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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第八話 始まりのシルドの決意
しおりを挟む「なあ、ミレイア?」
は、ははは‥‥‥
エイシャはそう言い近寄る夫に対して背筋に汗をかく。
うーん、そうか、お菓子は美味しいか。
その本はなんだ?
「あ、それはーー」
てっきり歴史書でも読んでいるのかと思いきや‥‥‥
「なあ、妻よ。
読むなとは言わんが。
好きなのかーーこういうものが?」
パラパラとめくり読みをしながらシルドはまた一つ、エイシャの側面を知れたと内心では喜んでいた。
外見では呆れた感をかもしつつ、どうなんだ?
そう聞いてみる。
「そのー‥‥‥人気なのよ、旦那様。
貴族の御婦人方の間では‥‥‥」
「まあ、それは否定はしないぞ?
僕だって読む時はある。英雄譚ならな?
ただ‥‥‥」
ギース卿の勇壮なる日々とアンナ夫人との回顧録。
そう書かれたその本は、現代風に言えば不倫劇場貴族版、とでもいうべきか。
「これ、最後は思いがかなわずギース卿が敵に突撃をかけ奇跡的に大打撃を与えて英雄になるものの、卿は大怪我を負い、夫人の胸に抱かれて死んでいく。
そんな話ではなかったのか?」
ユニス義姉様などもお好きなのだろうか?
エイシャもそういう、騎士からの熱い愛の告白など受けていたりするのだろうか?
ふと、そんなことがシルドには気になってしまった。
「吟遊詩人のパトロンになり、自らも叙事詩を書くのは貴族御婦人方の嗜みだからなあ?
お前も‥‥‥言われたいのか?
僕以上の勇壮なる騎士たちに?」
「だから、シルド!
それは・・・・・・もう、お芝居の世界なんだから。
分かって下さい!」
申し訳なさそうにするエイシャは珍しいな?
あの馬小屋時代から、心労をかけたことを考えても。
僕は甘えすぎたかもな。
「座っていいか、エイシャ?」
「はい、どうぞ‥‥‥」
ベッドの縁にシルドは腰を降ろす。
さてなにから話したものか。
とりあえずは、政治の話からにするか。
「あのな、妻よ。
このハーベスト大公領は肥沃な大地で持っているようだが、幾つか難点かあるぞ」
「難点?」
てっきりアルメンヌの話だと思っていたエイシャは不思議そうな顔をする。
「ここ三日ほど昼は街道沿いに。
夜は各地を空からな。僕なりにまだ半分ほどだが見てきたんだ。
百年戦争が終わったことで兵士の数が余るようになるだろう。
いまは封建制も終わり、兵士を雇う、職業軍人の時代だ。そこに騎士団だの爵位のある人間だの。
形だけを当てがってはいるが大公家六万の兵力を維持するには、戦争がいるだろうな。
この帝国と王国、枢軸に南方大陸。
ここらは百年戦争の中で消費されるものと、必要な物資を各国から仕入れてきたから成立してきた経済圏だ。
いまからは通用しなくなる」
こんなに政治を語る夫はこれまでいただろうか?
エイシャはまるで違う人間を見るような顔つきでシルドを見上げた。
「なんだ?
なにか変なことを言ったか?」
「いいえ、ただ‥‥‥旦那様、そんなに博識だったのかと」
「魔導だけの才能だけが突出していると思ったか?」
「まあ、そうです、ね‥‥‥」
なるほど。
まあ、エルムンドといればこうなる。
そうシルドは言う。
「なぜ、エルムンド様といればそうなる、と?」
簡単だよ、妻よ。
糖分は控えた方がいいなあ?
エイシャの手からお菓子を奪い取り、シルドは言う。
「エルムンドは平民上がりだ。
政治も経済も軍事、外交に金融。
あれはあれで努力してたんだよ。魔導に至るまでな。
付き合わされれば、嫌でもこうなる。
まあ、それは置いておいてだ。
兵士を養うことが出来なくなれば治安が悪化する。
分け与える土地は少ない。ほとんどが農地だからな。
東側の平原部分を飼料、牧草地にして牛や豚など。そういったものに変えていかないとだめだろうなあ」
「そうは言ってもあそこは帝室の直轄地もありますからねえ‥‥‥」
「難しい問題だ。
あとはどこの城塞都市も作りが古い。
人口が増えれば疫病が増えるぞ。
どれほどするか、だな?
なあ、エイシャ」
それわたしのお菓子‥‥‥
どんどん取り上げられていくのを悲し気にエイシャは困った顔をする。
「旦那様、もうお菓子がないんですけど‥‥‥」
「知っている。
アルメンヌの罰だ。
それでな、アルメンヌだが。
あれは本当に血縁か?」
「それはどういう意味ですか?」
だってなあ、とシルドは当たり前のように言う。
「あの晩餐会の夜、お前は義姉上のような外見の南方貴族の方々に善い視線は送ってなかったぞ?
いまはそうでもないようだが、姉への意識が強かったのではないのか?
アルメンヌのような、十年も続く仲を持てる南方貴族の友人がいればお前のあの視線はなかったはずだ。
あれはどこから仕入れてきた?」
「そ、そんな。
差別のようなことは‥‥‥していたかもしれませんけど」
「していただろ?
僕もしていた。
ユニス様と知り合うまで、エイシャと同じ視点があった。
だからそれを責めるなんて気はまったくない。
だが、アルメンヌの存在はどう考えても繋がりがつかないんだ。
特に、エイシャ。
そう、呼び捨てにさせるような仲には見えないな」
はあ‥‥‥エイシャは全部ばれてるんですね、旦那様。
そうため息交じりに言う。
「あれは、そうですね。
親戚ではありません。
ですが、仲が長いのは事実です。
お互い、友であるとは思ってはいないと思いますけど‥‥‥」
「ああ、つまり。
影、か?
義姉上の御母上が嫁がれた後に、高家から護衛としてつけられたんだな。
なるほど。それであの傷、か」
「見たんですか!?」
「見た。
抱いてもないし、抱こうともしてないぞ。
ただ、なぜ出戻りなどと嘘を言うのか。
それを問いただした際に見せられた」
「そう‥‥‥抱いても良かったのに」
良くないんだよ。
そうシルドは言う。
「なぜ?
抱けば慰みにはなるはずでしょ?
わっ、ちょっと旦那様-!?」
小うるさいよ、お前は。
そう言い、シルドはエイシャの羽織っていた夜着の上着を剥ぎ取ってしまう。
「だ、抱かれませんからね!!??」
「抱かないよ。
ただーー」
あー堅苦しい。
そう言い、シルドはさっさと着ている物を脱ぎ捨てるとベッドに入りこんだ。
「俺たちはあの場所で毎晩、こうやって寝てきただろ?
それ以上はなくていいんだよ。
何よりな、アルメンヌ。
あれには少しばかり、気を付けたい」
「なんでそんなことばっかり‥‥‥。
ユニス姉様にはもう子供ができる頃かもしれませんよ?」
「それはそれだろ?
あそこは帝国内、こっちは造反者の確定した状態だ。
そんななかで、レブナス高家との繋がりはなあ。
あっていいと思うか?」
逃げるな、とエイシャを抱き込んでシルドはその髪に顔を埋める。
「最後は僕だけが罪を請ければいい。
ああ、だめだめ。
文句は言うな。
その心づもりでいろ。
内政も、ユニス義姉様に任せた方がいい。
こっちはあくまで体面だけだ」
もう、今夜は何も言うなよ。
シルドはエイシャにキスをしながらそう言い含める。
誰かが受けるべき罰は、始めた者が終わらすべきだからな。
そのシルドの思いに、エイシャは涙を流すしかできなかった。
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