20 / 150
第一章 婚約破棄と新たなる幸せ
第十九話 白き鷹の御心
しおりを挟む
「殿下ーー!!!???
そんな、そんなー‥‥‥!!!」
「ユニス、ほら、見ろあの光景を!」
と、殿下はおっしゃいます。
下流域には大公家の城壁に囲まれた、市街地があるはず。
そこは、今夜の晩餐会に合わせて盛大な祭りが催され、夜通し煌々と灯りが途切れることなくーー
夜空を照らしているはずです。
「殿下、だめですー‥‥‥ユニスめは、わたしはー‥‥‥」
本当に来て下さるなんて‥‥‥こんな、わたしのためにーー
「なんだ、泣いているのか?
ああ、これはほんとうに‥‥‥怖がらせてしまったな。
すまないユニス、ほんとうにすまないーー」
と殿下はわたしのあふれ出る涙をその御手で、拭って下さいます。
ですが、わたしは涙がーー
どうしても止まりません。
この日まで、多くの帝国の貴族のかたがたから、疎まれさげすまれ‥‥‥
この年まで伯爵令嬢として、お父様になにも恩返しができず、大公閣下、いいえ‥‥‥
義父上様にも、帝国にも、これほどまでに恥をかかせてしまった、このわたしにーー
「殿下、なぜですか!?」
わたしは泣きながら叫んでしまいました。
こころの中で殿下に謝罪をしながらーー
「なにがだ、ユニス?
怖いから泣いていたのではないのか?
すまんな‥‥‥私、いや僕はどうもご婦人の、機微に疎いのだ。
このような目に遭わせてしまって、申し訳ないとは思っている。
これは本当だ」
と、おっしゃる殿下は本当に理由がわからず、迷われて困っていらっしゃいました。
「違います、殿下ーー」
「だから、なにが違うのだ?」
「ですからー‥‥‥」
「ああ、なあ、ユニス。
言いたいことは、言うあう仲にならないか?
このような舞台を張り、そなたを余興と呼び、恐ろしい目に遭わせた怒りがあると言うならーー」
と、殿下は一瞬、言葉を選ぶように考えられ、
「あの、大河に今すぐにでも飛び込んでこよう。
もちろん、君はここにいるようにして、だがな。
それでも足らぬというならばー‥‥‥そうだな」
わたしは自分の思いを、いつお伝えすれば良いのか。
殿下のお言葉をさえぎることは許されず‥‥‥
「うん、そうだな。
これは、あまりにも、やり過ぎたことだ。
全て終われば、そなたにならばーー」
わたしにならば‥‥‥???
「ムチで打たれても構わん。
頬をはたきたいというならば、それでも良い。
あのーー」
とはるか先に見えるミスリルの堆積した三角州。
それを殿下は指差されーー
「ブルングド島の全域を捧げよというならばー‥‥‥
自信はないが、この命を賭けてその願いをかなえるようにしよう」
と。
あの自信家で愚かなシルド様とは違い、御自身の弱さも、断言することのおろかさと強さの意味も。
その両方をお知りになるこの御方は‥‥‥
本当に、優しく、雄々しく、それでいて、弱さも見せることを恐れない。
まさしく、帝国の白き鷹のごとく。
その銀髪を、闇夜をふき抜ける風にたなびかせながらーー
わたしが人生で、両親と義父上以外から頂いた、最高の優しさを以って。
そう言って下さいました。
そんな、そんなー‥‥‥!!!」
「ユニス、ほら、見ろあの光景を!」
と、殿下はおっしゃいます。
下流域には大公家の城壁に囲まれた、市街地があるはず。
そこは、今夜の晩餐会に合わせて盛大な祭りが催され、夜通し煌々と灯りが途切れることなくーー
夜空を照らしているはずです。
「殿下、だめですー‥‥‥ユニスめは、わたしはー‥‥‥」
本当に来て下さるなんて‥‥‥こんな、わたしのためにーー
「なんだ、泣いているのか?
ああ、これはほんとうに‥‥‥怖がらせてしまったな。
すまないユニス、ほんとうにすまないーー」
と殿下はわたしのあふれ出る涙をその御手で、拭って下さいます。
ですが、わたしは涙がーー
どうしても止まりません。
この日まで、多くの帝国の貴族のかたがたから、疎まれさげすまれ‥‥‥
この年まで伯爵令嬢として、お父様になにも恩返しができず、大公閣下、いいえ‥‥‥
義父上様にも、帝国にも、これほどまでに恥をかかせてしまった、このわたしにーー
「殿下、なぜですか!?」
わたしは泣きながら叫んでしまいました。
こころの中で殿下に謝罪をしながらーー
「なにがだ、ユニス?
怖いから泣いていたのではないのか?
すまんな‥‥‥私、いや僕はどうもご婦人の、機微に疎いのだ。
このような目に遭わせてしまって、申し訳ないとは思っている。
これは本当だ」
と、おっしゃる殿下は本当に理由がわからず、迷われて困っていらっしゃいました。
「違います、殿下ーー」
「だから、なにが違うのだ?」
「ですからー‥‥‥」
「ああ、なあ、ユニス。
言いたいことは、言うあう仲にならないか?
このような舞台を張り、そなたを余興と呼び、恐ろしい目に遭わせた怒りがあると言うならーー」
と、殿下は一瞬、言葉を選ぶように考えられ、
「あの、大河に今すぐにでも飛び込んでこよう。
もちろん、君はここにいるようにして、だがな。
それでも足らぬというならばー‥‥‥そうだな」
わたしは自分の思いを、いつお伝えすれば良いのか。
殿下のお言葉をさえぎることは許されず‥‥‥
「うん、そうだな。
これは、あまりにも、やり過ぎたことだ。
全て終われば、そなたにならばーー」
わたしにならば‥‥‥???
「ムチで打たれても構わん。
頬をはたきたいというならば、それでも良い。
あのーー」
とはるか先に見えるミスリルの堆積した三角州。
それを殿下は指差されーー
「ブルングド島の全域を捧げよというならばー‥‥‥
自信はないが、この命を賭けてその願いをかなえるようにしよう」
と。
あの自信家で愚かなシルド様とは違い、御自身の弱さも、断言することのおろかさと強さの意味も。
その両方をお知りになるこの御方は‥‥‥
本当に、優しく、雄々しく、それでいて、弱さも見せることを恐れない。
まさしく、帝国の白き鷹のごとく。
その銀髪を、闇夜をふき抜ける風にたなびかせながらーー
わたしが人生で、両親と義父上以外から頂いた、最高の優しさを以って。
そう言って下さいました。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。
桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。
戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。
『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。
※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。
時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。
一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。
番外編の方が本編よりも長いです。
気がついたら10万文字を超えていました。
随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!
幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。
ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる