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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 17
しおりを挟むなかなか察しがいいな、サーラ。
そう言い、彼は侍女の頭を片手で撫でてやり、返事をする。
「そういうことだ。
竜王は魔王と親しい。
だが、あの竜神の転生で竜王は変わってしまった。
まるで別人のようにな‥‥‥それからだ。
帝国と竜族の戦いが終わり皮肉にも平和な時代が訪れたのは。
何より、魔王は地上世界でまだ数百年だが。
地下世界では数万年を生きているぞ?
いや、地上におり、地下に一万年少し前に降り立った。
そういうべきかな?
あれは始まりの魔族の一人だ」
「えーと‥‥‥???
そうなると、まさかの魔神様より神格は上?
魔王様の方が!?」
「まあ、そうなるな。
わしら八竜も同じく。
竜神が来た頃には眠っていただけだ」
うーん?
なにもかもがひっくり返ってきたようなー‥‥‥?
サーラは頭が煮詰まっていきそうな感覚を覚えてきた。
それなら、魔王は魔神より上で、八竜は竜神より上で。
なら、それぞれが魔族と竜族に号令を‥‥‥あれ?
「あの、先々代様?
もしかして、竜神様の転生が、すべてを狂わした?
八竜の古老の方々は既に竜族の主だった者たちに命じている?
魔王様も地下の魔族に、いえ二十四の魔王に命じている?」
「かもしれんな?
地下世界が二十四の魔王により平和になってから二千年近く。
誰がいまさら戦争などしたいものか。
魔神が蓋になり、大地母神が消えても地下世界が存続できるように尽力したのはその為だ。
魔王は、それに対する脅威を払っていたに過ぎん」
なぜだろう?
サーラの理解できる範囲では‥‥‥現竜王とその部下と帝国は神々に牙を向いているように見えた。
それも、竜族全体ではない。
竜王とその親しい配下だけ。
まるで、彼は革命を起こそうとしているかのように思えるのは、なぜだろう?
サーラと共にハーミアもまた、その問題点に気づき始めていた。
「おじい様、もし大地母神様の肉体が復活した時。
魔神様の肉体は消滅し‥‥‥蓋はなくなります。
でも、大地がそのまま消えるとも思えない。
あの大地はどこに行くのですか?」
そして、人類最大国家たる帝国はどうなるのですか?
ハーミアは竜神の未来図が少しだけ見えた気がした。
天空大陸の再建、竜族の再興、妻の復活。
そして、帝国は傀儡国家として――魔族を相手に戦争を始める。
今度は、地下世界の魔族相手に。
竜神の心にあるのは慈愛とかそんなものじゃない。
妻をここまで酷い目に合わせた者たちへの――復讐、なのだ、と。
「さて、ハーミアはそろそろ気付いたかな?
スィールズと竜王は、英雄ではない。
竜族に対する、反乱分子だということに」
「そんな、そんな――!!??
だって、王なのに!!
わたしの夫なのに―‥‥‥!!!」
まだ、夫と言うのかその口は。
呆れてものが言えんわ。
レグルスとサーラは顔を見合わせる。
「では、お前はなにか、ハーミアよ?
夫に従順たる妻として。
その反乱に加担するのか?
それとも、間違いを正すためにあれの頬を殴りつけてでも、改心させるのか?
だが、その前にするべきことがあるのではなかったか、孫や?
帝国の共謀者殿に連絡すらつかないのであろう?」
「あーっ、だってあんな強固な壁を張り巡らされた日には‥‥‥」
「まあ、そうであろうな。
だから、頼んでおいたぞ」
頼んでおいた?
一体、誰に?
ハーミアは怪訝な顔をする。
彼女の祖父は不敵な笑みを浮かべた。
「まあ、竜や人ではないかもしれんが。
古き友だ。
どうにか良くしてくれるだろう」
多分、な?
一抹の不安はあるが、任せるしかない。
それだけは、孫に明かさないレグルスだった。
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