殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王に債権を売り渡す件 9

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 そんなに泣いたところで何も変わりませんよ、エリーゼ様。
 ハーミアは胸中で新たに決意を固める。
 この女やあの男や、そして‥‥‥あの皇帝のせいで最愛の夫を失った
 彼は立派に帝国の礎として死んでいったのだ。
 四大将軍最強と言われた、あの魔族を道連れにして‥‥‥
 本当ならばあの人が死ぬことなんて、何もなかった。
 憎いのは魔族ではない、帝国だ。

 大公閣下には感謝をしなくてはならない。
 それに、あの御仁はグランとレべッカからの伝聞に過ぎないが、貴族として。
 皇族としての誇りだけは、いや、ある種の仁義と言うべきか。
 さすがヤクザ大公と評されるだけのことはある。
 やり方は姑息かもしれない。でも、身内に慕われているようだし何より、最後に債権を買い取りに行かせたときの言葉と態度だ。
 グランは言っていた。
 
「閣下に元に我々がいくのがあと少し遅ければ‥‥‥閣下は、御自身で全てをおさめようと。
 命を賭ける覚悟だったようでございます、御主人様」

 あの報告には驚いた。
 ハーミアが忌み嫌い、嫌悪感すら抱く皇族の中であの大公だけはどこか憎めなくなった。
 どこの皇帝陛下の弟君が、甥だのわたしみたいな臣下の為に命を張ろうなんてするのかしら、と。

「しっしかし、それでは女公爵様にご迷惑がーーー」

 グランが言っていた、ザイール大公のその一言。
 あれが彼の人柄を表していた。

「本当に‥‥‥大公閣下が、もう少し真面目で皇帝陛下におなりあそばしていたら。
 今回のようなことは起きなかったのに、残念ですね、エリーゼ様?」

 ああ、しゃべれないんでしたね。
 お可哀想な、侯爵令嬢様。
 ハーミアはいかにも楽し気にからかってやる。
 夫の無念を思い知るがいい‥‥‥
 それが、ハーミアの原動力の一つだった。
 ああ、なんて醜いんだろう。
 そう自身で思いながら、窓の外を見やる。
 途中から先導に入ったあの、空飛ぶ木馬に乗った武装騎士ではなく、礼装の衛士が彼女たちを案内する。
 ハーミアはその事実を驚いて受け止めていた。

「凄いわね、グラン?
 帝国にもし魔族の使者がくれば、騎士団総出で警護にあたるでしょうね‥‥‥。
 なのにこの魔都と来たら、帯剣だけの礼装の騎士? 衛士かしら。
 その方々が先導に入るだけで、周囲にはあれだけの魔族がいるのに。
 誰一人、襲い掛かろうともしない。
 二年前に、自分たちの英雄を殺した竜族の妻が来ているのによ?
 なんて統率力ー‥‥‥魔族に帰属するのも悪くないわね?
 そこにいるエリーゼ様を養女にして、魔王子様と婚儀が済めば。
 どう思う?」

「御主人様、竜王様の意向もありますれば‥‥‥。
 この婚儀に、竜族の賛同が無ければ、いまのこの同行はあり得ません」

 それを聞いて、エリーゼの愚行がピタリと止んだ。
 流れ出る涙をこぼしながら、彼女は信じられない。
 そんな、現実から逃げ出したい。
 絶望感を浮かべていた。

「あら、エリーゼ様?
 まさか、わたくしだけの単独行動とお思いですか?
 そんな訳があるはず、ないでしょう?
 仮にも辺境国の国王とはいえ単なる地方領主。
 魔族の王が謁見を許すと思いますか?
 帝国と大地母神様の神殿は‥‥‥好き勝手をやり過ぎたのですよ。
 大神官であり、皇族であるあなたは生贄になって頂く。 
 どうされるか楽しみですね? 
 魔王様の御子息でまだ婚儀前の方は五名だとか」
 
 中には吸血鬼の王子様もおわすそうですよ?
 その処女の血をすべて吸い取られても、いいかもしれませんね?
 ハーミアはそう脅してやる。
 エリーゼはこの世の終わりのような形相で、悲鳴にならない悲鳴を上げていた。

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