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第三章 開戦の幕開け
第六十話 真実と虚構の境目
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なんだこれは‥‥‥?」
その朝はグレン皇太子の疑問の声から始まった。
横に付き添い立つ従僕に、別室のシェイルズを呼びに行かせる。
しばらくして、寝起きで不機嫌そうな顔のシェイルズが姿を現した。
「お前たちは下がっていろ」
騎士団長室の全員を下がらせて、室内は団長と副団長だけになる。
それを確認した後に、用心には用心をとシェイルズは魔導でいくつかの防音のような壁を張り巡らした。
グレンに向かい、鋭い眼光で睨みつける。
「俺は夜勤明けに起こされるような、不出来な仕事はしていないんだがな。
イズバイア、お前と違ってな」
ああ、これは余程眠かったらしい。
すまんな、そう謝りグレン皇太子は副団長にある書類を差し出した。
「なんだ、これは。
こんなものは昨夜はなかったぞ?」
少なくとも、自分の管理時間には。
そうシェイルズは返事をする。
「ああ、今朝方だ。
交代後に届いた。
どう思う?」
どう思う?
書面の内容は、ラズ高家からの訪問をお断りする内容だった。
第二子女のライナの署名があり、高家の印が押されている公的なものだった。
「なにも?
俺たちの訪問を却下するのは毎度のことだ。
ただーーこれだな。
皇帝陛下よりの直々の御使者が来訪されるため、皇太子殿下にはお控え願いたく‥‥‥」
皇帝陛下より直々の使者?
格式で言えば王族と同格だが、爵位で言えば侯爵。
それも王族ではないラズ高家に?
「大公家なら話も分かるがな。
通例なら、使者を立てるよりは書面で贈るのが習いだろう。
当主交代程度でか?
高家同士の婚姻などならば、話は別だが」
他に気になる点は特にはないがーー
しかし、グレンは違うようだった。
「少し前に、ニアムと。
ああ、ユニスと話をした。お前に教えて貰ったあれでな」
そう言い、宝珠を指差す。
「それがどうかしたのか?」
それが問題なんだ。
グレンは頭を抱えたように言う。
「その交代式の日取りを見ろ。
皇帝陛下からの使者が行く日も、俺が行く日もそりゃ、同じだがな。
ユニスも、その日にラズに行くのだ」
大公公女様が?
そりゃあ、行くだろう。普段ならば。
「大公家の公女としての公務であれば、行くだろうな?
だが、この日取りではお前たちの婚姻披露の前日ではないか。
魔導を使っても二日はかかる距離だ。
イズバイア、お前、フラれたのか?」
まさか、連絡が途絶えていたり、この兵舎での騒ぎが誰かから漏れて愛想をつかされたのか。
そんな可能性も、否定はできなかった。
ただ、あれほどこの皇太子を慕い、側室でもなんでもいいと言っていたユニスがそうするとはーー
シェイルズは考えれなかった。
「そんな訳があるか。
昨夜もいろいろと会話をしたところだ。
だが、その日取りでは聞いていない」
「聞いていないとは、お前、さっき公女殿下が行くと断言したではないか」
意味が分からない。シェイルズは不機嫌なままだ。
「断言できるからだ。
大公家の代表が、ユニスから聞いている日取りならその四日前の筈だ。
実際にもうすぐそこまでシェス大河を登ってきている。
婚儀まであと六日もないんだぞ!?」
すでにグレンは帝都への帰還をするための準備を済ませていた。
そして、明日、ユニスと会い翌日に、そのまま高家に挨拶をして二人で戻るつもりだった。
その日が、高家の当主の交代式の日だと思っていたからだ。
「では予定が遅くなったということではないのか?」
いいや、それはない。
グレンは否定した。
「先程、帝都に尋ねたらその日取りはすでに、一月より前から決まっていたそうだ。
まあ、こんな目と鼻の先にいながら粗雑に扱われてきたから気にしないでいたこちらにも落ち度。
それはあるがなーー」
粗雑?
原因はお前だろう。
シェイルズはそう言いたかった。
この左目がその引き金を引いたのだから。
「イズバイア、その認識は改めろ。
この左目の件で俺の親父様は降格をくらい、爵位を兄上に委譲して伯爵にまで下がったのだ。
高家と帝室を危険にさらしたとしてな。
この騎士団の団長の椅子すら追われた。
理解していないのか?」
その腰かけている椅子はどれだけの犠牲の上にあるのか知っているのか。
身内の問題もあり、寝起きの不機嫌も重なってついついシェイルズは声高に叫んでしまった。
「おい、シェイルズ‥‥‥」
さすがにグレンにも団長や皇太子としての威厳がある。
こうまで言われては黙れない。
「夜勤が続いて疲労も多いようだな?
俺は予定通り帝都へと戻る。
しばらく、そうだな。
俺が戻る婚儀が終わるまで二週間ほどのんびりとしたらどうだ?」
「どういう意味かな、団長殿」
「休め、そう言ったのだ。
ああ、後その交代式にはお前が行け。
闇の牙の団長代行としてな。
それなら、断る理由にはならん」
ふざけるな。
シェイルズは書類を机に叩きつけた。
「自分の後始末は自分でつけろ皇太子殿下殿。
過去の亡霊を消し去るか、婚儀を選びまだ新たな火種を生むのか。
自分で選ぶんだな」
「おい‥‥‥どういう意味だ?
過去の亡霊とはー‥‥‥」
こいつはここまで言わなければ分からないのか。
呆れ果ててシェイルズはため息をついた。
「魔導で戻れば二日だ。
間にある俺の実家。そこに親父殿はいる。
せめて、前団長に謝罪と今回の報告をしていけ。
この左目のことはそれで終わりだ。
出来なけれな、俺はここを去る。
その高家には出てやる。婚約者を選ぶか、過去を清算するか。
いま決めろ」
今日、謝罪に行け。シェイルズはそう言っていた。
ユニスとは婚約の席で会えと。
冷たい空気が室内を覆い始めた。
謝罪を選べば、皇太子として団長として部下に命じられたことになる。
ユニスを選べば、この親友を失う。
たった一言が、ここまで親友を怒らせるほど根深いとは‥‥‥。
グレンが選んだのは、一つだけだ。
「ならーー出て行け。
高家の式だけは最後の仕事として任せた。
俺はいまからここを発つ。ただし、俺の意思でな」
部下の指示は受けない。
次期皇帝としては当然の選択だったがーー
「そうか。
なら、俺たちの友情もこれで終わりだな」
この言葉だけはあり得ないと思っていた。
せいぜい、少しの休みを願い出ると、この黒い鷹ならば。
そう思っての演技が裏目に出た。
「シェ‥‥‥」
呼び止めようとした時には、黒い鷹はすでに部屋を出てしまっていた。
「殿下。
どうなさいました、こんな朝早く。
ご公務は?」
例のごとく、突然の恋人からの連絡に喜びを隠しきれないユニスだった。
しかし、グレンの声がどことなく重い気がして不安を感じる。
「ニアム、隠さずに教えてくれないか?
なぜ、交代式の陛下からの使者だということを黙っていた?」
もしかしたら、そんな疑問八割の質問だった。
否定して欲しい。そう思いながら、聞いてみたがユニスの口は堅かった。
「そのようなことは知りません。
知っていても、申し上げれません」
許可が出ていない相手には伝えれない。
これは使者なら当然の返事だ。
例え相手が次期皇帝であってもだ。
「そうか。
なら、父上からの使者、というのは本当だということだな?
婚儀が遅れることも知っていた。
そういうことか?」
「それは・・・・・・なんとも申し上げれません。
延期したとしても何も問題はーー」
「大有りだ」
「え、イズバイア‥‥‥??」
「僕はこれから帝都へと戻る。
君はどうする?
付いてくるのか、来ないのか?
婚約者の、僕の言う事を聞けないほどに重要なのか?」
何故、この人はこんなにも自分本位なのだろう。
伝えれないことも、婚儀が遅れることも、全てを言えないことも。
どれもが心の中では謝罪しているし、立場として言えないこともある。
騎士団長としての要職にありながら、どうして考えてくれないの?
そう、ユニスは思ってしまう。
婚約も、全ては皇帝陛下の気分次第で壊れることすら理解してくれないのか、と。
「イズバイア‥‥‥行けません。
これは公務です。
我が家にも迷惑がかかります。ラズ高家にも、この船を出してくれている者たちにも。
なぜ、それを理解してくれないのですか?」
だが、その悲鳴はーーグレンにはこう聞こえた。
あなたはまだ皇帝ではないのだから、従いなさい、と。
この公女まで俺に命じるのか、そう感じれた。
「そうか。
ニアムまで、な。
あのシェイルズすら、出て行った。
婚儀の報告と謝罪を前団長のあいつの親父殿にしてから行け、そう命じられたよ。
俺が自分の意思でなら行くと言えばーー」
「まさか、騎士団を辞められた!?」
なんてことを。
こんな会話をしている場合じゃない。
ユニスは諭すように言う。
「イズバイア。
すぐにシェイルズ様を追いなさい。
あなたがわたしに愛を語る前に、無くしてはいけない存在をあなたは失いかけてる。
なぜそんな話になったのですか?」
少しだけ、グレンが無口になる。
そして理由を語り出した。
「六年前だ。
俺とラズの第二王女の双子とな。
嵐の海にその片方と飛び込んだ。
黒が助けてくれて、あの左目を失った」
そんな過去が‥‥‥。だけど、なぜそれと彼の父親とが?
そこが繋がらない。
「あいつの親父殿はこの団長の席を追われ、高家と帝室を危険にさらしたとして降格に。
侯爵位を長男に委譲して、蟄居。つまり、家からでるなと。そう命じられた。
その謝罪を詫びをしてこいと言われたのだ。ニーエはそれから半年もたたずに出産、ライナは
もう六年も連絡がない。
交代式の挨拶に行くと言えば、これだ。
見えるか? 高家の紋章入りの出入り禁止だ」
そういう過去だったのね、イズバイア。
なら、あなたはすぐに彼を追うべきよ。
そう言おうとして、ユニスは気づく。
半年たたずに?
そんな嵐の海に飛び込むような身体で、妊娠?
時期がおかしいのではないか、と。グレンやシェイルズが相手と思った訳ではない。
自暴自棄になるようにニーエを追いこんだのはあなたではないのか。
そう思ったのだ。平民との子を侯爵家子女が宿せるはずがない。
貴族の令嬢など、その家からでることすら普段は許されないのだから。
それをさせたのは、グレンの遊びが原因ではないのか。
そう感じていた。
「イズバイア。
すぐにシェイルズ様を追って。
そして、シェイルズ様の父君に心からの謝罪を。
それはあなたの義務のはず‥‥‥」
君までそれを言うのか。
そんな顔をグレンはする。
「ならどうする?
婚儀は遅れるのはほっておくのか?
それを黙っていた謝罪はなしか、ニアム?」
まだ、それを言うの?
言えない事情も、皇太子ならば分かるはず。
「できません。公務です。
遅れることも、公務であればあり得る事。
これを伝えることすら許されない身で、謝罪などすれば公務を受けたことが丸わかりです。
実家に迷惑はかけれません」
「どんな公務、かも言えないのか?」
「言えません。あなたも皇太子ならば分かるはずです」
こんなに強情とはな。まあ、分かっていたが。
「婚儀に遅れたら、取りやめにすると言ったら?」
ユニスにも限界があった。
子供じみたわがままは、結婚してからならばいくらでも受け入れる。
今はまだ他人の身だ。
「そんな器量の狭い男性ならば、こちらからお断りします。
この公務が終われば、あの大河に身を投じます。
もう、助けは結構!!」
ユニスは思わず、宝珠を床に叩きつけていた。
「おい‥‥‥」
後には、一人呆然となるグレンが消えた画面を見たまま取り残されていた。
「なんだこれは‥‥‥?」
その朝はグレン皇太子の疑問の声から始まった。
横に付き添い立つ従僕に、別室のシェイルズを呼びに行かせる。
しばらくして、寝起きで不機嫌そうな顔のシェイルズが姿を現した。
「お前たちは下がっていろ」
騎士団長室の全員を下がらせて、室内は団長と副団長だけになる。
それを確認した後に、用心には用心をとシェイルズは魔導でいくつかの防音のような壁を張り巡らした。
グレンに向かい、鋭い眼光で睨みつける。
「俺は夜勤明けに起こされるような、不出来な仕事はしていないんだがな。
イズバイア、お前と違ってな」
ああ、これは余程眠かったらしい。
すまんな、そう謝りグレン皇太子は副団長にある書類を差し出した。
「なんだ、これは。
こんなものは昨夜はなかったぞ?」
少なくとも、自分の管理時間には。
そうシェイルズは返事をする。
「ああ、今朝方だ。
交代後に届いた。
どう思う?」
どう思う?
書面の内容は、ラズ高家からの訪問をお断りする内容だった。
第二子女のライナの署名があり、高家の印が押されている公的なものだった。
「なにも?
俺たちの訪問を却下するのは毎度のことだ。
ただーーこれだな。
皇帝陛下よりの直々の御使者が来訪されるため、皇太子殿下にはお控え願いたく‥‥‥」
皇帝陛下より直々の使者?
格式で言えば王族と同格だが、爵位で言えば侯爵。
それも王族ではないラズ高家に?
「大公家なら話も分かるがな。
通例なら、使者を立てるよりは書面で贈るのが習いだろう。
当主交代程度でか?
高家同士の婚姻などならば、話は別だが」
他に気になる点は特にはないがーー
しかし、グレンは違うようだった。
「少し前に、ニアムと。
ああ、ユニスと話をした。お前に教えて貰ったあれでな」
そう言い、宝珠を指差す。
「それがどうかしたのか?」
それが問題なんだ。
グレンは頭を抱えたように言う。
「その交代式の日取りを見ろ。
皇帝陛下からの使者が行く日も、俺が行く日もそりゃ、同じだがな。
ユニスも、その日にラズに行くのだ」
大公公女様が?
そりゃあ、行くだろう。普段ならば。
「大公家の公女としての公務であれば、行くだろうな?
だが、この日取りではお前たちの婚姻披露の前日ではないか。
魔導を使っても二日はかかる距離だ。
イズバイア、お前、フラれたのか?」
まさか、連絡が途絶えていたり、この兵舎での騒ぎが誰かから漏れて愛想をつかされたのか。
そんな可能性も、否定はできなかった。
ただ、あれほどこの皇太子を慕い、側室でもなんでもいいと言っていたユニスがそうするとはーー
シェイルズは考えれなかった。
「そんな訳があるか。
昨夜もいろいろと会話をしたところだ。
だが、その日取りでは聞いていない」
「聞いていないとは、お前、さっき公女殿下が行くと断言したではないか」
意味が分からない。シェイルズは不機嫌なままだ。
「断言できるからだ。
大公家の代表が、ユニスから聞いている日取りならその四日前の筈だ。
実際にもうすぐそこまでシェス大河を登ってきている。
婚儀まであと六日もないんだぞ!?」
すでにグレンは帝都への帰還をするための準備を済ませていた。
そして、明日、ユニスと会い翌日に、そのまま高家に挨拶をして二人で戻るつもりだった。
その日が、高家の当主の交代式の日だと思っていたからだ。
「では予定が遅くなったということではないのか?」
いいや、それはない。
グレンは否定した。
「先程、帝都に尋ねたらその日取りはすでに、一月より前から決まっていたそうだ。
まあ、こんな目と鼻の先にいながら粗雑に扱われてきたから気にしないでいたこちらにも落ち度。
それはあるがなーー」
粗雑?
原因はお前だろう。
シェイルズはそう言いたかった。
この左目がその引き金を引いたのだから。
「イズバイア、その認識は改めろ。
この左目の件で俺の親父様は降格をくらい、爵位を兄上に委譲して伯爵にまで下がったのだ。
高家と帝室を危険にさらしたとしてな。
この騎士団の団長の椅子すら追われた。
理解していないのか?」
その腰かけている椅子はどれだけの犠牲の上にあるのか知っているのか。
身内の問題もあり、寝起きの不機嫌も重なってついついシェイルズは声高に叫んでしまった。
「おい、シェイルズ‥‥‥」
さすがにグレンにも団長や皇太子としての威厳がある。
こうまで言われては黙れない。
「夜勤が続いて疲労も多いようだな?
俺は予定通り帝都へと戻る。
しばらく、そうだな。
俺が戻る婚儀が終わるまで二週間ほどのんびりとしたらどうだ?」
「どういう意味かな、団長殿」
「休め、そう言ったのだ。
ああ、後その交代式にはお前が行け。
闇の牙の団長代行としてな。
それなら、断る理由にはならん」
ふざけるな。
シェイルズは書類を机に叩きつけた。
「自分の後始末は自分でつけろ皇太子殿下殿。
過去の亡霊を消し去るか、婚儀を選びまだ新たな火種を生むのか。
自分で選ぶんだな」
「おい‥‥‥どういう意味だ?
過去の亡霊とはー‥‥‥」
こいつはここまで言わなければ分からないのか。
呆れ果ててシェイルズはため息をついた。
「魔導で戻れば二日だ。
間にある俺の実家。そこに親父殿はいる。
せめて、前団長に謝罪と今回の報告をしていけ。
この左目のことはそれで終わりだ。
出来なけれな、俺はここを去る。
その高家には出てやる。婚約者を選ぶか、過去を清算するか。
いま決めろ」
今日、謝罪に行け。シェイルズはそう言っていた。
ユニスとは婚約の席で会えと。
冷たい空気が室内を覆い始めた。
謝罪を選べば、皇太子として団長として部下に命じられたことになる。
ユニスを選べば、この親友を失う。
たった一言が、ここまで親友を怒らせるほど根深いとは‥‥‥。
グレンが選んだのは、一つだけだ。
「ならーー出て行け。
高家の式だけは最後の仕事として任せた。
俺はいまからここを発つ。ただし、俺の意思でな」
部下の指示は受けない。
次期皇帝としては当然の選択だったがーー
「そうか。
なら、俺たちの友情もこれで終わりだな」
この言葉だけはあり得ないと思っていた。
せいぜい、少しの休みを願い出ると、この黒い鷹ならば。
そう思っての演技が裏目に出た。
「シェ‥‥‥」
呼び止めようとした時には、黒い鷹はすでに部屋を出てしまっていた。
「殿下。
どうなさいました、こんな朝早く。
ご公務は?」
例のごとく、突然の恋人からの連絡に喜びを隠しきれないユニスだった。
しかし、グレンの声がどことなく重い気がして不安を感じる。
「ニアム、隠さずに教えてくれないか?
なぜ、交代式の陛下からの使者だということを黙っていた?」
もしかしたら、そんな疑問八割の質問だった。
否定して欲しい。そう思いながら、聞いてみたがユニスの口は堅かった。
「そのようなことは知りません。
知っていても、申し上げれません」
許可が出ていない相手には伝えれない。
これは使者なら当然の返事だ。
例え相手が次期皇帝であってもだ。
「そうか。
なら、父上からの使者、というのは本当だということだな?
婚儀が遅れることも知っていた。
そういうことか?」
「それは・・・・・・なんとも申し上げれません。
延期したとしても何も問題はーー」
「大有りだ」
「え、イズバイア‥‥‥??」
「僕はこれから帝都へと戻る。
君はどうする?
付いてくるのか、来ないのか?
婚約者の、僕の言う事を聞けないほどに重要なのか?」
何故、この人はこんなにも自分本位なのだろう。
伝えれないことも、婚儀が遅れることも、全てを言えないことも。
どれもが心の中では謝罪しているし、立場として言えないこともある。
騎士団長としての要職にありながら、どうして考えてくれないの?
そう、ユニスは思ってしまう。
婚約も、全ては皇帝陛下の気分次第で壊れることすら理解してくれないのか、と。
「イズバイア‥‥‥行けません。
これは公務です。
我が家にも迷惑がかかります。ラズ高家にも、この船を出してくれている者たちにも。
なぜ、それを理解してくれないのですか?」
だが、その悲鳴はーーグレンにはこう聞こえた。
あなたはまだ皇帝ではないのだから、従いなさい、と。
この公女まで俺に命じるのか、そう感じれた。
「そうか。
ニアムまで、な。
あのシェイルズすら、出て行った。
婚儀の報告と謝罪を前団長のあいつの親父殿にしてから行け、そう命じられたよ。
俺が自分の意思でなら行くと言えばーー」
「まさか、騎士団を辞められた!?」
なんてことを。
こんな会話をしている場合じゃない。
ユニスは諭すように言う。
「イズバイア。
すぐにシェイルズ様を追いなさい。
あなたがわたしに愛を語る前に、無くしてはいけない存在をあなたは失いかけてる。
なぜそんな話になったのですか?」
少しだけ、グレンが無口になる。
そして理由を語り出した。
「六年前だ。
俺とラズの第二王女の双子とな。
嵐の海にその片方と飛び込んだ。
黒が助けてくれて、あの左目を失った」
そんな過去が‥‥‥。だけど、なぜそれと彼の父親とが?
そこが繋がらない。
「あいつの親父殿はこの団長の席を追われ、高家と帝室を危険にさらしたとして降格に。
侯爵位を長男に委譲して、蟄居。つまり、家からでるなと。そう命じられた。
その謝罪を詫びをしてこいと言われたのだ。ニーエはそれから半年もたたずに出産、ライナは
もう六年も連絡がない。
交代式の挨拶に行くと言えば、これだ。
見えるか? 高家の紋章入りの出入り禁止だ」
そういう過去だったのね、イズバイア。
なら、あなたはすぐに彼を追うべきよ。
そう言おうとして、ユニスは気づく。
半年たたずに?
そんな嵐の海に飛び込むような身体で、妊娠?
時期がおかしいのではないか、と。グレンやシェイルズが相手と思った訳ではない。
自暴自棄になるようにニーエを追いこんだのはあなたではないのか。
そう思ったのだ。平民との子を侯爵家子女が宿せるはずがない。
貴族の令嬢など、その家からでることすら普段は許されないのだから。
それをさせたのは、グレンの遊びが原因ではないのか。
そう感じていた。
「イズバイア。
すぐにシェイルズ様を追って。
そして、シェイルズ様の父君に心からの謝罪を。
それはあなたの義務のはず‥‥‥」
君までそれを言うのか。
そんな顔をグレンはする。
「ならどうする?
婚儀は遅れるのはほっておくのか?
それを黙っていた謝罪はなしか、ニアム?」
まだ、それを言うの?
言えない事情も、皇太子ならば分かるはず。
「できません。公務です。
遅れることも、公務であればあり得る事。
これを伝えることすら許されない身で、謝罪などすれば公務を受けたことが丸わかりです。
実家に迷惑はかけれません」
「どんな公務、かも言えないのか?」
「言えません。あなたも皇太子ならば分かるはずです」
こんなに強情とはな。まあ、分かっていたが。
「婚儀に遅れたら、取りやめにすると言ったら?」
ユニスにも限界があった。
子供じみたわがままは、結婚してからならばいくらでも受け入れる。
今はまだ他人の身だ。
「そんな器量の狭い男性ならば、こちらからお断りします。
この公務が終われば、あの大河に身を投じます。
もう、助けは結構!!」
ユニスは思わず、宝珠を床に叩きつけていた。
「おい‥‥‥」
後には、一人呆然となるグレンが消えた画面を見たまま取り残されていた。
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エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。
そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。
「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。
エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。
ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。
※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』
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