突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

文字の大きさ
90 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第九話 かりそめの大公様 1

しおりを挟む

 エイシャは‥‥‥とても、直接的だ。
 普段の顔は誰もがそう見ている。
 エルムンドも農家発言以来、あれは鬼嫁だ、そう言うほどだ。
 それに比べて、いま自分の腕の中で安心して寝ているこの少女はーー
 あの夜に一目惚れをして以来、その美しさに更に磨きがかかっている外見とは裏腹にどれだけの苦労を強いてしまったのか。
 逆にその経験が彼女をより際立たせる存在にしたのかもしれない。
 このままいくと帝国内でも指折りの美貌を称えられる貴婦人になることは間違いない。
 それは僕の誇りなんだが‥‥‥シルドはため息をついた。
「どうされたのですか?」
 エイシャが後ろから自分を抱きしめて離さないシルドにそう問いかける。
「起きていたのか?」
 それはまあ。
 髪の奥深くにまで顔を埋めてまるで大きな子犬のように荒い息を吐かれれば誰でも起きるでしょ?
 エイシャは言わないが、面白そうに肩を震わせる。
 あの普段は天才だの自慢しながらも、僕はエルムンドに騙されただのと言い、うまく自分に使われる夫のギャップを彼女は愛して止まない。
 その才能も、こんな‥‥‥アルメンヌの小さな秘め事だってそうだ。
「ねえ、旦那様?」
「なんだい、妻よ?」
「どうしてあの大神官がしたような呪いを、アルメンヌにかけて良いように扱わないの?」
 そう試しに聞いてみる。
 自分でも意地悪な質問だと思った。
 彼はやろうと思えばそれくらいは簡単に呪いをかけアルメンヌの身体を好きなようにすることもできる。
 一部の貴族が飼っているような、性に奉仕するだけの奴隷にでもできるだろう。
 やらないのはなぜ?
 わたしへの愛の深さから?
 それとも、その心の奥底にずっともう棄てて欲しいと言っても意固地になってそれをしようとしない‥‥‥
 加害者意識のため?
「バレるからだ」
 返事は簡素で素朴であっけなく。
 そして、意表を突かれた。
「‥‥‥は??」
 自分でも間の抜けた返事をしたとエイシャは思う。
 ええいめんどくさい、彼の腕の中で反転してその胸に顔を埋めてやる。
 自分の着衣を全部放り捨てて。
「そんな馬鹿な返事をする夫なんて情けない。
 ばらさない程度の甲斐性くらい持ちなさいよ!
 あの狡猾さはどこに消えたの!?」
「いや、おい。
 これ、なにをするーー!?」
 はあ‥‥‥シルドは再度のため息をつく。
 追放されてから何度もこうして抱き合ったし、狭い風呂を沸かすのに薪がもったいないからと風呂も同じく。
 その全てを見せあっているはずなのに。
「襲わないなら襲うくらいのことはしたいものよ。
 散々、自分の女だなんだと言っておいて。
 手出ししないなら、十年はダメだと言ったらおとなしく従うし」
「あのーなあ?
 それでアルメンヌを遣わせたわけではないだろ?」
 嫉妬で何か行動を起こしたり、画策をするほど愚かな女ではないだろ、お前は?
 シルドは自分の腹の上に座り込むエイシャをほら、おいで。
 そう抱きしめる。
「いつも‥‥‥これで終わるんだからーーずるいわ」
 それはお互い様だろう?
 僕だって他を見ない理由があるんだから。
「呪いもアルメンヌも情婦もいらんよ。
 仕方ないだろう、お前しか。
 プロムしか僕は見ていないのだから」
 エイシャ・プロム・エシャーナ。
 それが、エイシャの始まりの名前。
 ユニスがグレンをイズバイアと。
 グレンがユニスをニアムと呼ぶように。
 この二人にもそんな、名前はあるのだ。
「その名前で呼ぶなんて卑怯よ、シルド・オーベルシュ・元アンバス子爵様?」
「元子爵だけ嫌味だな、君は。
 まあ、この名前で呼び合うのはいつぶりだ?」
 シルドはいつ見ても飽きないその身体を見れる恩恵に感謝しながら問いかける。
しおりを挟む
感想 130

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幼い頃、義母に酸で顔を焼かれた公爵令嬢は、それでも愛してくれた王太子が冤罪で追放されたので、ついていくことにしました。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 設定はゆるくなっています、気になる方は最初から読まないでください。 ウィンターレン公爵家令嬢ジェミーは、幼い頃に義母のアイラに酸で顔を焼かれてしまった。何とか命は助かったものの、とても社交界にデビューできるような顔ではなかった。だが不屈の精神力と仮面をつける事で、社交界にデビューを果たした。そんなジェミーを、心優しく人の本質を見抜ける王太子レオナルドが見初めた。王太子はジェミーを婚約者に選び、幸せな家庭を築くかに思われたが、王位を狙う邪悪な弟に冤罪を着せられ追放刑にされてしまった。

婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される

さくら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。 慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。 だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。 「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」 そう言って真剣な瞳で求婚してきて!? 王妃も兄王子たちも立ちはだかる。 「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。

不貞の子を身籠ったと夫に追い出されました。生まれた子供は『精霊のいとし子』のようです。

桧山 紗綺
恋愛
【完結】嫁いで5年。子供を身籠ったら追い出されました。不貞なんてしていないと言っても聞く耳をもちません。生まれた子は間違いなく夫の子です。夫の子……ですが。 私、離婚された方が良いのではないでしょうか。 戻ってきた実家で子供たちと幸せに暮らしていきます。 『精霊のいとし子』と呼ばれる存在を授かった主人公の、可愛い子供たちとの暮らしと新しい恋とか愛とかのお話です。 ※※番外編も完結しました。番外編は色々な視点で書いてます。 時系列も結構バラバラに本編の間の話や本編後の色々な出来事を書きました。 一通り主人公の周りの視点で書けたかな、と。 番外編の方が本編よりも長いです。 気がついたら10万文字を超えていました。 随分と長くなりましたが、お付き合いくださってありがとうございました!

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さくら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

処理中です...