殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、大公閣下と共謀する件 19

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 その気配に最初に気づいたのは、女暗殺者の一人。
 まだ若く、年齢は十三、四歳。
 毒紙のアイニと呼ばれてる、金髪の女暗殺者だった。
 アイニは自分で毒素を作り出しそれにて標的を殺すことができた。
 人ではないが、魔族でもない。
 半端な存在として、はるかな東の果ての地で生まれ、暗殺者として育てられた心に闇しか持たない。
 そんな少女だった。

 暗殺者は暗殺にしくじれば、死あるのみ。
 そこに、一条の光明を与えたのは誰でもない自分がしくじった標的、ザイール大公だった。
 おじさまと親しみを込めて、アイニはザイール大公の寝所にも忍び込む。
 しかし、相手にされることはなく。
 他の数人の女暗殺者とこの一月、憧れの大公の心を奪おうと争奪戦を水面下で繰り広げていた。
 そして、夜。
 広い大公の寝所には、その腕枕を得ようと一時休戦の後にくじ引きで左右の腕が得られる。
 今夜は右腕にアイニはありつくことが出来た。
 困るのは大公であり‥‥‥

「せめて、寝かせてもらえんかなあ‥‥‥」
 
 なんて、ぼやきを言えたのも最初の数日。
 その後は、もう借りてきた猫のようになり、単なるぬいぐるみとして大公は諦めて寝ることにしていた。
 そのアイニが、ぴくりと反応した。
 そして、大公もまた何かを感じ取っていた風情。

「来たのか?」

「ええ、おじさま。
 ぼくの遥かなる祖先。
 真の魔が‥‥‥動かないで。
 守り切れるかわからないけど――」

 アイニはその毒素を塗りこめた剣を引き抜く。
 しかし、それは大公によって鞘に戻されてしまった。

「おじさま!!?」

 ザイール大公はアイニやその他の女暗殺者たちをそっとベッドから起こすと、

「これはわしの戦いよ。
 刺客が恐くて大公などできんわ。
 控えておれ、アイニ」

 そう言い含められ、彼女たちは渋々とそれに従った。
 しかし――

「長いな?」

「入って来ませんね?」

「なにを話してるんだろ?
 こう距離があっちゃねえー‥‥‥?」

 他の女暗殺者がそうぼやいている中で、アイニだけは彼等の会話が聞こえていた。
 その名前を耳にして、少女に湧き上がるのは果てしない恐怖。
 ただ、それだけだった。
 大公はアイニを抱き寄せると、そっと頭を撫でてやる。

「聞こえるのか?」

 アイニはコクン、とうなづいた。

「半魔ですから、ぼくは‥‥‥。
 勇者アシュリーと魔王エリス。
 二十四柱の魔王のなかでも五本の指に入る魔王と、世界最強の‥‥‥伝説の邪神殺しの勇者。
 もし、いま聞こえた名前が本物を示していれば、だけど」

 大公は困ったな。
 そんな顔つきになる。
 それほどの英雄には、叶う自信がない。
 さて、どうしてこの者たちやその配下にある新たな家臣を守ったものか。
 これは困ったのう‥‥‥
 そう、ぼやいていた。

「まあ、話に来たのかそれとも暗殺か。
 気配からは戦うものは感じれんがな‥‥‥」

 そして、静かにバルコニーの扉が開くと彼等はゆっくりと室内に入りこんできた。

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