突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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第四章 動乱の世界

第六十四話 心の涙

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 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
 (ユニス視点)


「ではユニス、いえ、女王陛下というべきか女大公殿というべきか、御主人様というべきか。
 帝国宰相職は大公家の交代制から外れた。しばらくは私がやっておくからーー
 まあ、適当にしておきなさい」
 あれから、殿下への婚約の返上とシェイルズの(格下になるから様はやめて下さいと叱られました)受け入れ、爵位申請、などなど。義父上様への報告をして数時間後でした。
 ブルングド公爵シェイルズとなった我がハーベスト大公家宰相と共に、宝珠に出るように、と。
 義父上様から指示があり、でた途端‥‥‥
 この通達。
 シェイルズもわたしも驚きで声がでませんでした。
「どうした?
 ああ、陛下からお話がある前に、ここの御一同をよく覚えておきなさい。
 帝国ーー」
「ええい、どけユンベルト。
 お前は長いのだ!
 おお、これがエシャーナ侯とエレネの娘御か!」
 いきなり宝珠に現れた義父上様より年上の男性の方。
 銀髪に、確かいま陛下と!!??
「皇帝陛下、お久しぶりでございます、主、お席を」
 シェイルズが慌てずに、ご挨拶を、とそっと教えてくれました。
 わたしはそう言われても、慌てずには!
 勢いはつかなかったものの、椅子から降りて床に膝をつきます‥‥‥陛下だなんて!?
「へ、陛下!?
 あ、はいー‥‥‥お目通りかないましてご機嫌うるわしゅうございます
 この度は我がハーベスト大公家の継承を賜りーー」
「あーいい!」
「は??」
「いや、もうそういったものは公式の場で良い。
 ユンベルトなぜもっと早くに教えないのだ!?
 ぐそ、あ、いや。
 グレンには勿体ないではないか、おい、わしの話を!?」
「陛下、横取りはご勘弁を。
 ほら、女大公殿が怯えているではありませんか?」
 頭を上げるに上げられず、困るわたしの頭上でのこの会話はどうすればよいのか。
 どこで声をあげればいいのか、横のシェイルズを見ると、
「ああ、いつものことですから。
 しばし、お待ちをーー」
 などど、平然としているではありませんか。
「まあ、ブルングド公、あなたそんなことをーー」
「いえ、我が主。
 もう数十年、あの方々はああ、でございます」
「数十年?」
 やれやれと首を振りながら、黒い鷹は聞こえるように言いました。
「我が父上に、主の御父上のエシャーナ侯、その他、もう数名を含めた帝国を裏で暗躍される方々ですよ。
 殿下には何も言われずに!」
「ちょっと!
 シェイルズ!??」
 最後の声は宝珠の奥まで届いていたようで、多くの視線が集まる感じがしました。
 こんな発言をするなんてーー
「おい、聞こえたぞ、黒よ。
 あのカラスを見限ったそうだな?」
 ほら、陛下がお怒りに‥‥‥
「ええ、陛下。
 我が父上もそろそろ、陛下がこの場を交代すべきだと申しておりました。
 グレンと交代されてはいかがですか?」
「シェイルズ!!!」
「良いのだ、ハーベスト女大公。
 そなたも椅子に座ってくれ」
「陛下、しかし」
「ああ、めんどくさいな、おい黒。
 主より先に立つ奴があるか」
 ほら、とんでもないお叱りを受けることに‥‥‥
 わたしの背筋には冷や汗が止まりませんでした。
「これは失礼、陛下。
 どうぞ、女王陛下。
 お座りください」
「座りますが、女王陛下は止めてください、シェイルズ様!」
 気が動転してついつい、立場を忘れてしまいそうでした。
「様はご不要です、女王陛下」
 ほぼ無理矢理、椅子に腰かけされられました。
 しかも、女王陛下だなんて。
「あなたは皇帝陛下と同列に扱う気ですか!?」
 小声でしかりつけますが、彼は平然と陛下に聞こえるように断言しました。
「お気になさらずに、女王陛下。 
 帝国内では、大公は王家の王。
 独立した国王です。帝国皇帝陛下はあくまで、御旗。
 あなた様にあれだけの無礼を働いた元婚約者の父親です。
 さあ、どうぞ言いたいことを言われなさい」
「あなた、正気ですか!?
 我が大公家が滅びますよ!???」
 しかし、背後からは非難も批判も怒りの声すら上がらず、そしてわたしよりも毅然としている我が宰相。
「それで滅ぼしに来るならば、来ればよいのです。
 あなたは既に大公家主人。
 その程度のことで揺らいでどうしますか。
 軍が動くのであれば、このシェイルズが我が六万の兵を以って御相手しましょう。
 さあ、女王陛下。
 まずはーー」
 そんな、いきなり正面を振り向かされても。
 そこにあるのは、見覚えのある顔もあれば、知らない顔もあり。
 最奥にはーー
「御祖父様!?
 で、いらっしゃいますか‥‥‥レブナス高家御当主殿」
 まだ一度も会ったことの無い、死んだ母の父親。
 その身に着けている衣服とそこに縫い付けられた家紋。
 それは、あの晩餐会の夜にわたしが着ていたものと同じ紋様であり、同じ彩色でした。
 その一同の中で、最年長の彼は記憶の片隅にある母とそっくりの笑い方。
 あの、悪戯が大好きでお父様とエイシャのお母様を困らせてバレては見つかった。
 そんな時にしていたのとそっくりの笑顔をされていました。
「おや、もうバレてしまったか。
 まあ、この正装ではそれも仕方がない。陛下、発言宜しいかな?」
 まだ宝珠には陛下と義父上様が大きく映られていて、二人ともシェイルズを見ていました。
 面白そうでもあり、苦手そうでもあり、やるならやってみろ。
 そんな顔をしていました。
「構わん、話してくれ。
 おい、宝珠をもう一つ持って来い。
 このカラスをやり込めんと気が済まん」
「いや、要らんぞ。不要だ。
 陛下、少し出過ぎです」
「ユンベルト、お前はまた‥‥‥」
「陛下、初の孫と祖父の対面を壊す気ですか?」
「うーん‥‥‥」
 もうこの心臓に悪いやりとりを誰か止めて下さい!!!
 そう叫びたかった。そばにイズバイアがいればいいのに、と。
 自分から捨てておいて都合がいい女ですが、そう思ってしまいました。
「陛下、カラスは言い過ぎです。
 彼は帝国の二頭の鷹の片割れ。
 いずれは殿下を支える存在ですぞ?
 いま邪見に扱うと、老後に孫に会わせて貰えないかもしれませんな?
 わたしのように。
 少しだけ、話をさせてください」
 御祖父様がそう諭すように言われると、陛下はなぜかわたしをじっと見られ、義父上様を見られ。
「分かった。
 だが、孫には会わせてくれよ?
 まだ、北にも産まれていないのだ。
 わしもなあ、あの愚息が、あ。
 しまったな‥‥‥」
「もう、陛下はお黙り下さい」
 そう義父上様が無理矢理引きはがすようにして消えていく皇帝陛下‥‥‥。
 シェイルズやあちらの方々は面白そうに笑い、わたしだけが居心地の悪さを感じていました。
「ユニス、初めましてだな。
 孫がこうも立派になるとは。あの時、エレネを止めるべきではなかったと。
 二人から、エシャーナ侯とエレネからしばらくは会いたくないと言われてから、もう十数年。
 せめて、あれの葬儀には行きたかった」
「御祖父様‥‥‥父は恨んでなどおりません。
 ただ、高家から我が家まで来るにはその、北や東と南、外洋を通っても帝都があり。
 不仲なために来れないのだと。
 各家の方々にはお名前を挙げたことをお詫び申し上げます‥‥‥」
 とは言っても他の大公家。
 それも不仲とされるレブナス高家の仇敵、南がいるはずもなく。
 そう思っていた矢先でした。
「そうか、それを聞いて少しだけ安心した。
 ああ、紹介しておこう。
 そちらが北の。殿下の兄君。あちらが南のと、東の代替わりしたばかりの当主殿たちだ」
 それを聞いた瞬間、めまいがしてしまい、
「初めまして、西の新当主殿。
 まあ、その黒は女王陛下、そう呼ばせたいらしいが。
 あの愚弟が迷惑をかけたようだな。
 まあ、今回は帝位継承権を返上してきたようだから、どうか許してやって欲しい」
 イズバイアのお兄様、そしていきなりの帝位継承権の返上をさせた!?
 その二言目で、倒れこんでしまいました。
「女王陛下、お気を確かに」
「ありがとう、シェイルズ。
 でも帝位継承権返上など‥‥‥」
「まあ、どうせ陛下が先程の愚息辺りを鳩に連呼したのでしょう。
 あれも気が長いようで、短いですからな」
「そんな聞こえるように言わないで!!」
 しかし、時すでに遅く‥‥‥
「聞こえておる、黒。それに、女王陛下。
 陛下とまで言わせたのだ、それなりにーー」
「父上、横道に逸れますからお黙り下さい」
 北の大公様、殿下の兄上からの制止でまた引きはがされる皇帝陛下が。
 どうも多くの隠し事をされてきたことを感じてしまい、わたしも我慢がならないものができました。
「一体、どうなっているですか、皆様方?
 三大公家に高家のすべて、それに各騎士団の団長様方、海軍の方々まで。
 これまでの三国への帝国の内情は見せかけだったと。
 そういうことですか?
 義父上様まで!」
「ほらみろ、やはり苛烈は南からだ」
「間違いない、あれはレブナス高家の血筋だ。
 しかもあのエシャーナの。豪胆さまで混じっておるぞ?」
「これはまた、あっけなく露呈したな。
 明かす楽しみが消えたではないか」
「明かしても怒りの矛先は、宰相と陛下に任せればいいのだ。
 我等も被害者」
「そうそう、ユンベルト、あとは頼んだぞ」
 そんな声がテーブルの各方々から出てきました。
 義父上様がため息をつかれていて、その片隅で陛下も同じように。
「ねえ、シェイルズ。
 どうなっているのですか、これは‥‥‥?」
「見た通りです、我が主。
 これを知らないのは、まあ、親しい仲ではあのバカくらいでしょうな?
 どうせ、帝位継承権返上も陛下が愚息だの、だめ息子だの。
 ユニス様への愛が足りないだの、わたしとの交友が少ないだの。
 そう言って焚きつけたに決まっています。
 それもこの場でわたしたちと同じように話をしながらーー」
「そんな、実の息子に対して、こんな帝国中枢の面々を前にして言う訳がありません。
 仮にも皇帝陛下ですよ、シェイルズそれは不敬というものです!!」
「いえ、そうでもなさそうですよ、我が主。
 陛下、いかがですか?」
「陛下、呼ばれておりますぞ、さあ」
 義父上様がシェイルズと申し合わせた様に陛下を宝珠の前に‥‥‥イズバイアがこんな面々の前で。
 愚息はともかく、帝位継承権返上を自分から言わせるように仕向ける訳がありません。
「あーいや、そんなには言ってないだろう?
 なあ?」
 そんなには言ってない?
「陛下?
 まさか、本当にそう為さったのですか?
 イズバイアがそう言わざるを得ない程に?」
「なさったとはまた。
 婚約返上をしてきたのは女王陛下からではないか?」
「それは仰る通りでございます。
 しかし、友としてはシェイルズもわたしも快くはありません」
 ここまで言ってしまって良かったのか。
 隣には義父上様がいて、奥には御祖父様が。
 人質を多く取られているのはこちらなのに、そう思いながらもシェイルズからはもう少し強めに。
 そうささやかれて困ります。
「まあ、姫様。
 そういう事ですな。
 ここは陛下が決める場。
 しかし、殿下が御自身から言われておりましたな。
 お可哀想に」
「おい、南の。ひとり先に裏切る気か!?」
「いえいえ、陛下。
 もうバレております。ここは潔く」
「ユンベルトお前まで」
 はあ、そうため息をつかざるを得ませんでした。
 ここでも何かを互いに演じなければならないとは。
「陛下、申し上げたいことがございます」
 もう、いいです。皆様方の芝居の駒の一つとなりましょう。
 必要な素材は投げて頂いたのですから。
 あとは地図を描くだけのこと。
 義父上様に亡きお母様。父上がよくされていたように冷たく交渉へと歩く道を先に行きます。
 最初に、深い奈落へと落ちる斥候として。
「なにかな? 
 別にわしは構わんが」
 なるべく、冷たく静かに怒りを込めてわたしは言いました。
 笑顔だけは絶やさずに。
「ありがとうございます、陛下。
 ラズ高家御当主様。これより魔導にて失礼ですが、ご息女をお迎えに上がります。
 この件は陛下よりの御命令。ここにその書面もございます。
 ご存知でしょうか?」
「おい、それはまだーー!」
「いいえ、女王陛下。
 なにも伺ってはおりませんが?
 当家の息女はすでにライナしか未婚はおりませんがな。
 今更、陛下の側室へと言われても上げれるほどの器量はありませんしお断りを致します。
 その件は無用かと?」
 ラズ高家のお顔は知りませんでしたが、これで多くの不和の種をまける。
 わたしはそう思いながら続けます。
「いいえ、ニーエ様とその御子を陛下は御望みです。
 グレン殿下をこうまで追い詰めて継承権返上まで為さるとは。
 陛下はどうやら、次期皇帝はラズからと御望みのご様子。
 聞けば、南方の血が混じっておりすでに五歳の男子とのこと。
 その時期に、シェイルズとグレン皇子は戦場にありニーエ様が懐妊されるとは。
 不思議なお話ですね、陛下? 
 ニーエ様は平民の夫を戦場で失われたとか?
 高家の姫君がまさか、家から簡単に抜け出るなど出来るとでも?
 御子は陛下の御子なのでは?」
 ええ、成功したようです。
 場の雰囲気が一気に重く、陛下への疑惑の視線が集まり始めた様子。
「我が君、これはやり過ぎです‥‥‥」
 シェイルズが耳打ちしてきますが、わたしには聞く気はありません。
「お前はおだまりなさい!!」
 声高にシェイルズを叱りつける様子を宝珠の向こうから彼らは見ているでしょう。
 なにより、一番冷たい視線を向けているのがラズ高家当主様。
 ここで攻め込めば、こちらが一手有利となるはず。
「ラズ高家御当主様。
 ニーエ様とその御子。
 我がハーベスト大公家でお預かりしてもよろしいですね?
 それとも、帝室からいま向かっていると思いますが、シェイルズ?」
「はい、我が君。
 確かに、数時間前まで私が在籍していました闇の牙の方に。
 昨日より近衛兵団の一部隊がラズに入城している。
 そう報告が入っております」
「いかがですか?
 ラズで揉めれば高家もまた、このいさかいに巻き込まれます。
 いま、ニーエ様の廃嫡を認めて頂ければただの婦女。
 我が家で、かくまえますが?
 大公家とエシャーナ侯家。
 八万の軍はすでに準備を整えておりますよ?
 現在は、王国と枢軸に対してですが。他にご息女を守れると?」
「ふむ・・・・・・。
 ですがな、女王陛下。
 それならば、差し出すことを我が家は選びますな。
 もしくはーー」
 これは意外。
 娘を捨てる気とは‥‥‥。
「自害をさせるおつもりですか?
 帝室の血が混じっているというのに?」
「さて、それは我が娘が選ぶこと。
 あなたがあの夜になさったように、違いますか?
 我が家はなにも問題はありませんよ」
 皇帝は喋らず、宰相と他の各家も軍も関与せず。
 これで、ハーベスト大公家の裏切りは明白。
 あとは女王陛下、あなたが自害されるか帝国と事を構えるか。
 どうしますか?
 そんな問いかけでした。
「そうですか。
 いまの会話に何も陛下すら言われないのであれば、もし、ニーエ様御自身が廃嫡を求めるのも自由。
 その際には子供にも責任は問わない。
 そういうことのようにも聞こえますが?」
 陛下を見て質問を投げかけてみました。
「全ては憶測。
 近衛兵団の依頼はそなたからだろう?
 わしはその書面を破棄する。ユンベルトは有能だ、まあ、大公の爵位譲渡は終わっているからな。
 帝国の足元を枢軸・王国相手に守る分には今回の件については不問にしておこう」
「いえ、陛下。
 まだお返事を頂いておりません」
 まだ言うのか?
 せっかく、不問にまとめてやったのに。
 陛下のお顔に苛立ちが見え隠れしていました。
 そんなところも、あの人にそっくり‥‥‥本当に、分かりやすい。
「ニーエがそうしたいなら、認めてもいい。
 本人がそう望むのならな、第一、帝室の血が流れているなど、と‥‥‥誰だ、その子は!?」
「エリオス、なぜそこにー」
 ラズ高家御当主の声に全員の視線が集まり、ようやく舞台が整いました。
「さきほど、シェイルズに申し付けて連れて来させました。
 ニーエ様と御子のエリオス様です。
 素晴らしい銀髪ですね、陛下?
 ニーエ様の廃嫡はこのユニスの名を持って預かりました。
 ただいま、報告致します。
 また、闇の牙はシェイルズに従い、拠点を我が大公家領に移動することをお伝えいたします。
 グレン皇子が代行権限を与えましたのでシェイルズが決めました。
 団は数時間前から移動を開始しており、今日の夕刻にはもーーもうすぐですが。
 完了致します。
 では、皆様。義父上様も。
 ご機嫌よう」
「なんだと?
 誰がそんな権限を、おい、待てーー」
 シェイルズがうまく連絡を切ってくれました。
「待つものですか、こんな馬鹿みたいな会議。
 殿下が帝位継承権返上したのであれば、相当、この存在に怒ったのでしょうね。
 まあ、皆様方がまだ殿下と呼ばれているところを聞いただけでもーー」
「イズバイアが戻ってくる。
 そう信じてくれているようですな。
 しかし、ニーエ。なぜ、教えてくれなかった。
 おまけにお前達。
 なぜ、そんなおまけまでー‥‥‥」
 疲れ果てているような声を出すシェイルズ。
 部屋の奥にはそっくりの双子の女性がいました。
「そりゃ、ニーエだけ行かせてもね。
 あれだけ関わるなって言ってきたのに押しかけてくるんだから‥‥‥」
 こう怒ったように言われるのは姉のライナ様。
「シェイルズ、なぜあのままーー」
 そう悲し気に言われ、子供を抱きしめるのが妹のニーエ様。
「どうやら、間に合ったようですね、シェイルズ?」
「はい、ユニス様。
 ラズも愚かではありません。近衛兵団の到着と聞いて当主が指示するのはよくて自害。
 子供がもし、帝室の血であれば。ですが‥‥‥。
 探すのに苦労したぞ、ライナ。
 あらかじめ、あの場所にいろと言っておいただろう?」
「あんたねえ、ニーエがどれだけ世間から隠れて生きてきたと?
 こんなことまで仕組んでー」
「いいえ、仕組んではいません。ライナ様。
 近衛兵団の依頼も陛下からの側室への召し上げも。
 そのためにわたしが遣いに出されたのです」
 わたしは陛下からの幾つか回ってきた、口頭で、そう言われた後に義父上様がくれた書面を見せます。
「全て帝室の認可印があります。
 あのままでは、近衛兵団の件はある意味偶然でしたが。
 ニーエ様御自身が子供を共にしようとするのは目に見えていました。
 それでシェイルズ。
 この事実はいつから知っていたの?」
 銀髪の子供。帝室の血筋の証。
「わたしはもう数年前には。
 ライナが連絡を絶とうとした時には知っていましたが」
「そう、ではお前達。
 この三人を別々に案内を。
 室内と扉の外に監視も。逆らうなら、手錠程度は構いません。
 従っていただきますよ、ライナ様。
 ここはわたしの船。逆らうならば、その子供だけでもいいのですから」
 生涯、このお二人には恨まれるでしょうね、子供にも。
 まあ、仕方ありません。死なれるよりはましです。
「あんたもシェイルズも。
 あたしたちを道具にしか見てないんだね」
「ええ、ライナ様。
 そう考えて頂いて結構。では良い船旅を」
 散々毒を吐いていかれましたが、義父上様もこんな時が多かったのだろうと思いました。
 いまは良い経験にするだけです。
 闇の牙の一部隊も船に乗り込んでくれて、ある程度の守りも固められる。
 そう思っていた時でした。
 室内でずっと成行きを見守られていた二人が。
 一人は宝珠の向こうですが。
 船長が「これはわたしの船ですがね、姫様?」 そう悲しそうに言った後にぽつりと一言。
「で、闇の牙はもう三角洲への上陸を?
 姫様、あのことはいつ気づかれたのですか。
 いや、野暮な質問ですが。
 これはこの場では、わたししか出来ないでしょうから聞いておきますよ。
 殿下の御子だと、理解して守る決意を?
 あなたのお気持ちは最後には届いても殿下は手に入りませんぞ?」
 泣きながら言われても困りますけどね、そう船長は付け加えました。
「あれ、泣いてますか‥‥‥わたし?」
「ええ、姫様。
 とてもよろしくない涙を。とはいっても、まだ見えてはおりませんがな。
 心が流す涙、そういったものもあるということです。
 皆様、我々は一旦、下がりませんか?」
 その提案にシェイルズと船長が部屋を後にし、そして宝珠の向こうで父上も。
「ユニス、もう先頭に立つことを決めたのなら。
 いまは親としての声はかけんぞ。
 一人で考えなさい。それが王というものだ」
 返事をする前に連絡が切れてしまいました。
「どうぞ、これでお拭きください」
 そう言い、去り際に船長がくれた綺麗な刺繍の入ったハンカチ。
 こういった時に一人になるのは辛いものですね。
「イズバイア‥‥‥」
 情けない声を出しながら、座り込む女王なんて。
 本当にだめな女王です、わたしは‥‥‥。
 
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