殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
51 / 79

秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 1

しおりを挟む
 さて、これでどうにか半々か。
 そう呟いたのは誰でもない、魔都グレインスケーフに座する魔王フェイブスタークその人だった。
 その眼前には、同じく魔王に名を列するエリスが一人、例のザイール大公から仕入れた魔導兵器を披露していた。

「雷帝の園と紅蓮の王。対竜族への人類の決戦兵器‥‥‥か。
 すでに製法すら失われたと思っておったがの?」

「あのねえ、フェイブスターク。
 まあ、様をつけるべきなんだろうけど。
 地下世界じゃあ、あのフェイブスタークが新たに戦を始めるらしいぞ。
 なんてもっぱらの噂なんですけど?
 うちはあの蓋の真下にあるから協力するけど。
 アリス・ターナーの最果ての地を守る青の魔人様はあまりいい顔をしてなかったわよ?」

 こんな物騒なもの、地上から投げ込まれた日には、うちの国は壊滅してしまうわよ、まったく。
 エリスはそうぼやいていた。
 
「で、こんなものどうする気なの?
 まさかあの帝都と竜王の城に転送するとか考えてないわよねえ?
 海底のリアルエルム様も、あの邪神を抑えるのに精一杯だって話だし。
 暗黒神ゲフェトは大陸の移動を止めるためにはるかな地下から上がることはできず。
 もう、誰もいないじゃない‥‥‥あんな、強大な力を振るう神を止めれる存在なんて、ね?」

「おいおい、そんなことをすれば世界の魔族が一瞬にして、竜と人、その他の種族から狙われるではないか?
 いまだに帝国は人類世界の盟主。
 そして、反乱分子とはいえ竜王はまだその地位に健在とある。
 まあ、母上と父上は争いを望んではおらんようだがな‥‥‥」

 母上と父上、ねえ?
 そんな存在、あなたにとってははるかな年下の存在じゃない。
 エリスは呆れてしまった。

「氷の女王と魔神を父母と慕うのはいいけど。 
 なら、なぜその名前を名乗っているの、フェイブスターク様?
 その名は、数万年まえに異界より来た三人の魔族。
 ルシールにエミュネスタ、その父親たる神でもある魔族の王の‥‥‥名前じゃない」

「ほう?
 知っておるのか?」

「知っているも何も‥‥‥あなたの娘が。
 ルシールは千年前にはるかな過去から転生し、愛した男と共に死んでいったわよ。
 大事な仲間を巻き添えにしてね‥‥‥。
 あの二人がまだ生きていれば、いまの竜神だって倒せたのに。
 あなたは何をしていたのよ?」

「そうか、ルシールがの‥‥‥。
 あれもここに戻っていたか。
 我も同じよ。
 目覚めるまでに時間がな。
 あの『万騎の王』の。最高神の結界のおかげで目覚めるのに時間がかかったわ」

 あなたも転生組なんだ‥‥‥?
 エリスはまた知らなくてもいい事実に触れてしまった。
 そんな顔になる。

「で、これだけど?
 信管が抜かれているというか、中にないわよ?
 多分、あの二人。
 ハーミアと侍女の胎内にあったものも、起爆命令を発したところで爆発しなかったんじゃない?
 そこで意識だけはまともに起きている、間抜けな竜族がどうがんばってもね?」

 エリスはスィールズを見て愚かねこの男は、そう嘲笑する。
 己の妻ですら兵器にするなんて。

「生かしている理由がわからないわよ、フェイブスターク?
 まさか、竜族の勇者なんて理由で再生させてるんじゃないわよね?」

 まさか?
 魔王フェイブスタークは居並ぶ家臣や我が子らの前で不敵に微笑んだ。

「これは見せしめ、よ。
 魔王エリス殿。
 スィールズにルゲル。
 あの場での死闘に見せかけた愚かな戦いなどなんと見苦しかったことか。
 再生した後は、魔界にでも送るとしよう。
 そなたの下ででも、教育してもらうかの‥‥‥」

 あなた、そこまで命持つの、フェイブ?
 これが最後の挨拶になるかもしれないわね。
 エリスはなんとなく、そう予感していた。
 そして、彼の氏族、血族にはまだ王にふさわしい存在が誕生していないことも‥‥‥エリスは気付いていた。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

処理中です...