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第四章 動乱の世界
第六十二話 悩める皇太子殿下
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◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ユニスが宝珠を持ちあげーー
画面が急激に揺れ‥‥‥そして全てが消えた。
「おいっ……」
グレンはあっけに取られた。
あれだけ何でも受け入れると言ってくれたのにーー
「いや、俺が甘え過ぎたか‥‥‥あの黒すらも怒らせ、しまいにはニアムまで。
愚かどころか、愚鈍。
いや、孤独の王と変わらんじゃないか。
何をやっているんだ、俺はーー」
大勢の前では、私。
ユニスの前では、僕。
黒の前では、俺。
どれが本当の自分だ?
--すぐにシェイルズ様を追いなさい! イズバイア。
ユニスの最後の忠告が頭の中によみがえる。
「自分よりも帝国を。
自分よりも友人を選べと言ってくれる女にどれほど巡り合えると‥‥‥」
道化の皇太子でもやらなければならないことはあるな。
「おい、黒は。
副団長はどこに消えた?」
まだ一時間もたっていない。
ラズ高家への挨拶も命じてある。
まだ兵舎内にいるはずーーだった。
「あの、殿下」
従僕が言いにくそうにして何かを差し出してくる。
「なんだ?」
「その、シェイルズ様が世話になった。
最後の件だけはしておく、と‥‥‥これを」
闇の牙の所属階級を現す、公式な式典に出る際に礼装につける階級章。
それがその手の中にあった。
「おい、まさか。
行かせたのか!?」
従僕はですが、と叫ぶ。
「いざ、転送だの飛行だのを使われて追い付けるのは、殿下だけですよ‥‥‥」
「本気だ‥‥‥」
「は?」
「あのバカめ。
本気でこの団どころか爵位まで捨てる気だ!」
従僕はいや、まさかそんな。と否定する。
「そんなことを成されては、シェイルズ様の御実家にまで陛下の怒りが」
「その為の爵位返上だ。
すぐに父上に繋げ。ここで失ったらすべてが終わるーー」
「‥‥‥で、どうしたのだ愚息。
私は公務で忙しいのだがな? なあ、ユンベルト?」
宝珠の画像の向こう側で大臣勢を相手にテーブルを囲む帝国の重鎮たちが見える。
くそ、こんな時に間抜けな報告ができるか!
グレンがいえ、再度にします。
そう言おうとした時だ。
「いま先程な、あの黒から上申があったぞ?
殿下に大変ご無礼をした為、爵位を帝国に返上し、それをもって実家には、とな。
ついでに、ユンベルト」
皇帝は宰相殿と場を譲る。
「はい、殿下、ご機嫌うるわしゅうございます。
申し訳ございません、当家のユニスが殿下にご無理を申し上げてしまい怒らせてしまったと。
このような愚かな身では帝室に入るには値しないので、どうか婚約のお取下げを願いたいと。
そう申してきましたがーー」
「なんですと!!?」
ユンベルト貸せ、と皇帝が宝珠を奪う。
「おい、愚息。
これはどういうことだ?
いまは皇太子殿下とは言わんぞ?
お前に最も信頼を置いてきた二人から同時にこのような申し出。
誰が見ても、お前が何か成したとしか思わんぞ、なあ、みなよ?」
その場に映る帝国の重鎮たちが一斉に首を振る。
その中には北や東の大公の姿もあった。そして、実兄の北の大公。
その他、高家の面々。有力貴族と帝国を動かす中核が勢ぞろいしていた。
「な、父上。
なぜ、その顔ふれが‥‥‥。
北や東の大公殿までーー」
犬猿の仲ではなかったのか!?
あれほどにいがみ合っていたのでは……??
「そんなことはお前には関係ない。
この場にいないエシャーナ侯と黒の御父上も混ぜての帝国馬鹿の会よ。
意味が分かるか、愚息」
「あれだけ仲が悪いと。
青の狼や闇の牙の監視はなんの意味が‥‥‥」
ふん、そう皇帝が笑い全員が笑い出す。
「お前は本当に、愚息だなグレン。
六年前の件。
あの黒の件以前から我らは一枚岩だ。
枢軸だの王国だの。
見せかけるための策謀とまだわからんか?」
「しかし、黒はあの眼をまだ見えない‥‥‥」
「見えておる。そう見せかけているだけだ。
お前は本当に、仲間も友も少ないな。私がー、いつだ、ユンベルト?」
宰相にいつ頃からこの会ができた?
そう問うていた。
「そうですな、陛下がまだ二十代前。もう三十年はならずともそれくらいには、と」
皇帝はあっけに取られるグレンに再度向かい、
「聞いたか、愚息。
これだけの友が支えてくれていまの私があるのだ。
お前にはどれだけの友がおる? あの黒がなぜ眼が見えないと嘘を言ったと思う?
お前を鍛えるためだとまだ分からんか?
後ろをみろ、グレン。私にはこれだけの友がいるぞ?
あの時は皇太子でもなんでもなかった。たんなる、皇子だ。それも末席のな。
なあ、ユンベルト?」
「はい、陛下。
兄君、姉君たちは都合よく陛下が死ねばよいと。
南方戦線に放り出しておりましたな」
「そんな、父上ーー
そのような話、一度も‥‥‥」
「当たり前だろう?
兄も姉たちも帝室はそういうものだ。恨むのは筋違いというもの。
帝位が欲しければ這い上がり、勝ち取るしかなかろうが?
上に立った後に仲直りをすれば良いのだ。家族なのだからな。
で、お前の後ろには誰も見えんがな?
この十年余り。騎士団見習いから団長まで昇りつめて磨いたのは魔導の腕だけか?
友はどこにおる?」
グレンは思わず、後ろを振りかえり辺りを見回す。
誰もいない。そう分かっていてもせずにはいられなかった。
ユニスが宝珠を持ちあげーー
画面が急激に揺れ‥‥‥そして全てが消えた。
「おいっ……」
グレンはあっけに取られた。
あれだけ何でも受け入れると言ってくれたのにーー
「いや、俺が甘え過ぎたか‥‥‥あの黒すらも怒らせ、しまいにはニアムまで。
愚かどころか、愚鈍。
いや、孤独の王と変わらんじゃないか。
何をやっているんだ、俺はーー」
大勢の前では、私。
ユニスの前では、僕。
黒の前では、俺。
どれが本当の自分だ?
--すぐにシェイルズ様を追いなさい! イズバイア。
ユニスの最後の忠告が頭の中によみがえる。
「自分よりも帝国を。
自分よりも友人を選べと言ってくれる女にどれほど巡り合えると‥‥‥」
道化の皇太子でもやらなければならないことはあるな。
「おい、黒は。
副団長はどこに消えた?」
まだ一時間もたっていない。
ラズ高家への挨拶も命じてある。
まだ兵舎内にいるはずーーだった。
「あの、殿下」
従僕が言いにくそうにして何かを差し出してくる。
「なんだ?」
「その、シェイルズ様が世話になった。
最後の件だけはしておく、と‥‥‥これを」
闇の牙の所属階級を現す、公式な式典に出る際に礼装につける階級章。
それがその手の中にあった。
「おい、まさか。
行かせたのか!?」
従僕はですが、と叫ぶ。
「いざ、転送だの飛行だのを使われて追い付けるのは、殿下だけですよ‥‥‥」
「本気だ‥‥‥」
「は?」
「あのバカめ。
本気でこの団どころか爵位まで捨てる気だ!」
従僕はいや、まさかそんな。と否定する。
「そんなことを成されては、シェイルズ様の御実家にまで陛下の怒りが」
「その為の爵位返上だ。
すぐに父上に繋げ。ここで失ったらすべてが終わるーー」
「‥‥‥で、どうしたのだ愚息。
私は公務で忙しいのだがな? なあ、ユンベルト?」
宝珠の画像の向こう側で大臣勢を相手にテーブルを囲む帝国の重鎮たちが見える。
くそ、こんな時に間抜けな報告ができるか!
グレンがいえ、再度にします。
そう言おうとした時だ。
「いま先程な、あの黒から上申があったぞ?
殿下に大変ご無礼をした為、爵位を帝国に返上し、それをもって実家には、とな。
ついでに、ユンベルト」
皇帝は宰相殿と場を譲る。
「はい、殿下、ご機嫌うるわしゅうございます。
申し訳ございません、当家のユニスが殿下にご無理を申し上げてしまい怒らせてしまったと。
このような愚かな身では帝室に入るには値しないので、どうか婚約のお取下げを願いたいと。
そう申してきましたがーー」
「なんですと!!?」
ユンベルト貸せ、と皇帝が宝珠を奪う。
「おい、愚息。
これはどういうことだ?
いまは皇太子殿下とは言わんぞ?
お前に最も信頼を置いてきた二人から同時にこのような申し出。
誰が見ても、お前が何か成したとしか思わんぞ、なあ、みなよ?」
その場に映る帝国の重鎮たちが一斉に首を振る。
その中には北や東の大公の姿もあった。そして、実兄の北の大公。
その他、高家の面々。有力貴族と帝国を動かす中核が勢ぞろいしていた。
「な、父上。
なぜ、その顔ふれが‥‥‥。
北や東の大公殿までーー」
犬猿の仲ではなかったのか!?
あれほどにいがみ合っていたのでは……??
「そんなことはお前には関係ない。
この場にいないエシャーナ侯と黒の御父上も混ぜての帝国馬鹿の会よ。
意味が分かるか、愚息」
「あれだけ仲が悪いと。
青の狼や闇の牙の監視はなんの意味が‥‥‥」
ふん、そう皇帝が笑い全員が笑い出す。
「お前は本当に、愚息だなグレン。
六年前の件。
あの黒の件以前から我らは一枚岩だ。
枢軸だの王国だの。
見せかけるための策謀とまだわからんか?」
「しかし、黒はあの眼をまだ見えない‥‥‥」
「見えておる。そう見せかけているだけだ。
お前は本当に、仲間も友も少ないな。私がー、いつだ、ユンベルト?」
宰相にいつ頃からこの会ができた?
そう問うていた。
「そうですな、陛下がまだ二十代前。もう三十年はならずともそれくらいには、と」
皇帝はあっけに取られるグレンに再度向かい、
「聞いたか、愚息。
これだけの友が支えてくれていまの私があるのだ。
お前にはどれだけの友がおる? あの黒がなぜ眼が見えないと嘘を言ったと思う?
お前を鍛えるためだとまだ分からんか?
後ろをみろ、グレン。私にはこれだけの友がいるぞ?
あの時は皇太子でもなんでもなかった。たんなる、皇子だ。それも末席のな。
なあ、ユンベルト?」
「はい、陛下。
兄君、姉君たちは都合よく陛下が死ねばよいと。
南方戦線に放り出しておりましたな」
「そんな、父上ーー
そのような話、一度も‥‥‥」
「当たり前だろう?
兄も姉たちも帝室はそういうものだ。恨むのは筋違いというもの。
帝位が欲しければ這い上がり、勝ち取るしかなかろうが?
上に立った後に仲直りをすれば良いのだ。家族なのだからな。
で、お前の後ろには誰も見えんがな?
この十年余り。騎士団見習いから団長まで昇りつめて磨いたのは魔導の腕だけか?
友はどこにおる?」
グレンは思わず、後ろを振りかえり辺りを見回す。
誰もいない。そう分かっていてもせずにはいられなかった。
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