心が分からないザクスは、ルルティエラに頬を思いきりつねられても仕方ないと思います」
いきなりルルティエラが凄い形相で俺の頬をつねるもんだから、咄嗟の防御力アップが間に合わなかった。痛みに涙浮かべる俺の横でふざけたことを抜かすライドは、あとで殴ろう。
「ずるーい! 私も行きたーい!」
「わーたーしーもー!」
俺達のやり取りを見ていたエヴィアがまた駄々をこねる。そしてセハも。
いい加減にせえよお前ら、遊びに行くんじゃないっつってんだろ!
緊迫感に欠けるやり取りに、段々腹が立ってきた。いいから俺はさっさと……さっさと──
「俺は早く帰りたいんだ!」
あ、しまった、思わず本音が出てしまった。
カッとなってポロリ出ました。
瞬間、場がシーンとなる。
「え、ザクス帰んの? みんな上に行く気満々なのに?」
ライドの問いに頷く。
「そういう空気だから乗っかってはいたが、正直帰りたい。というか帰る。兄貴の挑発に乗る理由はない」
「そりゃそうだ」
納得が早くて助かる。
「いやいや、ここは兄弟バトルが王道だろ!?」
「誰が王道って決めたよ」
「うん、まあそうなんだけど……」
ホッポの諦めも早い。
「まあ確かに、みんなで塔をよじ登るってのは非現実的だもんねえ」
エヴィアもいい感じに俺の意見に賛同しそうな雰囲気。
「そもそも、どうして塔の最上階なんでしょう。ここら一帯は荒地ですから、塔から出て外で戦闘すればよろしいのに」
だよなあ! ほんとルルティエラの言う通りっす!
「ミュセルが人のサイズになったとして、俺らを一人ずつ運ぶとかできる?」
「出来なくもないが、一人運んだ時点で殺されやせんか? 次の者を運ぶ頃には先の一人は絶命じゃぞ」
「ですよねー」
肩に乗る妖精に聞けば、手で首をチョンのポーズをされた。
あの兄貴が、全員上に行くまで待つとは思えない。ミユもなんかダークサイドな雰囲気になってたし。
面倒なことこの上なし。
「……帰るか」
呟くように言えば、全員が同意といった感じで頷いた。
「いやだから、どうやって帰るんだよ? 馬、居ないんだぞ?」
「あ、そうだった」
ホッポに言われて、馬車を引く馬がいないことを思い出す。さっき下で死んでる馬を間近で見たばかりだっつーのに。そうだよ、それ忘れてた。
そもそも帰る方法を求めて塔を探索しとったんじゃないか。兄貴の登場のせいで主旨忘れてたっつの。
さてどうしようという空気に戻る。
皆が頭を悩ませていたら、不意に一人の影が俺に近付いてきた。
「帰らないで」
「メルティアス?」
ゴールドドラゴンのメルティアスが、声をかけてきたのだ。存在忘れかけてたし。
見れば困ったような顔を俺に向けてくる。
「このまま帰ったらあの二人が何をしでかすか……へたをすれば、この塔を破壊し、私達に危害を加えるかもしれないわ」
「ああ、そういや脅されてたんだっけ?」
俺の問いに、メルティアスは静かに頷いた。
「あの様子だと、もう私達のことなんて眼中にないっぽいけど、あなたが帰ってしまったら……激怒する」
「……まあそうだろうな」
「そしたら、きっと私達に怒りの矛先を向けてくるわ」
「う~ん……」
否定できない。
「お願い、帰らないで。あいつらをこの塔から追い払って。ここはとても大切な場所、ドラゴンにとっては大切な家なのよ」
「見返りは?」
「え?」
「そんなことして俺らになんの得が……いでっ!」
そこまで言って、頭に激痛が走ったので思わず頭を押さえた。
「なにすんだ、ライド!」
「お前なあ、こんな美人が頼んでるんだぞ? 見返りとかセコイこと言うなよ」
「そうだそうだ」
ライドの言葉にホッポの声援が飛ぶ。俺は二人をギロリと睨んだ。
「なに言ってやがる。ホッポ、お前ザジズの死に関与したこいつを信じるのか?」
「まあ、それはそれ……実際に手を下したのはお前の兄貴だから、俺のカタキはあいつだ。美人を恨むつもりはない」
「基準そこかい」
美人かどうかで判断って、ゲスいよなあ。なぜか横ではライドがウンウンと頷いている。似た者同士め。
「見返りになるか分からないけど……」
俺達の押し問答を聞いていたメルティアスがおずおずと言葉を挟んで来た。
「私があなた達の仲間になるのはどう?」
「俺盗賊のライド、よろしくな!」
反応はええな。光速で俺を押しのけて、メルティアスに自己紹介を始めるライド。
「いやまだ、オッケーと言ったわけじゃ……」
「なに言ってるんだ、ザクス! 女性が困ってるんだぞ、今助けずにいつ助けるよ!? 困った時はお互いさまだろ!?」
「俺は別に困ってな……」
「よし分かった、なんだ一週間の飯当番じゃまだ足りないか? なら一ヶ月代わってやろう!」
「そこまでかい」
どんだけお前、美人が好きなんだよ。ルルティエラとミュセルがいるじゃないか。まあミュセルは性別ないけどよ。てかドラゴンなんて危険なのと行動を共にするとか、リスク高すぎると思うんだが。
呆れる俺の前で、ライドはメルティアスの手を握ってブンブン振ってた。
「よろしくなー!」
も、好きにしてくれ。
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