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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第九話 かりそめの大公様 1
しおりを挟むエイシャは‥‥‥とても、直接的だ。
普段の顔は誰もがそう見ている。
エルムンドも農家発言以来、あれは鬼嫁だ、そう言うほどだ。
それに比べて、いま自分の腕の中で安心して寝ているこの少女はーー
あの夜に一目惚れをして以来、その美しさに更に磨きがかかっている外見とは裏腹にどれだけの苦労を強いてしまったのか。
逆にその経験が彼女をより際立たせる存在にしたのかもしれない。
このままいくと帝国内でも指折りの美貌を称えられる貴婦人になることは間違いない。
それは僕の誇りなんだが‥‥‥シルドはため息をついた。
「どうされたのですか?」
エイシャが後ろから自分を抱きしめて離さないシルドにそう問いかける。
「起きていたのか?」
それはまあ。
髪の奥深くにまで顔を埋めてまるで大きな子犬のように荒い息を吐かれれば誰でも起きるでしょ?
エイシャは言わないが、面白そうに肩を震わせる。
あの普段は天才だの自慢しながらも、僕はエルムンドに騙されただのと言い、うまく自分に使われる夫のギャップを彼女は愛して止まない。
その才能も、こんな‥‥‥アルメンヌの小さな秘め事だってそうだ。
「ねえ、旦那様?」
「なんだい、妻よ?」
「どうしてあの大神官がしたような呪いを、アルメンヌにかけて良いように扱わないの?」
そう試しに聞いてみる。
自分でも意地悪な質問だと思った。
彼はやろうと思えばそれくらいは簡単に呪いをかけアルメンヌの身体を好きなようにすることもできる。
一部の貴族が飼っているような、性に奉仕するだけの奴隷にでもできるだろう。
やらないのはなぜ?
わたしへの愛の深さから?
それとも、その心の奥底にずっともう棄てて欲しいと言っても意固地になってそれをしようとしない‥‥‥
加害者意識のため?
「バレるからだ」
返事は簡素で素朴であっけなく。
そして、意表を突かれた。
「‥‥‥は??」
自分でも間の抜けた返事をしたとエイシャは思う。
ええいめんどくさい、彼の腕の中で反転してその胸に顔を埋めてやる。
自分の着衣を全部放り捨てて。
「そんな馬鹿な返事をする夫なんて情けない。
ばらさない程度の甲斐性くらい持ちなさいよ!
あの狡猾さはどこに消えたの!?」
「いや、おい。
これ、なにをするーー!?」
はあ‥‥‥シルドは再度のため息をつく。
追放されてから何度もこうして抱き合ったし、狭い風呂を沸かすのに薪がもったいないからと風呂も同じく。
その全てを見せあっているはずなのに。
「襲わないなら襲うくらいのことはしたいものよ。
散々、自分の女だなんだと言っておいて。
手出ししないなら、十年はダメだと言ったらおとなしく従うし」
「あのーなあ?
それでアルメンヌを遣わせたわけではないだろ?」
嫉妬で何か行動を起こしたり、画策をするほど愚かな女ではないだろ、お前は?
シルドは自分の腹の上に座り込むエイシャをほら、おいで。
そう抱きしめる。
「いつも‥‥‥これで終わるんだからーーずるいわ」
それはお互い様だろう?
僕だって他を見ない理由があるんだから。
「呪いもアルメンヌも情婦もいらんよ。
仕方ないだろう、お前しか。
プロムしか僕は見ていないのだから」
エイシャ・プロム・エシャーナ。
それが、エイシャの始まりの名前。
ユニスがグレンをイズバイアと。
グレンがユニスをニアムと呼ぶように。
この二人にもそんな、名前はあるのだ。
「その名前で呼ぶなんて卑怯よ、シルド・オーベルシュ・元アンバス子爵様?」
「元子爵だけ嫌味だな、君は。
まあ、この名前で呼び合うのはいつぶりだ?」
シルドはいつ見ても飽きないその身体を見れる恩恵に感謝しながら問いかける。
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