殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、魔王と共謀する件 5

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 魔王は、そう叫んだあと大広間を睥睨した。
 ハーミア側と自分の側。
 それぞれ、誰が一番先に立ちあがり心の強さを見せれるかを確認したかったのだ。
 意外にも、ハーミア側は宰相のグランが立ちあがると主の元に歩き始めた。
 魔族側は――

「はあ‥‥‥。
 お前たち――」

 そう、魔王がためいきをついた。
 配下の魔族でも最強級の強さを誇る四大将軍は誰も立ち上がれなかった。
 ハーミアの力の脅威、それをあっさりと消滅させた主の力の強大さに尊敬しつつも、畏怖してしまっていた。
 魔族側で最初に立ち上がったのは‥‥‥

「おいで、シェイブや」
「はい、父上!」

 魔王がそう呼んだ彼は駆け足で父親の元へとやってくる。
 茫然自失になり床に座り込んでいるハーミアを抱き寄せて、グランは彼ら魔族の親子をにらみ見ていた。
 やってきたシェイブと呼ばれる若いその王族は、見た目は人であり年齢はハーミアと同じかどうかというところ。
 魔王がなにを企んでいるのかは、グランにはわかっていた。
 彼、魔王フェイブスタークがいま一番興味を示しているのは、ハーミアではない。
 エリーゼだと。

「ハーミア殿。 
 我が末子。
 シェイブと言う年はまだ十五でな。
 これでもはるかな端にではあるが、王位継承権も持つ王子だ。
 そちらのエリーゼ殿。
 この我が息子との婚姻で債権としての買い取り契約。
 まず、一つは確約で良いかな?
 まあ、確か先程は、物と言われていたな?」

「‥‥‥そっ、それが何か――!!?」

「はあ‥‥‥、怒りをおさめてはくれんかな?
 そなた、自分の臣下まで巻き添えにするつもりだったのだぞ?
 復讐を望むのならば、後からわしと二人だけの決闘を申し込めば良かったのだ。
 策謀を練ったように見せながら、内実は愛情を失った女の怨念だけか?」

 何も言い返せないハーミアを見下ろして、魔王はそれでもまあ、と彼女の前後に駆け寄り守ろうとする侍女たちを見て羨ましそうな顔もする。

「家臣には恵まれているようだな。
 これ、お前たち。
 魔族の先頭にあるべきものがいつまで床に伏しておるか!!
 シェイブを見習うがいい!!」

 その一括に彼の臣下や親族は慌てて立ち上がり、礼を正した。
 まったく、ここ数年おおきな戦争がないからと‥‥‥
 魔王はそう、ぼやいていた。

「ハーミア殿、エリーゼ殿。
 いや、物、だったな。
 エリーゼはこの場でシェイブの正妃にするぞ?
 良いな?」

「せっ、正妃‥‥‥??
 わたしが、魔族と――!!??」
 
 ハーミアが返事をする前に叫んだのはエリーゼだった。
 魔王の隣に立つのはどう見ても自分より年下。
 おまけに身長すら頭一つは小さい‥‥‥見た目は人間と変わらない少年だった。
 ‥‥‥十五歳?
 もう、エリーゼに選択肢はなかった。

「不満は聞かんぞ?
 そう言えば、人間の貴族社会では女は夫の物であり家に帰属するのだったな?
 シェイブや、もはやお前の物だ。
 眷属にしておやり」

 優しくとてつもなく冷酷なことを平然と言いのける父親に、王子はどこか遠慮していた。
 判断がつかない、そんな風ではなく、憐れに思う。
 そういう視線で魔王を見あげていた。
 しかし、命令とあらば仕方がない……

「‥‥‥はい、父上様」

 少年はエリーゼに近寄り、その手を握るとそっと抱き寄せた。

「これより、夫になります。
 エリーゼ、わたしはシェイブと申します。
 どうか、末永く幸せになりましょう」

「そっ、いや――」

 逃げ出そうとするエリーゼを抱え込むと、少年は口を開く。
 突き出した二本の牙は、エリーゼの喉元に突き立てられ――
 エリーゼが助けを求めて伸ばしたその手は力なく沈んで行った。

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