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第一章 婚約破棄と新たなる幸せ

第二十話 重なる二つの思い

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「殿下、申し上げても‥‥‥よろしいでしょうか?」

 わたしは、殿下に自分のこころのすべてを、お伝えしようと思い、お声をかけました。

「なんだ、ユニス。

 今なら、なんでも聞いてしまいそうだがな」

 思わず、笑ってしまいました。

「ふふふ、殿下……」

 わたしは抱えられている身。

 殿下をしっかりと見上げて、言葉を選びます。

「殿下‥‥‥ユニスめが、申し上げます。

 どうかお聞きください。

 ユニスは殿下が来て下さらないと、一瞬ですが、考えました。

 この身で、大公家や帝国におかけしたご迷惑を、その全てを晴らせるならば、と。

 そう落ちながら、考えてしまいました」

 そこで、殿下は何かを言われようとなさいましたが、ただわたしを見て言葉を、待たれているようでした。
 
 わたしは話を続けます。

「殿下はこのユニスめを、正室に、と。おっしゃいました。

 わたしが必要だと、そう言って頂けただけでも、ユニスは。

 それだけでも、満足だったのです。
 
 殿下のそのお言葉を、ユニスはほんの一時でも疑った罰を、受けねばなりません。

 ですから、殿下」

 わたしは覚悟をもって、殿下に進言いたしました。

「この場で、このユニスめを、大河に落として頂いても。

 ユニスめは、構いません。

 わたしの全ては殿下のもの。あのバルコニーで、婚約を申し出ていただいたその時から。

 この身は帝国の、殿下のものでございます。

 どうか、殿下の良いように」

 と。

 殿下は難しい顔なさり、しばらく考えていらっしゃいました。

 次に口を開かれて出されたお言葉は。

 わたしの予想をはるかに越えたものでした。

「なあ、ユニス」

「はい、殿下」

「まず、殿下ではない」

 殿下ではない?

 つまり、わたしはまた婚約破棄をされる、ということなのですね、と身構えます。

 しかし。

「イズバイアだ」

「はい? 

 殿下、何をおっしゃって??

 婚約破棄のお話ではーー???」

「なにを言っている」

 と殿下はあきれた顔をなさいます。

「あのバカ息子と同じにするな。

 イズバイアが僕のファーストネームだ。

 ユニス、君はなんという?」

「あ、はい‥‥‥ニアム、でございます、殿下」

「だから、イズバイア、だ。

 二人の時はそう呼んでくれ」

「殿下、おっしゃる意味が‥‥‥」

 ああもう、と殿下は首を振ります。

「だから、イズバイアだ。

 言ってみてくれ」

「はっ、はい‥‥‥イズバイア、様」

「はあ……様はいらん。

 どうして君はそう格式ばっているのだ。

 ああ、これは怒るところが違うな‥‥‥すまない」

 わたしは混乱していました。

 殿下が、なにをなさりたいのかが、まったくわからずーー

「いいか、僕は君が好きだ。

 この短い時間で好きだというのも、おこがましいが。

 それでも、その気持ちは嘘ではない。まず、これが一つだ」

 一つ?

 まだ、おありなのですか?

 わかるとはなにを分かればよろしいのですか、殿下???

 わたしは、焦る自身のこころに、落ち着きなさいと言い聞かせます。

 ここは……

 殿下の御心を、真摯に受け止めなくては、なりません。

「はい、殿下。

 そのお気持ちは、ユニスめにはとても嬉しく思います」
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