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番外編
秘密の聖女様と物言わぬ神剣 2
しおりを挟むエリスの腰には亡き夫が残した、聖剣ロイデルがささっていた。
それも聖剣なのねーとハーミアが指差すと、
「まあ、一応聖剣ね。
でも無口な聖剣だけど」
「無口?
剣が??
どういうことよ?」
二人の客人はまったく意味がわからないとエリスに質問する。
つまりね、とエリスはオーウェルの腰にある聖剣を指差した。
「あの子に与えたオーウェンの剣は、オーウェン自身が成長することを拒んだのよ。
だから、聖剣ではあるけれども自我は無いの。
優れた武器や誰かに長年愛されて来た物は、生命を持つことがあって‥‥‥この、アシュリーの聖剣ロイデルは本当に無口な聖剣。
というよりは‥‥‥自我を持つことを剣そのものが求めてなかったみたいなのよね。
アシュリーが最初に勇者になった時に討伐対象だったのがわたし。
その時に恋仲になったから聖剣はそれを黙って見守ろうと決めたらしい。
‥‥‥なんて、アシュリーが言っていたわねー」
「わねーって。
なら、シェナの死んだ元になったあの神剣アージェスや、いま帝国に奉納されている聖剣デュランダルも?
意志があるってこと!?」
そんな話、奇妙すぎてついていけない。
ハーミアはそう困ってしまう。
あの一度は持った聖剣がまさか、意志があったなんて。
もし、聖剣デュランダルがその意思で帝国に再度、何かの災厄をもたらそうものなら、と。
心配の種になってしまいそうだった。
「アージェスは意思があったから、もう錆びて死んだのよ。
主が死に自分の役目は終わったと悟ったから。
デュランダルはアシュリーが言うには意思があったのはカイネ・チェネブ神の時代までらしいわね。
それからは、普通の剣並みの力しか感じないって言ってたかな?」
まあ、こんな話もここではなんだから。
会場を移動しない?
お披露目の席である大広間から、奥へと繋がるそれぞれの個別の部屋に案内されてハーミアとサーラ親子はそれに続いた。
「彼等はいいの?
ここに連れて来なくても?」
ハーミアは主賓ではないが、呼ばれた身。
主役たちを差し置いて、その後見人の一人であるエリスと行動を共にしていいものか不安だった。
しかし、エリスはざっくばらんとしたもので、
「あの二人?
いいのよ、もう後見人は変わるしね。
いつまでも、わたしも上ばかり見ていられないもの」
上、そういまは魔都グレインスケーフだが。
エリスの王国はこの真下にあるらしい。
訪れたことは数度あるが、確かに。
魔界も一枚岩でいて、そうでない。
二十四もの魔王が分割統治し、その上に青の魔人が管理しているものの争いはあるようでない。
ないようであるという、どうにも悶々とした勢力闘争が続いているらしかった。
「そんなに大変なら後見人なんて受けなければ良かったのに‥‥‥」
「だって仕方がないじゃない?
十二英雄に影の六王なんていっても――
十二英雄には魔女シェナに黒狼セッカ、灰狼がいて。
六王にはわたしだけだもの。
比率が悪すぎるのよ。
圧倒的に上ばかりが目立っていて、下の世界はこれまで歴史の表舞台で活躍した存在が少ないのよ。
まあ、魔族の代名詞というか‥‥‥あの、シェナが一度転生した真紅の女帝ミレイアが――悪名高すぎるのよ」
あ、あれってそうだったんだ。
転生、転生って、みんな好きよねえ。
ハーミアは呆れてしまう。
それほどまでに、転じて生まれてまで再生したいものなのか、と。
あの太古の神々、大神ダーシェと海神エスト。
ハーミアが巻き込まれた紛争の首謀者たちも、かつての栄光を取り戻そうと暗躍して滅ぼされたのだから。
「そう‥‥‥みんな、次がどうなるかまるで理解したかのように我慢できるのね。
いまでやり残したことは次で叶えれるから死ねる。
まるでそんな感じに見えるわ」
「死ぬ前に力だけ残して隠しておくとか、いろいろとみんな知恵を絞るんだけどね。
消滅さされても一万年すると復活する古代神とかもう滅茶苦茶だったわね。
あんなのには巡り合ったのは、二千数百年生きてて初めてよ?」
このおばさん、二千年も生きているんだ。
それも影の六王の生き残りで、魔王‥‥‥僕の世界はなんて狭いんだろう?
少年の興味深そうにみつめる視線を受けて、エリスは元気にしていた?
そう声をかけた。
「あー‥‥‥っ、はい。
魔王エリス陛下‥‥‥。
ご機嫌麗しゅう御座います。
誕生の際には過分な贈り物を頂きました。
レグルスが一子、オーウェルです‥‥‥陛下」
いきなり声をかけられて、びしっと固まってしまうオーウェル。
あら、可愛いじゃないと本日、二度目の抱擁を受けもう顔は真っ赤を通り越していた。
「陛下、その‥‥‥お胸が‥‥‥ぁ!!??」
叫ぶ少年にあらあらと、エリスはごめんねそう言いながら離れてやる。
その際にそっと、未亡人は寂しがり屋なのよ?
なんて意地悪を言われるから、もう、オーウェルはハーミアの時のことも思い出してサーラの後ろに隠れる以外逃げ場はなかった。
「こら、オーウェル!
すいません、エリス陛下‥‥‥」
エリスに何を言われたか知らないサーラは息子を叱るが、オーウェルがそれからこの部屋をでるまで口を開くことはなった。
可愛いわねえ、この子たちが住む世界には争いがなければいいだけど。
寂しそうに言うエリスの言葉の裏には、まだやり残したことがたくさんある。
それは地下世界の紛争をどう治めるか。
その点を示唆しているようにハーミアには聞こえていた。
「ねえ、エリス。
その聖剣や神剣、魔剣の人格どうこうの話なんだけど。
それと後見人が変わることに何かつながりがあるの?
あなたの後にはあの、ルゲル大将軍と誰が‥‥‥?」
「んー‥‥‥いなかった?
一人の老人と言えば失礼だけど。
人間の剣士があの場に」
見えなかったかな?
あのおじいちゃん、いろいろと気まぐれだから。
そう言うエリスの指す老人が誰なのか。
ハーミアは居並ぶ後見人の列の一番端に、確かに人間の壮年の剣士がいた記憶があった。
でも、人間なんて‥‥‥?
「あれね、エレノアの聖剣ー‥‥‥もとい、大昔に別の大陸の魔族とそれを扇動した邪神がいて。
その数万の軍勢を一人の力だけで殲滅した伝説の剣士の剣が人格を持ったものなのよ」
「またとんでもない存在、どこから呼び出して来たのよ!!??
そんな聖剣あるなら、なんで上にー!??」
「だから‥‥‥地下も一枚岩ではないの!
勇者二人にあの聖剣‥‥‥シュバイエ卿なんて呼ばないと怒るけど。
彼にそれにわたし。
この四人がいてうちの国はどうにか周りからの侵攻を防げていたのよ。
それが二人も抜けたらもう、色々ね。
上まで見ている余裕ないの」
地下はわたし一人なら何とかなるんだけど。
エレノアが生きていてくれたら‥‥‥そんなはかない夢は霧散したけどね。
寂しそうにエリスは語り、聖剣が人間の形を取って動き回り、しかもエリスや祖父並みの力を持つなんて。
ハーミアはあり得ない世界だわ。
そう思うものの、ふと気づくことがある。
「ねえ、なんでおじい様は後見人の座から降りたの?
あのルゲル大将軍って‥‥‥失礼だけど前竜王様並みの力はないと思うの。
竜王様もそうだけど」
「ハーミア‥‥‥その発言が危険だって何度言えば‥‥‥」
サーラにたしなめられてハーミアは、はいはいと口を閉じる。
だが、これは事実なのだ。
ルゲルもスィールズも失礼ながら、祖父やアールディア、宇宙に上がる前のフェイブスタークやエリスたちには程遠いほどに下位の力しか持ち合わせていない。
まあ、それは帝国も似たようなものだが‥‥‥
「でも、魔王になったシェイブはそうではないのよねえ‥‥‥これが。
フェイブスタークって、本当に美味しいところだけ持って行くんだから」
「ねえ、エリス。
話が見えないんだけど。
どういうこと?」
それはあなたもそうでしょ?
エリスに反対に問われてハーミアは閉口する。
「誰よ、その子の前で大地母神の聖女なんて名乗ったの。
そんな職位、あの王妃に既に譲ってたじゃない。
あのシェナの死んだ後に、わたしの国に来て再会した時に。
知ってるのよ?」
「あ、あれは‥‥‥いえ、違うのよ、オーウェル。
嘘ではないの。大地母神の聖女でもあるし‥‥‥」
「姪御様、虚言を虚竜の一族が吐くのはどうかと‥‥‥」
少年にたしなめられて、ハーミアは恥ずかしくなる。
嘘ではないんだけどなあ。
でも、本当でもないのよねえ。
「虚言ではないわよ、叔父上様。
いいこと?
わたしを聖女に認定されたのは竜神様その御本人の意思なの。
大地母神の聖女でもあるし、竜神の聖女でもあるー‥‥‥。
だって、どっちも好きなように話しかけて来ていろいろと教えるんだもの。
片方、譲ったくらいでそれが止むことなんてないわよ‥‥‥」
二つの神の聖女だったのですか、姪御様!?
知れば知るほど、その事実が凄すぎて‥‥‥オーウェルは目を回しそうだった。
それを聞いたエリスもまた、不満の声を上げていた。
「呆れた‥‥‥あの青の聖騎士はいまどこにいるのよ。
八竜会議の末席に隠れていたり、大地母神の肉体ともう再会してるんでしょ?
昔の仲間が困ってるんだから、さっさとエリスの国まで来いって言いなさいよ。
いつまでも嫁と仲良くやってるんじゃないわよ、まったく。
氷の聖者といい、青の聖騎士といい。
エレノアが死んだ責任、少しくらいは‥‥‥」
言えないわよ、そんな暴言。
仮にも崇める神だもの。
でも、その言葉はまるまるそのまま竜神には伝わっているはず。
いずれ来るわよエリス。
あの御方だって、エレノアを死なせたかったわけでも、その後にクリスタルに閉じ込めて太古の神々の復活に利用したかった訳でもないもの。
ただ、魔王陛下の長女エミスティアもそうだけど。
救い、その後に復活させる前に‥‥‥太古の神々の干渉が始まり万策が付きかけただけ。
それを排除しようとしているちに世界は自ずから補正する力があるから、なるべく犠牲の少ない方に少ない方に導こうこうとして二人は復活出来なかった。
そこには誰も悪くなんてないのよ。
ハーミアにはそれが理解出来ている。
でも、エリスや他の視点から見れば今回出てこなかった古代神並みの力を持つ地下世界の覇者、青の魔人やどうにか救い出せる力があるのに動かなかった八竜会議の面々なんて‥‥‥非難の対象でしかないだろう。
みんながみんな、良いようには行かないのよね。
でも、エリスは夫を失い、一人でー‥‥‥????
「エリス、あなたとわたしはまるで似ているわね。
大事な存在を大きな力の関与によって失い、その後もまだ、大きな課題を背負って一人で全部をしなきゃいけないなんて。
そっくりじゃない?」
「そっくりじゃないわよ。
こっちはアシュリーの時間切れに合わせて動いてたの。
まったく‥‥‥英雄王ラードリーや、その他の仲間がまだいれば、ね。
あなただって、ねえ、ハーミア。
わたしには落ち度が一つあるのよ」
「落ち度?
あなたになんの責任があるの?」
三種族と地下世界、地上世界の魔族の均衡までこの四年間の間、その腕一つで守り抜いた偉大な魔王を誰が責められるというのか。
こんな、地上世界の魔族の新たなる誕生まで舞台を築き上げた偉大なる魔王エリス。
あなたが謝るなんてそんなのおかしいわよ。
ハーミアはそう思う。
例え、あの場に。
フェイブスタークと魔女シェナ、そして、近い場所にエリスがいたとしても。
グランの中に古代神が潜んでいたことまで分からなかったのは、竜神も悔いていた。
それは責めれないことだ。
「だから、あなたの‥‥‥夫のことよ」
「いいの」
「良くないわよ。
あの場で気づかないなんて‥‥‥」
「だから、良いのよ。
誰も分からないほどに巧妙に隠されていただけだもの。
仕方ないわよ。
グランの中に、古代神の意思があって、スィールズもいて。
わたし思うのよ。
スィールズは、必死にグランを守っていたって。
だから、良いの」
でも、とラーナは思う。
あの、いま竜王になったスィールズとかつてのラーナやハーミアが知るスィールズは何かが違う。
まるで、怒りやそういった感情が先に立つ‥‥‥戦場で戦う竜としての本能だけが残ったような。
そこには、竜の自我や理性など、まるでないように見えていた。
いや、生前の記憶がわずかに臣下を理性的に統治するようにさせている。
そんなふうにしか見えないのだ。
何だろう?
これは否定されても伝えるべきだと思う。
大事な何かを、ハーミアは知らないでいる。
サーラは口を開こうとして、ふと息子を見た。
いまは言うべき場ではないとさっき、彼から釘を刺されていたからだ。
息子はそれでも、母上いまなら。
言うべきです、と目がそう語っていた。
「ハーミア‥‥‥怒らないで聞いてね。
わたし、いまの竜王様にはー」
しかし、ハーミアはその続きを拒んでいた。
知りたくないわ、そう小さく言うと彼女は静かに席を立ちその場にいる三人を見渡した。
「ごめんなさいね、サーラ。
思い出だけで、そこに生きさせて。
スィールズはまだ生きているし、もし、グランの中で彼を守っていたとしても‥‥‥。
そんな、思念だけの存在、いないし、存在できないわ。
依代があるわけでもないし、ね。
だから、ごめんなさい‥‥‥」
ハーミアは席を立ち、部屋の扉に手をかけて振り返らずに消えてしまう。
祖父の腕輪の能力。
まだ、使ってたんだ。
それを見たサーラはどこかほっとしたものだ。
そして、ハーミアは彼女たちに言葉だけを遺して行った。
エリス、竜神様はいずれ青の聖騎士としてあなたのもとに行くと。
それも早期に。そう言っているわ。
もう、帰るわね。
ありがとう、サーラ。
オーウェル、来る度胸があるなら来なさい。
いつでも、夜の相手してあげるから。
みんな、ありがとう‥‥‥
と。
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