突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第三章 開戦の幕開け

第六十一話 一月だけの女王

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 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 (ユニス視点)


 殿下のあまりにもの無理な物言い、実家への配慮、殿下への恩義を感じながらーー
 叩き割ってしまった、この大ぶりな宝珠が床に半壊してしまいました。
「少し、やり過ぎたでしょうか?」
 宝珠からは映らない位置にいらっしゃるその方に不安そうに。
 いえ、もの凄く不安になりながらわたしは問いかけます。
 もし、本当にこれで縁が切れてしまったらどうしよう。
 それよりも、今度は帝室との縁を踏みにじる行為。
 実家への非難は相当なもののはず。
 殿下が、それをどこまで汲み取り動いてくれるか。
 それはわたしでは殿下の人となりを知るには時間が短すぎる。
 泣きそうになりながら、その方に問いかけてみました。
「いいえ、あのバカにはこの程度でいいのです。
 まあ、宝珠を割るのはいささかーーその」
「あ、そんなに高価な‥‥‥?
 それとも淑女らしくなかったですか?」
「いいえ、公女殿下。
 その程度の苛烈さが無ければあの白馬?
 いまは駄馬ですな。乗りこなせんので、問題ありません」
 どこまでもわたしに気兼ねさせることなく済むように声をかけて頂ける。
 イズバイアは、どこまで本気だったのか。
 それがわたしにははっきりとしない、モヤモヤとしたものが心に残ります。
「あー……そうですな。
 いずれバレるよりは先に暴露大会と行きましょうか。
 大公家の黒き姫君」
 黒い姫?
 確かにわたしは赤髪に緑の瞳、褐色の肌ですが‥‥‥。
「そこまで黒く見えますか?
 この肌は?」
「は?
 いいえ、とんでもない。
 とても美しい淑女ですよ。あのバカの白い鷹。
 いや、いまは白い鳩よりはね」
 白い鳩。
 幸せを運び、たまに伝書鳩としても使われる。
「酷いことを言われますね、帝国の黒き鷹は」
 はい、そうです。わたしの目のまえにはルサージュ侯子息シェイルズ様が。
 殿下の連絡の一時間ほど前にいきなり魔導のーー転送、ですか?
 アルフレッドが目印とかなんとか言われながら現れました。
「いまは上手く伝書鳩に格下げしておいた方がいいのですよ。
 ですが、公女殿下。
 イズバイアの本心はあなた様に向いている。これだけは、あれの十年来の友として断言できる。
 でなければ、アルフレッドを傍には置きませんでした」
 自信をもって言われるその言葉の裏がよくわかりませんでした。
「それはなぜ?」
「あれは、アルフレッドは保険です。
 わたしがここにこの距離を転送できたのは、あなた様になにかあった際、即座にあの鳩が動く為。
 あれは、いま背負い過ぎてるんですよ。北に東の大公家の宰相への野心。
 三国間の問題はあのまま、現皇帝陛下からバカ皇太子に移るでしょう。
 しかしーーその隣にはわたしは居れません。
 こうみえても皇族の端くれではありますが、端は端。
 真ん中には行けないのです。いなは鍛え上げねばそう思いやや、やり過ぎました」
 シェイルズ様のお心は殿下から離れていない。
 その確信だけは、とても嬉しいものでした。
「ですが、シェイルズ様。
 なぜ、御父上様の元へと殿下を?」
「父上はいま屋敷から出るな。そう皇帝陛下から言われてはいますがあの殿下のやんちゃを‥‥‥。
 散々尻拭いしながらも、席を譲るときは何も怒っていませんでした。
 この傷は二回ついたのです」
 ああ、そうでした。
 殿下をお救いした若い時と、戦場での同じく殿下を庇っての傷。
「シェイルズ様には殿下は二度、命の恩義があるのですね」
「恩義など。
 家柄だの地位だの貴族だの。
 そんなものを取り払って言えば、戦友と親友を守っただけ。
 それにーー」
「え‥‥‥まさか。
 シェイルズ様が一番の黒い鷹ではありませんか?」
 彼は左目を開けて笑われました。もうその目は見えている。そう言われながら。
「これを治すために魔導を学んだ。そう言っても過言ではありません。
 あの鳩を癒すのにはそれも必要。まあ、あのフレゲード侯爵子息殿が攻撃が得意ならば。
 情報戦と防衛線。そして、魔導での移動速度の飛躍的進歩。
 これについては、わたしと殿下を抜ける者などおりませんよ。
 帝室の宮廷魔導師ですら、凌駕する自信はあります。
 まあ、こんな話はあとからにしましょう。
 とりあえず、暴露から」
「まあ。
 殿下の黒い噂をまだ教える気ですか?」
 わたしは呆れてものが言えません。でも知りたい気もちはたくさんあります。
 イズバイアの全てを包みこんであげたい。たとえ、街の郊外に家を与えられ愛人の扱いでも。
 この命を捧げる。そう決めたのですから。
「ですが、知りたいでしょう? 
 まあ、握っておけば後々、あなたならあれを上手く手綱を引けるはず。
 現皇帝陛下が、正室しかもたれぬように。あと一つ。 
 あれはあなたに甘えるならば、結婚してからにするべきでした。
 その点は、わたしからお詫び申し上げます。どうか、許してやって頂きたくーー」
「では、その悪行を教えて頂ければ。
 忘れましょう」
 そう意地悪く言ってみました。
「そうですな、数日前ですが夜勤上がりに団長室に戻ったところ酒瓶と半裸の男女が多くいましてな」
「まあ!?
 そんな不名誉な!!」
 わたしが怒りそうな声をあげた時です。
 室内にいたもう一人の男性がまあまあ、といさめて下さいました。
「まあ、姫様。
 殿方は結婚前には友人知人とともにバカ騒ぎをするものです。
 ですが、それは浮気ではありませんよ。それからのあなたへの長い愛、と言えば難しい。
 恋愛は片足ずつ、二人で横並びになった際に。
 こう、右側は左足を。左側は右足を。解けそうで解けないハンカチで結んで歩くようなものです。
 結婚は、その状態で障害物がとめどなくやってくる。
 出産、子育て、中の事、外の事。それを二人だけで乗り越えれるか。
 それに対する、誓いのような一夜でその後の何十年分のバカ騒ぎを終わらせる。
 そんなものです。どうかご理解を」
「でも、船長。
 半裸だなんて‥‥‥わたしですらーー」
 男性二人はこれには以外だった様子。
「まあ、まだ姫様は十七歳とお若い。ですがあなた様は聡明だ。
 家の中でしっかりと金銭を管理するのをお勧めします」
「ああ、それなら問題ありません。
 グレンは、殿下の帝室の口座はわたしが凍結させましたからな。
 団長になった際にです。ですから、あの鳩は小遣い制。
 それをそのまま、少しだけ額を増やしてやれば宜しい」
 シェイルズ様は得意気に言われます。これは船長も呆れた様子。
「御二方のような若く怖い知恵者は敵には回したくないものだ。
 で、なぜわたしはここにいるのでしょうか?」
 もういろいろな意味で深入りし過ぎたから、最後までやり遂げさせて欲しいものですな。
 商人として。そう船長は言って下さいました。
「はい、船長。
 その前にシェイルズ様。
 殿下をご実家に行かせたのには他に理由があるのではありませんか?
 闇の牙は総勢三万。青い狼ですら最大で六万を持つのに、その半分でこの北と東の半分を見る。
 それには不十分な気もします。
 ほかにもいくつかの騎士団はその手前で北と東に睨みを効かせているようには思いますが。
 何か別の本命があるのでは?」
 両目を開けて意地悪く笑う黒き鷹。
「そうですな、公女殿下。
 我が騎士団は移動と情報に長けております。だからこその、闇の牙、なのですよ。
 言えば悪いですが、あの鳩ではその全ては見切れません。
 それに、この左目の最初の傷は、陛下の恩寵により数日後には完治していたのです。
 外側の傷だけは残して、ですが」
「では、降格や閉門は建前‥‥‥?」
「大きくは、エシャーナ侯の戦傷での退役。
 我が父の閉門。この時期はほぼ重なります。
 陛下は巨大な帝国を人知れず、それでいて解体に導くことなく繁栄を考えておられた。
 エシャーナ侯は北の枢軸と北の大公家を。
 我が父は東の大公家と、枢軸の国境の小国群。
 それらを監視し、あの三角洲での戦闘にて常に兵の戦いの精度を上げる。
 その為のハーベスト大公家です」
 まあ、あのシルド殿の飛び地的な領地。
 あそこだけはなかなか落とせずに苦労しましたが。
 そう付け加えられました。
 丁度良く話題に上がったとわたしは船長に視線を移します。
「姫様、本題からですぞ。
 いいですね?
 あの時は心臓の動悸をおさめるのに大変だったのですから」
 どうやら、まだ根に持たれているようです。
「では、本題から。
 船長、あの三角洲でわたしが頂いた領地。先程のシルド様の元管理地ですが。 
 どのような状況ですか?」
 それなら、と船長は書き付けを取り出し、
「まず、港の整備ですが。これは必要ありません。
 王国側が既に重要地として整備済み。軍艦、それも戦艦並みの大型船がそうですな‥‥‥。
 百は無理ですが、半数なら余裕をもっておけるでしょう。
 大砲や武器などはすでに撤収されていますが、管理者はおらず。
 常に数百人が寝泊まりできる兵舎はそのまま利用できます。
 地下の鉱山ですが、これはまあ、これからという所ですな。
 作業用に工作機械と運搬設備。あとは人手があれば着手は可能。
 それとーー」
 何やら、三角洲の概略図を持ちだしてくる船長。
「王国側は枢軸連邦に遠慮してその多くの兵力を本土に戻しています。
 この姫様の飛び地ですが、周囲を灌木やかなり樹齢のいった森林と言いますか。
 まあ、材木としての価値は低いですが自然の防壁にはなっていたようですな」
「ほお‥‥‥これは面白い。
 これほど多くの情報をどこで?
 かなりの期間を要したのでは?」
 興味深そうにシェイルズ様が船長に尋ねます。
「いえいえ、ここ数日ですよ。
 この程度であれば、行き交う船舶からでも視認はできますし。
 出入りしていた商人も多くいますからな。
 この辺りは商人の知恵、そういうものです」
 少し得意気な船長。シェイルズ様も感心されていました。
「で、この駒をどうお使いで?」
「そうですな、公女殿下。ここはいま法王猊下に寄進だのと叫んでいる枢軸連邦のこともあります。
 下手にいじれば、火薬庫に火をつけるようなもの‥‥‥」
 不安そうな、その答えを知りたくなさそうな御二方はわたしの返事を聞いて大きくため息をつかれます。
「はい、こうして殿下にわたしから婚約破棄を申し上げましたし。
 このままでは我が大公家にもその責任が及んで来ます。
 ならば、先にわたしから火薬に火をつけたいと思います。
 こうしてー‥‥‥帝室の正当な認可を受けた書類もありますし。
 交易路を確立するには最大の機会かと」
 やはり。
 御二方は顔を見合わせてとんでもない場に巻き込まれてしまった。
 そんな雰囲気でした。
「もちろん、船長は大きな利益が入りますし。
 シェイルズ様はどちらかと言えば殿下の団長指示を無視した軍規違反のお尋ね者。
 お手伝い頂けますよね?
 我がハーベスト大公家の当主代行として、いまはわたしが帝国から全権を委任されておりますから」
 皇帝陛下からの指示書には、事細かな指示はありませんでした。
 ただ、期間を設け、全権を委任する。
 仔細は口頭で随時述べる。そう書かれていましたから、これを使わせて頂くことにしました。
「期間は本日を含むあと一月もありません。
 船長は我が大公家の公用商人に。
 シェイルズ様はハーベスト王家の宰相に。
 期間限定的ですが、お迎え致します。もちろん、シェイルズ様は三男。
 妥当であれば、伯か男爵ですが。
 公爵ではいかがでしょう?」
「は?
 公女殿下。それはご冗談が‥‥‥」
「いいえ、本気です。
 ハーベスト王家軍、六万。
 指揮したい。その野望はありませんか?」
 六万?
 今まで任されていた実質的な直属でも二千の俺に?
 これほどの賭けを提案するなど。
 そして公爵か。あの鳩と同列に並んだわ。王族としてもな。
 そうシェイルズ様は思われたように、わたしには感じれました。
「では、ついでに闇の牙の団長代行をあと四日ほど。
 あのラズ高家の代公式までは言われていますからな。
 この際、掌握してやりましょう。
 あの鳩が豆鉄砲を食ったような顔をするのを見たいものだ」
 さて後は船長だけ。
 もう、逃げ場がない。船長は心臓を抑えていました。
「もういいですよ、なんでも。
 わたしはなにをしますか、公女殿下。いえ、ハーベスト女王陛下。
 期間限定ですが」
 船長は覚悟を決めた様子。
「では、前回話した軍船六十から最大数をこの数日で、資財、その他を集めて‥‥‥」
「三角洲を乗っとるんですな?
 まあ、そう言うだろうとあの日以来、声はかけております。
 ただ、これだけはお伺いしますよ、女王陛下。
 敵はどこですか?
 それを見誤ると、単なる内乱。すべては帝国全土からの包囲を受けて終わります。
 帝室への威嚇ですか? 帝都とあの三角洲は目と鼻の先。
 それもよろしいでしょう。ですが、その場合は陛下は冗談では済まされませんぞ?
 公国そのものが無くなります。我らは大罪人。
 子孫の繁栄どころでは無くなります」
 その通りです。
 良くて数か月。
 我が大公家は滅びるでしょう。そして義父上様はいま帝都に。
 即日、処分となる可能性もあります。
「はい、まずはあのわたしが実家を出た際の通過拠点。
 エニシス半島のアバルン城塞都市への勧告を出します。
 不当な検閲行為をハーベスト大公家に対して行ったと。
 こちら側が、試しにベシケア大公家の公用旗を掲げて通過したところ、それはされなかったが。
 その疑いあり。そう王国に通告します。
 公女であり、皇太子殿下の正室としての婚約者を狙ったという密告があったという理由で」
 これにはシェイルズ様が渋い顔をなさいました。
「つまり、言いがかりをつけて相手を挑発し戦端を開く。
 そういうお考えですか?
 その兵力の移動用に、六十もの戦艦を用意する、と?
 あのエニシス半島は確かに、王国にとっては大河の管理権をかけた重要拠点。
 それなりの兵力もあるのでは?」
「船長、いかがですか?」
 それも調査しているのか。
 手回しが良すぎる。
 シェイルズ様はそうお考えのご様子。
「大公家軍を動かすとしても全軍は即時には動けないでしょう?
 戦艦にどれだけ傭兵を用意しても二千が良いところ。
 最低でも一万の兵は要ります。準備に二週間は必要。
 それに、この話は宰相殿も知らないのでしょう?
 軍が動きますか?」
 その指摘はごもっともです。
 ですが、御二方はお忘れなのですね。我が実家がどこにあるかを。
「エシャーナ侯領はハーベスト大公家領とその国境と言えば変ですが。
 境目を同じくしています。ですから、その補充に二万も動けば問題ありません」
「公女殿下、まさか青い狼の第二師団を向かわすつもりですか?
 御実家のエシャーナ侯とハーベスト大公、そして皇帝陛下の御三方ももう数十年来の友人。
 動かせる自信がおありなのですか?」
 いいえ、わたしはそう首を振ります。
 途端、落胆した顔をされる二人。
 これでは、ただ絵空事だと。そう言いたいご様子。
「殿下からあの宝珠の使い方を学びました。
 では、そういうことでよろしいでしょうか。
 お父様」
 は???
 二人の顔が理解不能。そんなご様子です。
 わたしは、部屋の隅に用意させた宝珠の声をかけました。
「まさか。
 これはエシャーナ侯の肝いり‥‥‥???」
「姫様、そこまで根回しを?」
 宝珠の映し指すさきには、実家のお父様の御姿が。
「すまぬな、御二方。
 いや、公用商人アーベル商会会頭、エド・アーベル殿。
 そして、どう名乗られるかな? 公爵閣下?」
 全ては敷かれていた路線を歩かされていた。
 そんな顔の御二方。
「そうですな、エシャーナ侯。
 家名は捨てれませんが、ここでそれを名乗っては実家に被害が及ぶ。
 この際です。あの三角洲の名でもとってブルングド公爵とでも名乗りましょう。
 しかし、叙勲式もなく、帝国貴族名鑑にも名がない身で名乗れば大罪。
 どうなさるおつもりで?」
「それならば、心配はいりませんよ。
 大公家、というよりはハーベスト王国の執務官にはそちらの女王陛下とわたしの連名で既に登記済みです」
 登記済み?
 そこまで手回しがいいのは変だ。
 疑問を抱きはじめたシェイルズ様は、まさか。
 そう言われました。
「ユニス様。
 あなたは最初から‥‥‥巻き込むおつもりでしたな?
 この数日で立てた計画ではありますまい。どなたの肝いりですか?」
 わたしは黙って実父に視線を。
 エシャーナ侯が?
 その真意は‥‥‥?
「エシャーナ侯。あの夜から気づいていらしたのですな?
 皇帝陛下の判断が変わる、と」
「さすが、シェイルズ様は帝国の黒き鷹。
 陛下が、大公家二家としかも正室で迎える気はないこと程度には。
 長い付き合いですからな。ならば、せめて、側室でも愛人でもいいという娘に華を。
 それとーー」
「エイシャ様の件ですか。
 王国などにくれたまま、黙っている気はないと?
 それは私怨が過ぎるのでは? 帝国に内乱を招きますぞ?」
 しかし、お父様はあっさりと言われました。
「この程度のことで足元が揺らぐなら、ユンベルトもレンバズもそれまでの器。
 この数十年、我等はある意味、三馬鹿としてやってきたのです。
 これくらいは一蓮托生」
 レンバス。皇帝陛下の御名前を‥‥‥呼び捨てにするほどの仲。
 しかも三馬鹿などと。
「本意はどこにありますか?
 ユニス様の正室での婚儀ですか?
 エイシャ様の奪還ですか?
 それとも?」
 これにはわたしがこの陣頭に立つ者として答えました。
「王国のシェス大河のハーベスト大公領、及び、エシャーナ侯領の脅威となる最大拠点。
 エニシス半島の占拠と殿下への寄進。
 および枢軸連邦への牽制としての拠点をその地に確立することです」
 船長とシェイルズ様は不可解な顔をされます。
 エイシャの奪還はまだ納得がいく。
 では、あなたは?
 そんな顔でした。
「わたしは最後は、あの夜と同じ責を負います。
 全ては殿下の恩寵と恩義に報いるため。
 エイシャの件はできなくとも、あの子はシルド様が守られる。
 そう信じております」
「死ぬおつもりか?
 あの鳩のためにそこまでする価値が??!
 あれほど、わがままでバカの為にですか、ユニス様?」
「そうですぞ、姫様。
 これほどの武功を建てられたなら、正室も‥‥‥」
 わたしは静かに首を振りました。その気持ちは父上様が代弁してくれました。
「御二方。
 王国との婚儀であれば、帝国内にまだ波紋は少ない。
 大公家二家との縁は、例え、妾であっても。
 この帝国は二分に別れる。陛下もそれを知っておられる」
「死を以って償いをするのは感心しませんが。
 最後には別の道があると。そうわたしは思い参加しましょう、姫様」
 そう船長は言ってくださいました。
 あとはシェイルズ様のみ。
「では。帝国には白と黒の鷹がおります。 
 公爵位であれば、もはや同等。わたしも皇族ですからな。
 死ぬのであれば、女王とその鷹の半身として‥‥‥それならば、エシャーナ侯よりも格上。
 わたしの殿下への反逆として処理されます。
 御実家には互いに、類は及びません。
 船長は脅された、とーー最後はそう動けば宜しいでしょう。
 すでにその手元にある書類を見る限りで分かることです。
 最後まで付き合いますよ。もう‥‥‥待つべき女性もおりませんからな
 しかし、ここまでする意味がわたしには理解できません
 いまの流れのまま、静かに幕を引き、ユニス様が御実家に戻られても。
 陛下も宰相殿も文句は言われないでしょう?
 なぜ、ここまでするのか。
 それは、恩寵だの恩義だの。
 そんな上辺の言葉は要りませんよ。
 エシャーナ侯とユニス様の本心はどこにあるのですか?」
 それは出来れば、聞かないで欲しい。
 わたしはそう思いました。
「あの晩餐会の夜。シルド様の計画通りにわたしと帝国は三角洲に領地を得ました。
 そして、王国と枢軸連邦の連名による三角洲の寄進がされたと言うのはご存知ですか?」
 シェイルズ様はこれは初耳だ、そんな顔をされます。
 それもそのはず。これは父上様が初めて、帝国にもたらした情報なのですから。
「では、あの三角洲を方便に‥‥‥連邦と王国は帝国を狙ってくる、そういうお話か?」
「それだけではありません。
 王国はシェス大河の運用権などどうでもいいのです。
 大きくは南方、北方大陸との外洋航路の独占。それについては義父上様からの口止めをされました。
 これから考えても、帝国の主力は外洋に。そちらに向けるべきなのです。
 ならば、いまこそシェス大河の運用権の要所であるあのエニシス半島を抑える事。
 海軍に大きく力を割いている王国軍は、愚かにもシルド様などの陸軍の主力である銀鎖の団の解体をしました。
 つまり、陸路に関しては脅威は枢軸連邦のみ。
 ならば、大公家と青い狼の主力で連邦は抑えれます。
 そしてあの三角洲の運行を管理する要所として上流と下流で連邦の交易を差し止めば‥‥‥」
 殿下が即位された後の戦況は大きく帝国に有利に運ぶはず。
 それだけは言えませんでした。
 言わずとも、理解して頂ける。
 そう思ったからです。
「あなたは、まったく。
 本題を最後にもって来るのは、あの馬鹿と同じですな」
「まったく、同意見ですよ。
 公爵様。わたしもどれほど驚かされたことか」
 我々は被害者ですな、二人はそう言って笑っておられました。
「では、公爵として。
 ブルングドの名を、枢軸連邦と王国に響かせてご覧に入れます。
 ユニス様‥‥‥いえ、女王陛下」
 一月だけの王国としての戦争。
 殿下へ捧げる最後の恩返しです。
 こうして、わたしたちの策謀は始まったのでした。
 
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