突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第二章 王国の闇と真の悪

第三十七話 狂気の結婚

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 肉が焼けるひどい臭いが馬車の車内に広がる。
 どうにかこの拷問から抜け出そうとするが、かなわないミレイアの溢れだす涙。
 そして苦悶の表情とともに漏れ出すもの‥‥‥
 それらはこの狂気の宴を素晴らしく飾っていた。
 切り取られたミレイアの舌を指先で拾い上げ、王子はしげしげと見つめる。

「ふん。
 帝国貴族の娘でも、形は、我ら王国の人間と変わらんなー‥‥‥」

 王子はそう言うと、薄汚いものでも放り出すようにミレイアの舌を窓から投げ捨てた。
 痛みと苦しみにミレイアは気を失っていた。

「なんだ、この程度で漏らしたのか。
 汚らわしい。
 おい、この服をはいで、床を拭け」
 
 そう命じられ、アンバス子爵とエルムンド侯は手早く片付ける。

「ほう、帝国貴族も、身体は変わらないようですな、王子」

「左様だな、大司教殿。
 だが、余興はもういい。
 そんな汚らわしいもの、その荷台にでも放り込め。
 服は‥‥‥面倒だな。
 その箱にでも入れておけ。
 帝国の持ち返せる品など、どうせ大したものはないだろう‥‥‥」

 馬車の客席の後ろ側。
 貴重品などを置くための床にミレイアは投げ込まる。
 土産として渡された箱の中にドレスは乱暴に押し込まれた。
 
「まあ、余興としてミレイアとアンバス子爵の婚儀も認めてやりませぬか、王子。
 一応は預かった身。
 建前だけでも、立てて置かねば」

 そう、これまでの光景を楽しそうに見物していた大司教が提案する。
 建前という言葉に王子は仕方ない、とうなづいた。

「しかしそうなると、最低でも子爵位の爵位を持たさねばなりませんな。
 どうなさいますか?」

 と、大臣が王子に問いただす。
 側室として迎えるならば問題はないが、一応、あの大広間でも建前は、正室だったからだ。

「めんどくさいな。
 なら、ほら。
 これでもあの女の指につけておけ」

 と、王子は小指に着けていた指輪を外す。
 それは小さな紋章が入った小ぶりの指輪。
 王子がいくつかもっている爵位のうちの一つ、ルケーア子爵位のものだ。

「そのルケーアなら、領地も北方。
 領主も私が兼任していたものだ。
 不在に近い爵位なら問題あるまい。
 よかったなシルド。お前はその女の領地からの税金で養われることになるぞ。
 まあ、せいぜい、妻として可愛がってやれ
 北鹿の角騎士団の第八師団なら領地も近い。
 まったく、幸運か不運か。
 都合よくまとまるものだ‥‥‥」

「しかし、この奴隷女に子爵を名乗らせるのですか?
 それはーー」
 
 と大臣が異議を申し立てるが王子はにらみつけて黙らせた。


 ついでに不機嫌にアンバス子爵を蹴りつける。
 さっさと婚儀を上げろ、そういう仕草だった。
 そして、大司教がでは、と口上を述べる。

「さてそれではアンバス子爵にルケーア女子爵ミレイア‥‥‥この場で二人の婚儀を認める。
 いまより、夫婦として暮らすのだ。
 ついでにわしより、神からの祝福を与えようーー」

 大司教が立ち上がり、荷台に放り込まれたミレイアに何事か、祈りのようなものを捧げる仕草をする。
 すると、彼女の全身は赤い光に包まれ、それまでの苦悶の表情が安らかな笑顔になった。

「なにをしたんだ、大司教殿。
 まさか祝福など、本気で与えてはいまいな?」

 王子が面倒くさそうに尋ねる。
 大司教はまさかまさか、と否定した。

「あの娘には幸福である外見を常に取り繕う魔法とーー」

 これは何か面白いことをしたな、そう王子は思い次の言葉に期待する。

「万が一に備え、シルド殿に服従するよう神の啓示を与えたのですよ。
 疑うことなく、夫に奉仕せよ、と。
 まあ、心までもは支配できません。
 頭で否定しても、それをするように強制させる奴隷向けの魔法ですな。
 まったく、世話ばかり焼かされた今宵でしたが‥‥‥」

 大司教は神官にふさわしくない下卑た微笑みを浮かべてシルドとミレイアを見比べて言った。

「堕ちた伯爵家令嬢と侯爵家令息か‥‥‥。
 まったく素晴らしき余興でございますな!!!」

 エルムンド侯とシルドは黙ってそれに従うしかなかった。
 気を失っていたが、大司教の魔導により気づいたミレイアこと元エイシャは一人、怯えていた。
 この狂気の光景から、早く誰か助けて、と。
 物言えぬ口でそう叫びながら。
 
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