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秘密の聖女様、ブチ切れて皇太子殿下をぶん殴る件 5
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「ああ、これですか?
わたしには大した能力はなく、出来るとすればこのような姿を変えることと、あなたにしてみせたような。
その喉元に付けていない傷跡を付けたように見せ、気を失わせる程度の幻覚の力だけですよ」
夫はいや、恥ずかしい。
そう若い妻に真実を放し始めた。
「あの場におわす兄上、姉上様たちは更に大いなる力をお持ちの上、父上は絶世の美女ともみまごうべき美男子。
臣下の間でも、子供の間でも父上に近づこうと美にうるさいのがいましてね。
あの姿が一番いいのです。目立つことは、派閥争いに巻き込まれる。
あなたを我が妻にと父上が望んだのも‥‥‥妙な危険にさらさないためです。
兄弟姉妹から無能とさげすまれているわたしの側にいれば、誰も気にしませんから」
そんな裏の事情があるとは露知らず、エリーゼはシェイブに侮蔑の視線を最初は投げかけていた。
そしてあれから一月。
彼は、肉体関係を迫ることも無く、ただただ彼女に不便な思いをさせないようにしてくれてい心がけていた。
淡い夫婦としての感情が芽生え始めた頃だ。
――魔王フェイブスタークは密やかに二人の元を訪れたのは。
シェイブが居を少しばかり留守にしていた頃。
その家の扉を叩く者がいた。
ここに来て一月。
来客なんて誰もいなかったのにー‥‥‥。
「はい、どなたですか?」
侍女も従僕すらもいない不便な生活。
だが、夫との距離を縮めるには良い環境だった。
エリーゼが扉を開いた時。
深くフードを被った人物は、その顔を彼女に晒し新妻は危うく悲鳴を上げそうになった。
「ま、魔王陛下‥‥‥!?
なぜ、このような場所に?」
おや、息子は不在か?
そう魔王は不思議そうな顔をすると、邪魔をするぞと室内に強引に入ってしまった。
いうなれば、この城全てが彼のもの。
エリーゼに拒否権はなかった‥‥‥
「まあ、なぜだと言われてもな。
息子夫婦の仲良い姿を見たかったというのもあるしー‥‥‥。
エリーゼ殿、そなたに聞きたいこともある。
まあ、あれの眷属というのは芝居のようだの?」
最近、覚え慣れた茶の淹れ方の作法通りに、義理の父親にそれを出し、エリーゼはびくりと肩をすぼめた。
「お見通し、で、ございますか‥‥‥?」
「いいや、見通しではないよ。
あの場では、我も騙されたようだ。
ふん、シェイブめー‥‥‥」
夫は罰せられる!?
この魔王の苛烈さ、その偉業の数々はエリーゼも伝説として知っていた。
「陛下、夫はなにも!
このエリーゼの為を思って――」
何故だろう、自分でもこの婚儀を嬉しくは思ってないのに。
エリーゼはシェイブを庇っていた。
そして魔王は面白そうに首を振る。
「そのようなこと、考えておらん。
ただ、あの子はあの暴威の前で最初に立ち、我の目すらも欺ける力を披露した。
その現実に喜んでいるだけじゃ。
さて、そろそろ戻ったようだな」
フェイブスタークは扉の方を見、そこには不意の来客に驚いている末子の姿があった。
これまで一度もこの東屋を訪れたことの無い父親のお忍びでの来訪。
それは言わずもがな‥‥‥
「父上、これは――まさか‥‥‥」
どうやら末子は末子だけでなく、一番先に立つに相応しい者であったのかもしれない。
魔王は嬉しそうに微笑み、そして、その本位を息子にだけ伝えた。
二人だけの、思念の会話。
それは端的な言葉で終わった。
次代の魔王はお前だ、シェイブ。
後見人には虚竜レグルスと魔王エリスがつく。
この地を離れ、地下世界へと行くがいい。
いずれ迎えが行くまで、エリスの下で暮らせ。
そう命じられ、シェイブ夫妻はその夜に地下世界。
魔王エリスの城へと向かった。
わたしには大した能力はなく、出来るとすればこのような姿を変えることと、あなたにしてみせたような。
その喉元に付けていない傷跡を付けたように見せ、気を失わせる程度の幻覚の力だけですよ」
夫はいや、恥ずかしい。
そう若い妻に真実を放し始めた。
「あの場におわす兄上、姉上様たちは更に大いなる力をお持ちの上、父上は絶世の美女ともみまごうべき美男子。
臣下の間でも、子供の間でも父上に近づこうと美にうるさいのがいましてね。
あの姿が一番いいのです。目立つことは、派閥争いに巻き込まれる。
あなたを我が妻にと父上が望んだのも‥‥‥妙な危険にさらさないためです。
兄弟姉妹から無能とさげすまれているわたしの側にいれば、誰も気にしませんから」
そんな裏の事情があるとは露知らず、エリーゼはシェイブに侮蔑の視線を最初は投げかけていた。
そしてあれから一月。
彼は、肉体関係を迫ることも無く、ただただ彼女に不便な思いをさせないようにしてくれてい心がけていた。
淡い夫婦としての感情が芽生え始めた頃だ。
――魔王フェイブスタークは密やかに二人の元を訪れたのは。
シェイブが居を少しばかり留守にしていた頃。
その家の扉を叩く者がいた。
ここに来て一月。
来客なんて誰もいなかったのにー‥‥‥。
「はい、どなたですか?」
侍女も従僕すらもいない不便な生活。
だが、夫との距離を縮めるには良い環境だった。
エリーゼが扉を開いた時。
深くフードを被った人物は、その顔を彼女に晒し新妻は危うく悲鳴を上げそうになった。
「ま、魔王陛下‥‥‥!?
なぜ、このような場所に?」
おや、息子は不在か?
そう魔王は不思議そうな顔をすると、邪魔をするぞと室内に強引に入ってしまった。
いうなれば、この城全てが彼のもの。
エリーゼに拒否権はなかった‥‥‥
「まあ、なぜだと言われてもな。
息子夫婦の仲良い姿を見たかったというのもあるしー‥‥‥。
エリーゼ殿、そなたに聞きたいこともある。
まあ、あれの眷属というのは芝居のようだの?」
最近、覚え慣れた茶の淹れ方の作法通りに、義理の父親にそれを出し、エリーゼはびくりと肩をすぼめた。
「お見通し、で、ございますか‥‥‥?」
「いいや、見通しではないよ。
あの場では、我も騙されたようだ。
ふん、シェイブめー‥‥‥」
夫は罰せられる!?
この魔王の苛烈さ、その偉業の数々はエリーゼも伝説として知っていた。
「陛下、夫はなにも!
このエリーゼの為を思って――」
何故だろう、自分でもこの婚儀を嬉しくは思ってないのに。
エリーゼはシェイブを庇っていた。
そして魔王は面白そうに首を振る。
「そのようなこと、考えておらん。
ただ、あの子はあの暴威の前で最初に立ち、我の目すらも欺ける力を披露した。
その現実に喜んでいるだけじゃ。
さて、そろそろ戻ったようだな」
フェイブスタークは扉の方を見、そこには不意の来客に驚いている末子の姿があった。
これまで一度もこの東屋を訪れたことの無い父親のお忍びでの来訪。
それは言わずもがな‥‥‥
「父上、これは――まさか‥‥‥」
どうやら末子は末子だけでなく、一番先に立つに相応しい者であったのかもしれない。
魔王は嬉しそうに微笑み、そして、その本位を息子にだけ伝えた。
二人だけの、思念の会話。
それは端的な言葉で終わった。
次代の魔王はお前だ、シェイブ。
後見人には虚竜レグルスと魔王エリスがつく。
この地を離れ、地下世界へと行くがいい。
いずれ迎えが行くまで、エリスの下で暮らせ。
そう命じられ、シェイブ夫妻はその夜に地下世界。
魔王エリスの城へと向かった。
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