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秘密の聖女様、人類国家群の盟主の座を分捕る件 8
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「ふん、そろそろ、か‥‥‥」
打ち上げられた魔王様こと、フェイブスタークは惑星の束縛から解き放たれるとかつての神であった姿を取り戻していた。
あまりにも黒黒しくて神々しいその姿は、創造神から数えて第三位の神の序列に位置するものだった。
「来るのが遅いぞ」
あの後、天空を目指した竜王はただの竜となり、戦友と共に世界を放浪していた頃のアールディアに戻った気分だった。
ただ、その身に秘めた力はこれまでないほどに巨大なものになっていたが‥‥‥
「済まぬな、再会と詫びとー‥‥‥ようやく会えた嬉しさでな。
時間を食ってしまった」
帝都の上空に突如として出現した九頭の竜たち。
八竜会議の長たちと、無理矢理、レグルスの妻にされたサーラだった。
彼等は王を迎え、その力を分け与えると共に‥‥‥サーラはさんざん、アールディアに文句を叫んでいた。
それでもまだ幼い竜の少女は、新しい夫となったレグルスの巨体を盾にしてでしかアールディアに怒りをぶつけることしか出来ない。
近寄ることも、彼女には恐怖だったからだ。
サーラへの謝罪はともかく、一族の王としての謝罪は特に請けいれられなかった。
結局、自分はお飾りの王だったに過ぎない。
その現実をアールディアが噛み締めた時、八竜会議も末席にその腰を据えていた本物の竜神が彼に声をかけてきた。
新竜の長として、最後の一大事を成し遂げて欲しい。
魔王フェイブスタークとの最後の共同作業。
古代神を消滅させることが彼に託された最後で最高の役割りとなる。
惑星に置いていてはいつかはまた復活する。
あの、宇宙で消滅させなければならない。
それが、フェイブスタークが宇宙へと上がった理由の一つでもあった。
そして――新竜アールディアは宇宙へと上がる。
竜王を棄て、竜神の力の全てを受け継いで彼は旧友の待つ戦場へと‥‥‥帰還した。
「で、あれがそうか?
古代神といえばもう少し神々しいというかー‥‥‥」
「いかにも人間臭い造形美であろ?
笑ってしまうほどに、あやつらは人の姿にこだわるのよ。
だが、油断はするなよアールディア。
あれでも、第四位の神だ。
我だけではー‥‥‥少々、難しい」
難しい?
アールディアはフェイブスタークの物言いに鼻を鳴らした。
それでも第三位。
自分はようやく第四位だ。
「いつか追い抜くからな?」
「ふ、それが必要なのははるか先の敵を迎えた時だ。
いまは遊戯に等しいと思わねばならん。
やつらはー‥‥‥いつかくるあやつらは、強いぞ」
「期待しておこう」
はるか夜空の果てに、二頭の神の竜が翼をはためかせてまるで神話の武神が舞うかのように戦うさまを地上から目にした者が誰かいるかもしれない。
彼等の戦いは、それから一月ほどもかかったようだが‥‥‥その後を語る者は誰もいない。
皇太子殿下がその刃を以って老人たちの盛大な兄弟喧嘩に終止符を打ったころ――
ハーミアは誰もいない魔王城の大広間で座り込み、途方に暮れていた。
スィールズはおろか、レベッカやグラン、あの魔女さえもいない。
誰もいないのだ。
「何よ、どういうことよ‥‥‥」
旦那様は!?
スィールズはどこに行ったのよ!!???
そう泣き叫びたいほどに心が苦しい中、ハーミアはまだやるべきことがあると自分の感情を押しとどめていた。国に帰らなきゃ。
あの辺境国を立て直さなきゃ‥‥‥いつか、旦那様が帰ってくるときのために――
そう思いなおすと、ハーミアは祖父の待つ氷の宮殿に戻るがここもまた不在。
幾度となく腕輪の魔法を使い、エリスの元を訪れ、竜王の城を訪問し‥‥‥ようやく眠るスィールズに出会えたが、彼はまだ目覚めることはない。
前竜王からの遺言としてスィールズは王になることが決まっていたし、それはある悲しい事実も示していた。
「そう‥‥‥。
辺境国はもう竜族から離反したのだからー仕方ないわね」
かつての侍女たちを連れ帰ることなく、ハーミアは己の城へと帰参した。
領内の最統治に、戦乱というほどではないが荒れた部分も否めない点を領民第一に考えて女公爵は懸命に働いていた。
有能な宰相夫婦は行方不明になり、その全てを古くからの家臣たちと共に為さなければならなかった。
魔族に対する切り札だった竜族の支援は消え、帝国の皇后位なんてめんどくさいものはのしをつけてエミリオの新しい妻であるカーラに叩きつけてやった。
帝国とも微妙、魔族とも微妙な境界線を守るのがクルード公爵家の務め。
私欲を封印して日夜、湧き上がる難問と悪戦苦闘している領主は領民には好印象だったらしい。
ため息をつく暇がないまま、数年の歳月が流れ、風の噂では竜王が即位したと聞こえて来た時。
幼い少女から、智謀と美しさを備えた淑女へと成長した元妻は‥‥‥先代の竜王の娘を正妃に娶ったとも聞いて静かに微笑んだのだった。
彼は戻ってくるかもしれない。
いつかその時の為にー‥‥‥
「まだ、好きかしら。
このワインの味、ねえ、スィールズ様?」
あの日の夜、みんなの前で酔いつぶれたあの席で‥‥‥女公爵は来るはずもないかつての主人の思い出に語り掛けていた。
多くの仲間が死に別れ、多くのものを失い、多くの新しい何かを手に入れた女公爵は、今夜も一人で語りあかす。
あの楽しかった幸せな日々を思い返しながら、心の中に生き続ける大切な夫と共に‥‥‥彼女は生きていくのだった。
(了)
短い期間でしたが、御愛読頂きましてありがとうございます。一旦の区切りとなります。ありがとうございました。
打ち上げられた魔王様こと、フェイブスタークは惑星の束縛から解き放たれるとかつての神であった姿を取り戻していた。
あまりにも黒黒しくて神々しいその姿は、創造神から数えて第三位の神の序列に位置するものだった。
「来るのが遅いぞ」
あの後、天空を目指した竜王はただの竜となり、戦友と共に世界を放浪していた頃のアールディアに戻った気分だった。
ただ、その身に秘めた力はこれまでないほどに巨大なものになっていたが‥‥‥
「済まぬな、再会と詫びとー‥‥‥ようやく会えた嬉しさでな。
時間を食ってしまった」
帝都の上空に突如として出現した九頭の竜たち。
八竜会議の長たちと、無理矢理、レグルスの妻にされたサーラだった。
彼等は王を迎え、その力を分け与えると共に‥‥‥サーラはさんざん、アールディアに文句を叫んでいた。
それでもまだ幼い竜の少女は、新しい夫となったレグルスの巨体を盾にしてでしかアールディアに怒りをぶつけることしか出来ない。
近寄ることも、彼女には恐怖だったからだ。
サーラへの謝罪はともかく、一族の王としての謝罪は特に請けいれられなかった。
結局、自分はお飾りの王だったに過ぎない。
その現実をアールディアが噛み締めた時、八竜会議も末席にその腰を据えていた本物の竜神が彼に声をかけてきた。
新竜の長として、最後の一大事を成し遂げて欲しい。
魔王フェイブスタークとの最後の共同作業。
古代神を消滅させることが彼に託された最後で最高の役割りとなる。
惑星に置いていてはいつかはまた復活する。
あの、宇宙で消滅させなければならない。
それが、フェイブスタークが宇宙へと上がった理由の一つでもあった。
そして――新竜アールディアは宇宙へと上がる。
竜王を棄て、竜神の力の全てを受け継いで彼は旧友の待つ戦場へと‥‥‥帰還した。
「で、あれがそうか?
古代神といえばもう少し神々しいというかー‥‥‥」
「いかにも人間臭い造形美であろ?
笑ってしまうほどに、あやつらは人の姿にこだわるのよ。
だが、油断はするなよアールディア。
あれでも、第四位の神だ。
我だけではー‥‥‥少々、難しい」
難しい?
アールディアはフェイブスタークの物言いに鼻を鳴らした。
それでも第三位。
自分はようやく第四位だ。
「いつか追い抜くからな?」
「ふ、それが必要なのははるか先の敵を迎えた時だ。
いまは遊戯に等しいと思わねばならん。
やつらはー‥‥‥いつかくるあやつらは、強いぞ」
「期待しておこう」
はるか夜空の果てに、二頭の神の竜が翼をはためかせてまるで神話の武神が舞うかのように戦うさまを地上から目にした者が誰かいるかもしれない。
彼等の戦いは、それから一月ほどもかかったようだが‥‥‥その後を語る者は誰もいない。
皇太子殿下がその刃を以って老人たちの盛大な兄弟喧嘩に終止符を打ったころ――
ハーミアは誰もいない魔王城の大広間で座り込み、途方に暮れていた。
スィールズはおろか、レベッカやグラン、あの魔女さえもいない。
誰もいないのだ。
「何よ、どういうことよ‥‥‥」
旦那様は!?
スィールズはどこに行ったのよ!!???
そう泣き叫びたいほどに心が苦しい中、ハーミアはまだやるべきことがあると自分の感情を押しとどめていた。国に帰らなきゃ。
あの辺境国を立て直さなきゃ‥‥‥いつか、旦那様が帰ってくるときのために――
そう思いなおすと、ハーミアは祖父の待つ氷の宮殿に戻るがここもまた不在。
幾度となく腕輪の魔法を使い、エリスの元を訪れ、竜王の城を訪問し‥‥‥ようやく眠るスィールズに出会えたが、彼はまだ目覚めることはない。
前竜王からの遺言としてスィールズは王になることが決まっていたし、それはある悲しい事実も示していた。
「そう‥‥‥。
辺境国はもう竜族から離反したのだからー仕方ないわね」
かつての侍女たちを連れ帰ることなく、ハーミアは己の城へと帰参した。
領内の最統治に、戦乱というほどではないが荒れた部分も否めない点を領民第一に考えて女公爵は懸命に働いていた。
有能な宰相夫婦は行方不明になり、その全てを古くからの家臣たちと共に為さなければならなかった。
魔族に対する切り札だった竜族の支援は消え、帝国の皇后位なんてめんどくさいものはのしをつけてエミリオの新しい妻であるカーラに叩きつけてやった。
帝国とも微妙、魔族とも微妙な境界線を守るのがクルード公爵家の務め。
私欲を封印して日夜、湧き上がる難問と悪戦苦闘している領主は領民には好印象だったらしい。
ため息をつく暇がないまま、数年の歳月が流れ、風の噂では竜王が即位したと聞こえて来た時。
幼い少女から、智謀と美しさを備えた淑女へと成長した元妻は‥‥‥先代の竜王の娘を正妃に娶ったとも聞いて静かに微笑んだのだった。
彼は戻ってくるかもしれない。
いつかその時の為にー‥‥‥
「まだ、好きかしら。
このワインの味、ねえ、スィールズ様?」
あの日の夜、みんなの前で酔いつぶれたあの席で‥‥‥女公爵は来るはずもないかつての主人の思い出に語り掛けていた。
多くの仲間が死に別れ、多くのものを失い、多くの新しい何かを手に入れた女公爵は、今夜も一人で語りあかす。
あの楽しかった幸せな日々を思い返しながら、心の中に生き続ける大切な夫と共に‥‥‥彼女は生きていくのだった。
(了)
短い期間でしたが、御愛読頂きましてありがとうございます。一旦の区切りとなります。ありがとうございました。
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