殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
57 / 79

秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 7

しおりを挟む
 フェイブスタークと魔女の会話はその場にいた全員に伝わっていた。
 誰もがそのようなことよりも、次代の魔王は誰なのか。
 その点に関心を示していた。
 目の前にはクリスタルに封じられた魔王の長女エミスティアと、再生の終了を間近に控えたルゲルがいる。
 魔女はエミスティアの結界と解けるといい、その力をもってるすればルゲルの再生も加速できるかもしれない。
 そんな、期待感をその場にいる臣下や魔王の親族に与えていたからだ。
 何よりも、千年も昔に活躍した十二英雄だの、影の六王だの‥‥‥。
 そんな伝説の存在が目の前にいることに、彼等は興奮を覚えていた。
 
「陛下、それでは国外。
 他の大陸にある属領に関しましてはどのように?」

 皮肉にも、その場にいる一同のなかで情勢を見極め、静かに判断をできているのは魔王の親族ではない。
 右大臣・左大臣だったことに、魔王は諦めに似た焦燥感を覚えていた。
 自分のかつての能力。
 この世界、エル・オルビスにいる誰よりも偉大だった神の力を受け継ぐ者は出てこず彼という柱を失えば地上の魔族の団結は瓦解するだろう。

「さて、あの子がどこまで成長するかだが‥‥‥」

「は?
 あの子?
 エミスティアの結界の件でございますか?」

 右大臣が不思議な顔をする。
 ああ、いやなんでもない。
 地下へと逃がしたシェイブ夫妻。
 彼等にだけ次期魔王と伝え、エリスの元へと逃がしたが果たして相応しい能力。
 もしくは才覚を発揮するかは謎だった。

「最果ての地を過ぎ、母上の元へ。
 さらに最奥の暗黒神ゲフェトの元へ行けば‥‥‥地上の力からの解放はされるはず。
 あのハーミア殿の暴威、そしてそれを打ち消した我が一撃から――」

 最初に立ったのはあの子だけではなかった‥‥‥?
 ふと、魔王の視線は居並ぶ臣下の列の一番後ろ。
 そこに立つ、ハーミアの部下たちに行く。その中にいるあの宰相、グランと言ったか。
 あれもまた、シェイブと変わらないタイミングで立ち上がったはず。
 あの時は芯の強い者だという印象だったが、いまとなっては何か引っかかる。
 二年前の侵攻の時もそうだ。
 ルゲルとスィールズは前より通じ合っていた。
 竜王の腹心の部下を演じながら、スィールズは虚竜レグルスとの連絡役として魔族・竜族双方の二重スパイを演じていたのだ。
 それが、あの紅蓮の王により焼かれ、いまここにいる。
 本当に敵はー‥‥‥誰だ?

「右大臣、国外。
 特に海外に関しては同盟国と共に歩むように。
 この魔都はこの大陸の竜族との決戦の地になるかもしれん。
 だが、その余波を及ぼすわけにはいかん。
 魔都の住人たちも随時、転移魔法・転送魔法により脱出を急がせよ。
 お前たちもな‥‥‥」

「陛下!?
 それではまるで陛下、御自身だけが残られる。
 そのように――」

「そのようにではなく、そうする。
 ルゲルもスィールズも、そこにいるバジェスの姫と――」

 魔王は目立たないように魔女の後ろに佇む、金髪の若い人間の男性を見た。

「勇者オーウェン殿に頼み、地下の魔王エリスの国にて保護してもらう。
 移動できない者、我が親族は地下へと移動するがいい。
 魔神殿の結界がある限り、安全に過ごせるだろう」

「陛下、彼等の助勢はもう頼めないと、そう仰せですか?
 十二英雄に、影の六王。
 それだけの加勢があれば竜族との決戦とて‥‥‥」

 左大臣は負けることなく戦えるはずだ。
 軍務をつかさどる彼の見解はある意味正しかった。
 ただ――

しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか

あーもんど
恋愛
聖女のオリアナが神に祈りを捧げている最中、ある女性が現れ、こう言う。 「貴方には、これから裁きを受けてもらうわ!」 突然の宣言に驚きつつも、オリアナはワケを聞く。 すると、出てくるのはただの言い掛かりに過ぎない言い分ばかり。 オリアナは何とか理解してもらおうとするものの、相手は聞く耳持たずで……? 最終的には「神のお告げよ!」とまで言われ、さすがのオリアナも反抗を決意! 「私を断罪するのが神のお告げですって?なら、本人を呼んでみましょうか」 さて、聖女オリアナを怒らせた彼らの末路は? ◆小説家になろう様でも掲載中◆ →短編形式で投稿したため、こちらなら一気に最後まで読めます

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら
恋愛
「魔力がないから不要だ」――長年尽くした王太子にそう告げられ、侯爵令嬢アリアは理不尽に婚約破棄された。 すべてを失い、社交界からも追放同然となった彼女を拾ったのは、「氷の公爵」と畏れられる辺境伯レオルド。 彼は戦の呪いに蝕まれ、常に激痛に苦しんでいたが、偶然触れたアリアにだけ痛みが和らぐことに気づく。 アリアには魔力とは違う、稀有な『浄化の力』が秘められていたのだ。 「君の力が、私には必要だ」 冷徹なはずの公爵は、アリアの価値を見抜き、傍に置くことを決める。 彼の元で力を発揮し、呪いを癒やしていくアリア。 レオルドはいつしか彼女に深く執着し、不器用に溺愛し始める。「お前を誰にも渡さない」と。 一方、アリアを捨てた王太子は聖女に振り回され、国を傾かせ、初めて自分が手放したものの大きさに気づき始める。 「アリア、戻ってきてくれ!」と見苦しく縋る元婚約者に、アリアは毅然と告げる。「もう遅いのです」と。 これは、捨てられた令嬢が、冷徹な公爵の唯一無二の存在となり、真実の愛と幸せを掴むまでの逆転溺愛ストーリー。

【完結】追放された大聖女は黒狼王子の『運命の番』だったようです

星名柚花
恋愛
聖女アンジェリカは平民ながら聖王国の王妃候補に選ばれた。 しかし他の王妃候補の妨害工作に遭い、冤罪で国外追放されてしまう。 契約精霊と共に向かった亜人の国で、過去に自分を助けてくれたシャノンと再会を果たすアンジェリカ。 亜人は人間に迫害されているためアンジェリカを快く思わない者もいたが、アンジェリカは少しずつ彼らの心を開いていく。 たとえ問題が起きても解決します! だって私、四大精霊を従える大聖女なので! 気づけばアンジェリカは亜人たちに愛され始める。 そしてアンジェリカはシャノンの『運命の番』であることが発覚し――?

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

【完結】薬学はお遊びだと言われたので、疫病の地でその価値を証明します!

きまま
恋愛
薄暗い部屋の隅、背の高い本棚に囲まれて一人。エリシアは読書に耽っていた。 周囲の貴族令嬢たちは舞踏会で盛り上がっている時刻。そんな中、彼女は埃の匂いに包まれて、分厚い薬草学の本に指先を滑らせていた。文字を追う彼女の姿は繊細で、金の髪を揺らし、酷くここには場違いのように見える。 「――その薬草は、熱病にも効くとされている」 低い声が突然、彼女の背後から降ってくる。 振り返った先に立っていたのは、辺境の領主の紋章をつけた青年、エルンだった。 不躾な言葉に眉をひそめかけたが、その瞳は真剣で、嘲りの色はなかった。 「ご存じなのですか?」 思わず彼女は問い返す。 「私の方では大事な薬草だから。けれど、君ほど薬草に詳しくはないみたいだ。——私は君のその花飾りの名前を知らない」 彼は本を覗き込み、素直にそう言った。 胸の奥がかすかに震える。 ――馬鹿にされなかった。 初めての感覚に、彼女は言葉を失い、本を閉じる手が少しだけ震え、戸惑った笑みを見せた。 ※拙い文章です。読みにくい文章があるかもしれません。 ※自分都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。 ※本作品は別サイトにも掲載中です。

処理中です...