殿下、あなたが借金のカタに売った女が本物の聖女みたいですよ?

星ふくろう

文字の大きさ
74 / 79

秘密の聖女様、人類国家群の盟主の座を分捕る件 8

しおりを挟む
「ふん、そろそろ、か‥‥‥」

 打ち上げられた魔王様こと、フェイブスタークは惑星の束縛から解き放たれるとかつての神であった姿を取り戻していた。
 あまりにも黒黒しくて神々しいその姿は、創造神から数えて第三位の神の序列に位置するものだった。

「来るのが遅いぞ」

 あの後、天空を目指した竜王はただの竜となり、戦友と共に世界を放浪していた頃のアールディアに戻った気分だった。 
 ただ、その身に秘めた力はこれまでないほどに巨大なものになっていたが‥‥‥

「済まぬな、再会と詫びとー‥‥‥ようやく会えた嬉しさでな。
 時間を食ってしまった」

 帝都の上空に突如として出現した九頭の竜たち。
 八竜会議の長たちと、無理矢理、レグルスの妻にされたサーラだった。
 彼等は王を迎え、その力を分け与えると共に‥‥‥サーラはさんざん、アールディアに文句を叫んでいた。
 それでもまだ幼い竜の少女は、新しい夫となったレグルスの巨体を盾にしてでしかアールディアに怒りをぶつけることしか出来ない。
 近寄ることも、彼女には恐怖だったからだ。
 サーラへの謝罪はともかく、一族の王としての謝罪は特に請けいれられなかった。
 結局、自分はお飾りの王だったに過ぎない。
 その現実をアールディアが噛み締めた時、八竜会議も末席にその腰を据えていた本物の竜神が彼に声をかけてきた。
 新竜の長として、最後の一大事を成し遂げて欲しい。
 魔王フェイブスタークとの最後の共同作業。
 古代神を消滅させることが彼に託された最後で最高の役割りとなる。
 惑星に置いていてはいつかはまた復活する。
 あの、宇宙で消滅させなければならない。
 それが、フェイブスタークが宇宙へと上がった理由の一つでもあった。
 そして――新竜アールディアは宇宙へと上がる。
 竜王を棄て、竜神の力の全てを受け継いで彼は旧友の待つ戦場へと‥‥‥帰還した。

「で、あれがそうか?
 古代神といえばもう少し神々しいというかー‥‥‥」

「いかにも人間臭い造形美であろ?
 笑ってしまうほどに、あやつらは人の姿にこだわるのよ。
 だが、油断はするなよアールディア。
 あれでも、第四位の神だ。
 我だけではー‥‥‥少々、難しい」

 難しい?
 アールディアはフェイブスタークの物言いに鼻を鳴らした。
 それでも第三位。
 自分はようやく第四位だ。

「いつか追い抜くからな?」

「ふ、それが必要なのははるか先の敵を迎えた時だ。
 いまは遊戯に等しいと思わねばならん。
 やつらはー‥‥‥いつかくるあやつらは、強いぞ」

「期待しておこう」

 はるか夜空の果てに、二頭の神の竜が翼をはためかせてまるで神話の武神が舞うかのように戦うさまを地上から目にした者が誰かいるかもしれない。
 彼等の戦いは、それから一月ほどもかかったようだが‥‥‥その後を語る者は誰もいない。

 
 皇太子殿下がその刃を以って老人たちの盛大な兄弟喧嘩に終止符を打ったころ――
 ハーミアは誰もいない魔王城の大広間で座り込み、途方に暮れていた。
 スィールズはおろか、レベッカやグラン、あの魔女さえもいない。
 誰もいないのだ。

「何よ、どういうことよ‥‥‥」

 旦那様は!?
 スィールズはどこに行ったのよ!!???

 そう泣き叫びたいほどに心が苦しい中、ハーミアはまだやるべきことがあると自分の感情を押しとどめていた。国に帰らなきゃ。
 あの辺境国を立て直さなきゃ‥‥‥いつか、旦那様が帰ってくるときのために――
 そう思いなおすと、ハーミアは祖父の待つ氷の宮殿に戻るがここもまた不在。
 幾度となく腕輪の魔法を使い、エリスの元を訪れ、竜王の城を訪問し‥‥‥ようやく眠るスィールズに出会えたが、彼はまだ目覚めることはない。
 前竜王からの遺言としてスィールズは王になることが決まっていたし、それはある悲しい事実も示していた。

「そう‥‥‥。
 辺境国はもう竜族から離反したのだからー仕方ないわね」

 かつての侍女たちを連れ帰ることなく、ハーミアは己の城へと帰参した。
 領内の最統治に、戦乱というほどではないが荒れた部分も否めない点を領民第一に考えて女公爵は懸命に働いていた。
 有能な宰相夫婦は行方不明になり、その全てを古くからの家臣たちと共に為さなければならなかった。
 魔族に対する切り札だった竜族の支援は消え、帝国の皇后位なんてめんどくさいものはのしをつけてエミリオの新しい妻であるカーラに叩きつけてやった。
 帝国とも微妙、魔族とも微妙な境界線を守るのがクルード公爵家の務め。
 私欲を封印して日夜、湧き上がる難問と悪戦苦闘している領主は領民には好印象だったらしい。
 ため息をつく暇がないまま、数年の歳月が流れ、風の噂では竜王が即位したと聞こえて来た時。
 幼い少女から、智謀と美しさを備えた淑女へと成長した元妻は‥‥‥先代の竜王の娘を正妃に娶ったとも聞いて静かに微笑んだのだった。
 彼は戻ってくるかもしれない。
 いつかその時の為にー‥‥‥

「まだ、好きかしら。
 このワインの味、ねえ、スィールズ様?」

 あの日の夜、みんなの前で酔いつぶれたあの席で‥‥‥女公爵は来るはずもないかつての主人の思い出に語り掛けていた。
 多くの仲間が死に別れ、多くのものを失い、多くの新しい何かを手に入れた女公爵は、今夜も一人で語りあかす。
 あの楽しかった幸せな日々を思い返しながら、心の中に生き続ける大切な夫と共に‥‥‥彼女は生きていくのだった。


               (了)

 短い期間でしたが、御愛読頂きましてありがとうございます。一旦の区切りとなります。ありがとうございました。
しおりを挟む
感想 97

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

処理中です...