殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

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秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 6

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「あの結界は大地母神の神官の技法ではない、か‥‥‥」

 玉座に座り込み思案する魔王の前には、この二年近くの変わらない息子と仇敵。
 そして、相変わらずの家臣団の無難に過ごそうという面々が集まっている。
 これでもこの魔都と世界とを繋ぐ有能な家臣団ではある。
 ただ、次代の魔王になりうるべき、抜きんでた魔力は‥‥‥

「この数百年。
 いや、上にでて千年か。
 最初に生まれたあの子以上の魔力の持ち主は現れず、さてー‥‥‥」

 両隣に控える、右大臣、左大臣に視線を向けるが彼等もまだ二百年足らず。
 政務・軍務は任せれる。
 その先にあるものをどうしたものか。

「のう、この都の大地母神の神殿でも、シェイブの眷属たる新たなあれの妻に聞いても‥‥‥。
 エミスティアの結界は大地母神のものでは無いという。
 さて、どう思う?」

「魔王様でも解けない代物、そういうことでございますか――」

「いや、解けぬことはない。
 ただ――」

「ただ?
 なんでしょう、陛下」

「解いた時にあれがまともである、そういう保証はない。
 さて、どうするかな。
 のう、バジェスの姫?」

 魔王の視線ははるかな太古からの旅人に向けられていた。
 あの魔神や竜神が消滅したあとに生まれた魔族であり、空の覇者とも呼ばれた重力を操る一族の最後の生き残り。
 英雄王と呼ばれたラードリーの妻であり、一万年を越えて彼等を未来に導いた魔女であり――

「古くは真紅の魔女ミレイア、か。
 あの聖者サユキすらも退けたかもしれないあなたなら、どうなさる?」

 黒髪に青い瞳の人間にしか見えない少女は、十二英雄の一人。
 愛する夫は異世界、地球に戻りただ一人、残された無為の時間を過ごしていた。
 その腰に、彼の忘れ形見である神剣を携えて、魔女は宙に浮いている。

「さあ?
 どうしようもないんだよ。
 あれからは時間も何もかもが違う。
 カイネ神が時空の断裂を作り上げたことで、魔神と竜神はそれ以前の時間軸には戻れなかった。
 でも、誰も知らないんだよ、魔神と竜神が‥‥‥十二英雄の中にいたことは」

「そういえば、あの二神は人間に転生していたのだったな。
 消滅してからたかだか数百年で再生か。
 恐るべき力よな‥‥‥。
 自分の娘や息子の神を討つべく一万の時間を越えてきた。
 それも興味深い話だがの?」

 魔女はじろりと魔王をにらみつけた。
 その力は全盛期のフェイブスタークに負けるとも劣らない。
 こんな連中が、まだ地下には三十を越えるほどにいるというのに。
 人間と竜族の考えの足らなさに、魔王は嘆息した。

「うるさいんだよ、フェイブスターク。
 エリスからあなたも転生者だと聞いたんだよ‥‥‥。
 転生する前のあなたのことを、誰も知らないとでも?
 ルシールから‥‥‥あなたの娘から全部聞いてるんだよ。
 あなたはこの世界にやってきた異界の魔神。
 それも、いまいるどの神よりも強大な力を備えていた。
 その力はどこにいったの?」

 あの力、な?
 第三位の神の力。
 それがあれば、こんなに苦労などせんわ。
 魔王は卑屈気に笑ってしまう。

「それな。
 お主の夫のいる世界の義理の息子に渡してしもうたわ。
 あの世界、地球にも魔族はいたのでな」
 
「はあ‥‥‥あなたもそう。
 ラードリーもそう。
 この世界には揉め事が多すぎるんだよ。
 まるで、何かの入り口に存在しているようなんだよ‥‥‥」

 完全なる破滅の入り口にこの世界はあるような気がしてならない。
 そう、魔女は呟いた。

「ま、それも間違いではないがな。
 この魔都の足元にあるあれを起動し、天空大陸を浮かべれば‥‥‥その扉は開くぞ、魔女殿」

「そこまで知っての魔都の建設、そして魔神との契約。
 フェイブスターク。
 あなたは虚無を呼び込みたいの、それとも封印を続ける気なの?
 どちらにしても、犠牲は救われないんだよ」

 このクリスタル。
 あなたの娘を解放するなら、この神剣で斬ればそれはかなうんだよ。
 でも、と魔女は言葉に詰まる。

「いまはあんなになった竜神はかつての仲間。
 青の聖騎士として、多くの虚無を呼び寄せようとした邪神をわたしたちは消滅させた。
 一万数千年前に。できることなら」

「かつての妻との逢瀬を叶えてやりたい、か?」

 しかし、それには帝国や竜族、地上の魔族といったなにかが犠牲になる。
 魔王はそれを見過ごす気にはなれず、それはこの古代の英雄たちと刃を交える可能性も示唆していた。

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