突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

文字の大きさ
89 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第八話 始まりのシルドの決意

しおりを挟む


「なあ、ミレイア?」
 は、ははは‥‥‥
 エイシャはそう言い近寄る夫に対して背筋に汗をかく。
 うーん、そうか、お菓子は美味しいか。
 その本はなんだ?
「あ、それはーー」
 てっきり歴史書でも読んでいるのかと思いきや‥‥‥
「なあ、妻よ。
 読むなとは言わんが。
 好きなのかーーこういうものが?」
 パラパラとめくり読みをしながらシルドはまた一つ、エイシャの側面を知れたと内心では喜んでいた。
 外見では呆れた感をかもしつつ、どうなんだ?
 そう聞いてみる。
「そのー‥‥‥人気なのよ、旦那様。
 貴族の御婦人方の間では‥‥‥」
「まあ、それは否定はしないぞ?
 僕だって読む時はある。英雄譚ならな?
 ただ‥‥‥」
 ギース卿の勇壮なる日々とアンナ夫人との回顧録。
 そう書かれたその本は、現代風に言えば不倫劇場貴族版、とでもいうべきか。
「これ、最後は思いがかなわずギース卿が敵に突撃をかけ奇跡的に大打撃を与えて英雄になるものの、卿は大怪我を負い、夫人の胸に抱かれて死んでいく。
 そんな話ではなかったのか?」
 ユニス義姉様などもお好きなのだろうか?
 エイシャもそういう、騎士からの熱い愛の告白など受けていたりするのだろうか?
 ふと、そんなことがシルドには気になってしまった。
「吟遊詩人のパトロンになり、自らも叙事詩を書くのは貴族御婦人方の嗜みだからなあ?
 お前も‥‥‥言われたいのか?
 僕以上の勇壮なる騎士たちに?」
「だから、シルド!
 それは・・・・・・もう、お芝居の世界なんだから。
 分かって下さい!」
 申し訳なさそうにするエイシャは珍しいな?
 あの馬小屋時代から、心労をかけたことを考えても。
 僕は甘えすぎたかもな。
「座っていいか、エイシャ?」
「はい、どうぞ‥‥‥」
 ベッドの縁にシルドは腰を降ろす。
 さてなにから話したものか。
 とりあえずは、政治の話からにするか。
「あのな、妻よ。
 このハーベスト大公領は肥沃な大地で持っているようだが、幾つか難点かあるぞ」
「難点?」
 てっきりアルメンヌの話だと思っていたエイシャは不思議そうな顔をする。
「ここ三日ほど昼は街道沿いに。
 夜は各地を空からな。僕なりにまだ半分ほどだが見てきたんだ。
 百年戦争が終わったことで兵士の数が余るようになるだろう。
 いまは封建制も終わり、兵士を雇う、職業軍人の時代だ。そこに騎士団だの爵位のある人間だの。
 形だけを当てがってはいるが大公家六万の兵力を維持するには、戦争がいるだろうな。
 この帝国と王国、枢軸に南方大陸。
 ここらは百年戦争の中で消費されるものと、必要な物資を各国から仕入れてきたから成立してきた経済圏だ。
 いまからは通用しなくなる」
 こんなに政治を語る夫はこれまでいただろうか?
 エイシャはまるで違う人間を見るような顔つきでシルドを見上げた。
「なんだ?
 なにか変なことを言ったか?」
「いいえ、ただ‥‥‥旦那様、そんなに博識だったのかと」
「魔導だけの才能だけが突出していると思ったか?」
「まあ、そうです、ね‥‥‥」
 なるほど。
 まあ、エルムンドといればこうなる。
 そうシルドは言う。
「なぜ、エルムンド様といればそうなる、と?」
 簡単だよ、妻よ。
 糖分は控えた方がいいなあ?
 エイシャの手からお菓子を奪い取り、シルドは言う。
「エルムンドは平民上がりだ。
 政治も経済も軍事、外交に金融。
 あれはあれで努力してたんだよ。魔導に至るまでな。
 付き合わされれば、嫌でもこうなる。
 まあ、それは置いておいてだ。
 兵士を養うことが出来なくなれば治安が悪化する。
 分け与える土地は少ない。ほとんどが農地だからな。
 東側の平原部分を飼料、牧草地にして牛や豚など。そういったものに変えていかないとだめだろうなあ」
「そうは言ってもあそこは帝室の直轄地もありますからねえ‥‥‥」
「難しい問題だ。
 あとはどこの城塞都市も作りが古い。
 人口が増えれば疫病が増えるぞ。
 どれほどするか、だな?
 なあ、エイシャ」
 それわたしのお菓子‥‥‥
 どんどん取り上げられていくのを悲し気にエイシャは困った顔をする。
「旦那様、もうお菓子がないんですけど‥‥‥」
「知っている。
 アルメンヌの罰だ。
 それでな、アルメンヌだが。 
 あれは本当に血縁か?」
「それはどういう意味ですか?」
 だってなあ、とシルドは当たり前のように言う。
「あの晩餐会の夜、お前は義姉上のような外見の南方貴族の方々に善い視線は送ってなかったぞ?
 いまはそうでもないようだが、姉への意識が強かったのではないのか?
 アルメンヌのような、十年も続く仲を持てる南方貴族の友人がいればお前のあの視線はなかったはずだ。
 あれはどこから仕入れてきた?」
「そ、そんな。
 差別のようなことは‥‥‥していたかもしれませんけど」
「していただろ?
 僕もしていた。
 ユニス様と知り合うまで、エイシャと同じ視点があった。
 だからそれを責めるなんて気はまったくない。
 だが、アルメンヌの存在はどう考えても繋がりがつかないんだ。
 特に、エイシャ。
 そう、呼び捨てにさせるような仲には見えないな」
 はあ‥‥‥エイシャは全部ばれてるんですね、旦那様。
 そうため息交じりに言う。
「あれは、そうですね。
 親戚ではありません。
 ですが、仲が長いのは事実です。
 お互い、友であるとは思ってはいないと思いますけど‥‥‥」
「ああ、つまり。
 影、か?
 義姉上の御母上が嫁がれた後に、高家から護衛としてつけられたんだな。
 なるほど。それであの傷、か」
「見たんですか!?」
「見た。
 抱いてもないし、抱こうともしてないぞ。
 ただ、なぜ出戻りなどと嘘を言うのか。
 それを問いただした際に見せられた」
「そう‥‥‥抱いても良かったのに」
 良くないんだよ。
 そうシルドは言う。
「なぜ?
 抱けば慰みにはなるはずでしょ?
 わっ、ちょっと旦那様-!?」
 小うるさいよ、お前は。
 そう言い、シルドはエイシャの羽織っていた夜着の上着を剥ぎ取ってしまう。
「だ、抱かれませんからね!!??」
「抱かないよ。
 ただーー」
 あー堅苦しい。
 そう言い、シルドはさっさと着ている物を脱ぎ捨てるとベッドに入りこんだ。
「俺たちはあの場所で毎晩、こうやって寝てきただろ?
 それ以上はなくていいんだよ。
 何よりな、アルメンヌ。
 あれには少しばかり、気を付けたい」
「なんでそんなことばっかり‥‥‥。
 ユニス姉様にはもう子供ができる頃かもしれませんよ?」
「それはそれだろ?
 あそこは帝国内、こっちは造反者の確定した状態だ。
 そんななかで、レブナス高家との繋がりはなあ。
 あっていいと思うか?」
 逃げるな、とエイシャを抱き込んでシルドはその髪に顔を埋める。
「最後は僕だけが罪を請ければいい。
 ああ、だめだめ。
 文句は言うな。
 その心づもりでいろ。
 内政も、ユニス義姉様に任せた方がいい。
 こっちはあくまで体面だけだ」
 もう、今夜は何も言うなよ。
 シルドはエイシャにキスをしながらそう言い含める。
 誰かが受けるべき罰は、始めた者が終わらすべきだからな。
 そのシルドの思いに、エイシャは涙を流すしかできなかった。

しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

処理中です...