24 / 79
秘密の聖女様、魔王と共謀する件 4
しおりを挟む
「なあ、ハーミア殿。
最初は息子たちのどれかとの縁談の話しではなかったのか?」
魔王は困惑していた。
債権だのなんだの、そんな私怨がそこかしこに見えるこの女公爵。
扱いを間違えれば、竜族との全面戦争になりかねない。
そんな気もしていたからだ。
「誰が、大地母神の聖女を選んだか。
そう言われたな、ハーミア殿。
それは、大地母神ではなく竜神ではないのか?」
ハーミアの表情が凍り付いた。
なぜそのことを知っているの、そういう視線を向けないように不敵に笑うしかなかった。
「さあ、どうでしょうか、魔王様。
もしそうだとして、何か不都合でも?」
「不都合は何もない。
夫婦であるあの二神が相談して決めたのだから、文句もない。
ただそれが、そなたになった。
それが問題だ。
一つ、面白い話をしよう」
魔王は席を立つと階下のハーミアの前に歩みより、そっと囁いた。
それは、ハーミアの中に残っていた理性の欠片。
そう、冬の寒空の中に一枚だけ残っていた葉っぱが大地に落ちるように。
抑え込んでいた竜族としての力を、怒りを‥‥‥暴走させた。
「そなたの夫は、わしの手の中にいるぞ。
女公爵殿」
魔王は誰にも聞こえないほどの密やかな声でそう言い、ある場所を指差す。
カーテンで仕切られていたその場の幕が降りた時。
ハーミアだけではなく、その場にいた家臣たちも驚愕の声を上げずにはいられなかった。
「だ‥‥‥っ、旦那様!!??」
「うそっ!?
だって、あの時ーー」
「ありえん、そんなはずはー‥‥‥!!!???」
そこにいた。
いや、あるのは二本の透明な柱。
その内部は透明な液体が注がれていて、二体の竜と魔族が入っていた。
身体中に細かいチューブが繋がれていて、それはまるで‥‥‥生物標本のようにも見えた。
前クルード公爵スィールズ、そして、前四大魔将の一人、ルゲル大将軍。
その二人が、そこにはいた。
「スィールズ‥‥‥」
人間の姿から勇壮な竜へと戻った時のあの美しい姿。
雄々しい竜族の英雄。
そして、ただ一人。
自分が愛を捧げた相手が‥‥‥そこにはいた。
ああ、もう無理だ。
逃げなさい、あんんたたち。
もう、抑えきれないーー
ハーミアは短く叫んでいた。
「貴様‥‥‥、魔王、貴様ーーーー!!!」
その瞬間、謁見の広間にいた全員が恐怖するほどの威圧がハーミアから生まれた暴風に乗り心を殺していく。
その威力は魔王ですら怯むほどだった。
そして、次に起こるのは魔力の暴走だ‥‥‥この城程度、崩壊させかねない。
それほどに強大な魔力の暴走が始まろうとしていた。
「愚か者!!
夫を殺す気か!!」
しかし。
魔王のその一喝がハーミアを現実へと引き戻す。
ついでに荒れ狂ったはずの魔力の暴走による暴風は、魔王の軽い腕の一振りで消えてしまった。
「‥‥‥そんな。
わたしの、あの溜め込んだ力ですら‥‥‥???」
ハーミアはその場に座り込んでしまう。
ごめんなさい旦那様。
仇をーー仇を討てませんでした!
少女は悔しさに大粒の涙を流していた。
「誤解をしすぎだ、ハーミア殿。
あの相討ちの後、遺骸はなかったであろう?
わしが転送したのだ、この場にな。
我が子であるルゲルも、クルード前公爵も。
死なすには惜しい御仁だった。
いいか、まだ生きているのだ。
いまは眠っている。しかし、数年後には再生が終わる。
魔族はお主の敵ではない!!」
魔王はそう叫んだ。
最初は息子たちのどれかとの縁談の話しではなかったのか?」
魔王は困惑していた。
債権だのなんだの、そんな私怨がそこかしこに見えるこの女公爵。
扱いを間違えれば、竜族との全面戦争になりかねない。
そんな気もしていたからだ。
「誰が、大地母神の聖女を選んだか。
そう言われたな、ハーミア殿。
それは、大地母神ではなく竜神ではないのか?」
ハーミアの表情が凍り付いた。
なぜそのことを知っているの、そういう視線を向けないように不敵に笑うしかなかった。
「さあ、どうでしょうか、魔王様。
もしそうだとして、何か不都合でも?」
「不都合は何もない。
夫婦であるあの二神が相談して決めたのだから、文句もない。
ただそれが、そなたになった。
それが問題だ。
一つ、面白い話をしよう」
魔王は席を立つと階下のハーミアの前に歩みより、そっと囁いた。
それは、ハーミアの中に残っていた理性の欠片。
そう、冬の寒空の中に一枚だけ残っていた葉っぱが大地に落ちるように。
抑え込んでいた竜族としての力を、怒りを‥‥‥暴走させた。
「そなたの夫は、わしの手の中にいるぞ。
女公爵殿」
魔王は誰にも聞こえないほどの密やかな声でそう言い、ある場所を指差す。
カーテンで仕切られていたその場の幕が降りた時。
ハーミアだけではなく、その場にいた家臣たちも驚愕の声を上げずにはいられなかった。
「だ‥‥‥っ、旦那様!!??」
「うそっ!?
だって、あの時ーー」
「ありえん、そんなはずはー‥‥‥!!!???」
そこにいた。
いや、あるのは二本の透明な柱。
その内部は透明な液体が注がれていて、二体の竜と魔族が入っていた。
身体中に細かいチューブが繋がれていて、それはまるで‥‥‥生物標本のようにも見えた。
前クルード公爵スィールズ、そして、前四大魔将の一人、ルゲル大将軍。
その二人が、そこにはいた。
「スィールズ‥‥‥」
人間の姿から勇壮な竜へと戻った時のあの美しい姿。
雄々しい竜族の英雄。
そして、ただ一人。
自分が愛を捧げた相手が‥‥‥そこにはいた。
ああ、もう無理だ。
逃げなさい、あんんたたち。
もう、抑えきれないーー
ハーミアは短く叫んでいた。
「貴様‥‥‥、魔王、貴様ーーーー!!!」
その瞬間、謁見の広間にいた全員が恐怖するほどの威圧がハーミアから生まれた暴風に乗り心を殺していく。
その威力は魔王ですら怯むほどだった。
そして、次に起こるのは魔力の暴走だ‥‥‥この城程度、崩壊させかねない。
それほどに強大な魔力の暴走が始まろうとしていた。
「愚か者!!
夫を殺す気か!!」
しかし。
魔王のその一喝がハーミアを現実へと引き戻す。
ついでに荒れ狂ったはずの魔力の暴走による暴風は、魔王の軽い腕の一振りで消えてしまった。
「‥‥‥そんな。
わたしの、あの溜め込んだ力ですら‥‥‥???」
ハーミアはその場に座り込んでしまう。
ごめんなさい旦那様。
仇をーー仇を討てませんでした!
少女は悔しさに大粒の涙を流していた。
「誤解をしすぎだ、ハーミア殿。
あの相討ちの後、遺骸はなかったであろう?
わしが転送したのだ、この場にな。
我が子であるルゲルも、クルード前公爵も。
死なすには惜しい御仁だった。
いいか、まだ生きているのだ。
いまは眠っている。しかし、数年後には再生が終わる。
魔族はお主の敵ではない!!」
魔王はそう叫んだ。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか
あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。
「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」
突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。
すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。
オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……?
最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意!
「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」
さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は?
◆小説家になろう様でも掲載中◆
→短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます
追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜
三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。
「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」
ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。
「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」
メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。
そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。
「頑張りますね、魔王さま!」
「……」(かわいい……)
一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。
「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」
国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……?
即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。
※小説家になろうさんにも掲載
【完結】公爵家のメイドたる者、炊事、洗濯、剣に魔法に結界術も完璧でなくてどうします?〜聖女様、あなたに追放されたおかげで私は幸せになれました
冬月光輝
恋愛
ボルメルン王国の聖女、クラリス・マーティラスは王家の血を引く大貴族の令嬢であり、才能と美貌を兼ね備えた完璧な聖女だと国民から絶大な支持を受けていた。
代々聖女の家系であるマーティラス家に仕えているネルシュタイン家に生まれたエミリアは、大聖女お付きのメイドに相応しい人間になるために英才教育を施されており、クラリスの側近になる。
クラリスは能力はあるが、傍若無人の上にサボり癖のあり、すぐに癇癪を起こす手の付けられない性格だった。
それでも、エミリアは家を守るために懸命に彼女に尽くし努力する。クラリスがサボった時のフォローとして聖女しか使えないはずの結界術を独学でマスターするほどに。
そんな扱いを受けていたエミリアは偶然、落馬して大怪我を負っていたこの国の第四王子であるニックを助けたことがきっかけで、彼と婚約することとなる。
幸せを掴んだ彼女だが、理不尽の化身であるクラリスは身勝手な理由でエミリアをクビにした。
さらに彼女はクラリスによって第四王子を助けたのは自作自演だとあらぬ罪をでっち上げられ、家を潰されるかそれを飲み込むかの二択を迫られ、冤罪を被り国家追放に処される。
絶望して隣国に流れた彼女はまだ気付いていなかった、いつの間にかクラリスを遥かに超えるほどハイスペックになっていた自分に。
そして、彼女こそ国を守る要になっていたことに……。
エミリアが隣国で力を認められ巫女になった頃、ボルメルン王国はわがまま放題しているクラリスに反発する動きが見られるようになっていた――。
地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ
タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。
灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。
だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。
ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。
婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。
嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。
その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。
翌朝、追放の命が下る。
砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。
――“真実を映す者、偽りを滅ぼす”
彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。
地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
【完結】大聖女は無能と蔑まれて追放される〜殿下、1%まで力を封じよと命令したことをお忘れですか?隣国の王子と婚約しましたので、もう戻りません
冬月光輝
恋愛
「稀代の大聖女が聞いて呆れる。フィアナ・イースフィル、君はこの国の聖女に相応しくない。職務怠慢の罪は重い。無能者には国を出ていってもらう。当然、君との婚約は破棄する」
アウゼルム王国の第二王子ユリアンは聖女フィアナに婚約破棄と国家追放の刑を言い渡す。
フィアナは侯爵家の令嬢だったが、両親を亡くしてからは教会に預けられて類稀なる魔法の才能を開花させて、その力は大聖女級だと教皇からお墨付きを貰うほどだった。
そんな彼女は無能者だと追放されるのは不満だった。
なぜなら――
「君が力を振るうと他国に狙われるし、それから守るための予算を割くのも勿体ない。明日からは能力を1%に抑えて出来るだけ働くな」
何を隠そう。フィアナに力を封印しろと命じたのはユリアンだったのだ。
彼はジェーンという国一番の美貌を持つ魔女に夢中になり、婚約者であるフィアナが邪魔になった。そして、自らが命じたことも忘れて彼女を糾弾したのである。
国家追放されてもフィアナは全く不自由しなかった。
「君の父親は命の恩人なんだ。私と婚約してその力を我が国の繁栄のために存分に振るってほしい」
隣国の王子、ローレンスは追放されたフィアナをすぐさま迎え入れ、彼女と婚約する。
一方、大聖女級の力を持つといわれる彼女を手放したことがバレてユリアンは国王陛下から大叱責を食らうことになっていた。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる