殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
26 / 79

秘密の聖女様、魔王と共謀する件 6

しおりを挟む
「ふむ。
 ではシェイブや。
 二人で楽しんでおいで。
 くれぐれも、御婦人に失礼のないようにな?」

 エリーゼの喉元から顔を上げた、若き王子の口元には赤い血の跡がついていた。
 彼はそれをハンカチで拭き、エリーゼの喉元を拭きあげてやる。
 どこか申し訳なさそうな視線を、新たに妻となった大地母神の大神官に向けていた。

「はい‥‥‥父上――」
 
 まるでここまですることはないではないですか。
 そう言いたそうなそぶりで、しかし仕方なく妻を抱きかかえ少年はその場を後にする。
 美しい、とその寝顔を見ながら‥‥‥
 魔王は息子夫婦の後ろ姿を見送ると、さて、と元の椅子へと踵を返した。

「それでは、グラン殿。
 国王がそれでは、そなたの方が話が早かろう?
 代理で答えてもらいたい。
 ああ、そうだ――」

 もちろん、帰国までの安全は保証する。
 先にそれを言い渡すのを忘れていた。
 この策謀好きな魔王は、今頃になってそんなことを言いだした。

(あれだけの怒りを御主人様から引き出させておいて、その宣言、か。
 なにをしてもかなわないのを思い知らせた上での提案。
 もう序列は誰が上で誰が下か。
 決まったようなものだ)

 グランは思案する。
 一番、為すべきことはハーミアだけでも生きて逃がすことだ。
 隣にいるレベッカもその意図を読み取ったらしい。
 さて、どこまで譲歩させれるか‥‥‥
 宰相の腕の見せ所だな。
 グランは、ハーミアをレベッカに委ねると侍女たちを引かせて前に進み出た。

「魔王様、宰相を務めさせていただいております。
 グランと申します。どうかお見知りおきを。
 我が国の主の代理として、発言の許可を頂きたく‥‥‥」

「許可する。
 で、そちらからの提案の鉱山亜人奴隷三千人、大神官三名。
 魔王子のこのエリーゼの婚約。
 それと、辺境国の安全。
 だったな」

「はい、閣下。
 左様でございます」

 ふむ。それだけでは足りんな、そう魔王は呟く。
 大広間の奥にいる、二体の眠る英雄たちを見ながら。

「そう、我が国と同盟国にはならんか?
 それが良いではないか。
 関係性は対等に。
 合間を通過する際は通行税でも取ればよい。
 その代わり――」

「魔王軍の精鋭軍の駐留、でございますか‥‥‥」

「察しがいいな、宰相殿。
 その御主君をより良く教育して差し下げるがいい。
 わしが二年前に進軍したのは娘の為だけではない、大地母神の力では魔界との蓋を抑えきるのは無理だ。
 大量のブラウディア鉱石があるというならば、それもまた良い。
 我が神官たちの力を増すことになる――」

 グランはどうしても理解出来なかった。
 この魔王はこれほどの力と国力があるのに‥‥‥。
 なぜ、地下世界の侵略や地下世界の同胞を呼び寄せて地上世界を把握しないのか、そういう疑問だ。

「閣下‥‥‥なぜ、蓋にこだわりをもたれるのですか??」

 魔王は素直に、そう。
 あまりにも素直に答えた。

「決まっておるだろう。
 この大陸以外にも魔族はいる。
 この魔都ははぐれ者の集まりだ。魔族、エルフ、亜人、人間、竜族。
 なぜ、この宮殿までの間に兵を置かなかったか気づいていないようだな?
 この魔都には、竜神も、大地母神も、精霊王の神殿すらもある。
 平和に住んでいるこの世界を、誰が壊したいと思うか」

 と。

しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

虐げられた聖女は精霊王国で溺愛される~追放されたら、剣聖と大魔導師がついてきた~

星名柚花
恋愛
聖女となって三年、リーリエは人々のために必死で頑張ってきた。 しかし、力の使い過ぎで《聖紋》を失うなり、用済みとばかりに婚約破棄され、国外追放を言い渡されてしまう。 これで私の人生も終わり…かと思いきや。 「ちょっと待った!!」 剣聖(剣の達人)と大魔導師(魔法の達人)が声を上げた。 え、二人とも国を捨ててついてきてくれるんですか? 国防の要である二人がいなくなったら大変だろうけれど、まあそんなこと追放される身としては知ったことではないわけで。 虐げられた日々はもう終わり! 私は二人と精霊たちとハッピーライフを目指します!

追放聖女の再就職 〜長年仕えた王家からニセモノと追い出されたわたしですが頑張りますね、魔王さま!〜

三崎ちさ
恋愛
メリアは王宮に勤める聖女、だった。 「真なる聖女はこの世に一人、エミリーのみ! お前はニセモノだ!」 ある日突然いきりたった王子から国外追放、そして婚約破棄もオマケのように言い渡される。 「困ったわ、追放されても生きてはいけるけど、どうやってお金を稼ごうかしら」 メリアには病気の両親がいる。王宮で聖女として働いていたのも両親の治療費のためだった。国の外には魔物がウロウロ、しかし聖女として活躍してきたメリアには魔物は大した脅威ではない。ただ心配なことは『お金の稼ぎ方』だけである。 そんな中、メリアはひょんなことから封印されていたはずの魔族と出会い、魔王のもとで働くことになる。 「頑張りますね、魔王さま!」 「……」(かわいい……) 一方、メリアを独断で追放した王子は父の激昂を招いていた。 「メリアを魔族と引き合わせるわけにはいかん!」 国王はメリアと魔族について、何か秘密があるようで……? 即オチ真面目魔王さまと両親のためにお金を稼ぎたい!ニセモノ疑惑聖女のラブコメです。 ※小説家になろうさんにも掲載

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

婚約破棄されましたが、おかげで聖女になりました

瀬崎由美
恋愛
「アイラ・ロックウェル、君との婚約は無かったことにしよう」そう婚約者のセドリックから言い放たれたのは、通っていた学園の卒業パーティー。婚約破棄の理由には身に覚えはなかったけれど、世間体を気にした両親からはほとぼりが冷めるまでの聖地巡礼——世界樹の参拝を言い渡され……。仕方なく朝夕の参拝を真面目に行っていたら、落ちてきた世界樹の実に頭を直撃。気を失って目が覚めた時、私は神官達に囲まれ、横たえていた胸の上には実から生まれたという聖獣が乗っかっていた。どうやら私は聖獣に見初められた聖女らしい。 そして、その場に偶然居合わせていた第三王子から求婚される。問題児だという噂の第三王子、パトリック。聖女と婚約すれば神殿からの後ろ盾が得られると明け透けに語る王子に、私は逆に清々しさを覚えた。

婚約者を奪われるのは運命ですか?

ぽんぽこ狸
恋愛
 転生者であるエリアナは、婚約者のカイルと聖女ベルティーナが仲睦まじげに横並びで座っている様子に表情を硬くしていた。  そしてカイルは、エリアナが今までカイルに指一本触れさせなかったことを引き合いに婚約破棄を申し出てきた。  終始イチャイチャしている彼らを腹立たしく思いながらも、了承できないと伝えると「ヤれない女には意味がない」ときっぱり言われ、エリアナは産まれて十五年寄り添ってきた婚約者を失うことになった。  自身の屋敷に帰ると、転生者であるエリアナをよく思っていない兄に絡まれ、感情のままに荷物を纏めて従者たちと屋敷を出た。  頭の中には「こうなる運命だったのよ」というベルティーナの言葉が反芻される。  そう言われてしまうと、エリアナには”やはり”そうなのかと思ってしまう理由があったのだった。  こちらの作品は第18回恋愛小説大賞にエントリーさせていただいております。よろしければ投票ボタンをぽちっと押していただけますと、大変うれしいです。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

処理中です...