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第二章 王国の闇と真の悪
第三十六話 魔女の命名
しおりを挟む「だが、大司教殿。
それではシルドが既に知っていて、帝国を騙したことになる。
それでは辻褄が合わなくなる‥‥‥それは、だめだ。
それならば、王都からあのハーベスト大公城へと移動するのにかかった一週間。
移動期間中に、銀鎖の影騎士団、団長が自らが‥‥‥」
そう王子は床にかしづくシルドを面白そうに見ながら言葉を続けた。
「あの島に持っていた騎士団の管轄する領地。
それをすべて寄進したことにした方がいいだろう。
団長の決断ならば、第三師団長の意思など無意味だ」
これを聞いて大司教と大臣は満足そうな顔をする。
顔が険しくなるのはシルドとエルムンド侯のみだ。
そしてもう一人。
この会話を聞いていた、元エイシャに王子の視線が注がれる。
「で、アンバス子爵。
この奴隷女の始末はどうつけるつもりだ?
まさか、正室に、などど言わないよな?」
王子は面白そうに元エイシャの横腹を蹴り、そのまま頭を靴底で踏みつける。
「あうっ!!??」
元エイシャが悲鳴を上げた。
シルドはそれではユニスたちとの約束を守れなくなると思い、異議と唱えようとした。
「しかしー王子」
「しかし、なんだ?
アンバス子爵」
シルド、いや、アンバス子爵の異議が王子は気に入らなかったらしい。
元エイシャの頭を更に力を入れて踏みにじった。
その暴力を受けている本人はもう声を上げる気力すらない。
ここで、黙っていたエルムンド侯が声を上げた。
「王子。
シルドへのご配慮、このエルムンド、同じ騎士団の同士として感謝いたします。
ただ、奴隷女は多くを知り過ぎました。
しかし、もし帝国皇太子夫妻が我が国を訪れた際に、その姿がないとなれば。
これは多くの疑念を招きます。
あの島のことといい、事を始めるのはまだ先のはず。
いまは生かしておくべきかと」
大司教と王子、そして大臣は互いを見た。
さて、どうする?
そんな三者は何かを話し合い、ある決断を下す。
「ではまず、その奴隷女か。
呼び名をやろう、元エイシャだったな。
月の女神の名か‥‥‥ならば、ミレイアとでも名乗れ」
と、大司教は思案して名前を奴隷女に与える。
これには王子はニヤニヤと笑い、大臣がその名前の意味を口にした。
「ミレイア。
聖者サユキと敵対した、魔族の女帝の名ですな。
いや、これは一興。
呪われた名がこのーー
姉の婚約者を奪おうとした娘には、御似合いというもの」
だが、足りんな。
王子はそう言うと、短剣を鞘ごと、腰から引き抜いた。
それをアンバス子爵に与える。
「王子、これはーー?」
アンバス子爵にはその意図がわからない。
冷酷な神聖ムゲール王国の王子は笑いながら命じた。
「アンバス子爵。
その短剣で、このミレイアの舌を切り落とせ。
血がでると面倒だからな。
魔導で刀身だけ熱すればよかろう。
エルムンド侯ーー」
頭を踏みつけられて逃げれないミレイアに、エルムンド侯は何かの魔導をかける。
それは拘束の魔法。
そして、ミレイアは大きく口を開かされた。
「さあ、早くやらんか。
子爵位すらも失いたいのか、シルド?」
王子のその言葉に背を押されるように。
シルドはミレイアの舌の根元から、ゆっくりと刃の先を押し込みその全てを切り取った。
ミレイアは声にならない絶叫を放つがそれは音にならない。
エルムンド侯は、彼女の口から出る声すら封じる魔法をかけていた。
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