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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第十二話 エイシャの計画 2
しおりを挟む前日。
陽も高く上がり、午後の高い陽光が屋敷内に差し込み各所を照らし出している頃。
邸宅内を苛立ち紛れにある人物を探し回る人影が一つ。
彼女はさして広くもない、増築もしていない。
その爵位には相応しくないほどに小さいが、それでも歴史ある古城を改築に改築を重ねたシェス大河の支流が側を流れる古戦時代の遺物となった城内を歩き回っていた。
最初に作られた西の塔は川べりに面しており、弓矢や大砲などもういまでは使うことも少ない城塞の窓から身を乗り出せば釣りなどもできるようになっていた。
真ん中の中央塔はその次の時代に作られ、両者は跳ね橋で天井伝いに歩けるように増築され、最後に作られた近代風の建物が現在の公務を果たす、大まかな政務庁としての役割を果たしていた。
どの塔も河に面しているのはトイレや排水の問題からだったが、いま大きく生活の場をなっているの東側の邸宅であり、西の塔にはかつての家族、その実妹と母親が暮らしていた部屋が数室用意されている。
その最も西にある部屋のベランダからは、垂らせば水量の多い日などは大きめな川魚が獲れるので少女時代は苦しい家系を支えるために実妹とよく釣りをしたものだ。
公務を抜け出して、見つからないようにとしけこむならばあそこに違いない。
妻は見えない自身の侍女も含めて、なるほど、そうするのね。
怒りをその胸に抱き、部屋の主がいないはずの西の塔に向かった。
そっと室内を覗き込めば聞こえてくるのはーー
「旦那様、ちょっと、無理でございます!!
こんな大物、わたくしにはーー」
「まあ、頑張ってみればいい。
ひょっとしたら、今夜の食卓は少しばかり豪華になるかもしれん。
そうなれば、あれも喜ぶし‥‥‥僕とこうして時間を潰すのも悪くはあるまい?」
へえ‥‥‥悪くないんですね、旦那様?
彼女の額にそっと青筋が立ち始める。
「そんな‥‥‥旦那様。
奥様が聞かれたらどんな誤解をされることかーー」
「誤解もなにも。
この狭い屋敷に侍女含めて数十人いるのだ。
誰も困りはせんよ。
僕に付き合わされたと言っておけばいい」
にこやかに答える青年がわたした釣り竿を、どうにか引きながらしかし、侍女はその後ろに見えた人影にびく、っと肩を震わせて視線を逸らせる。
「おい、どうした?
そんな大物でもー‥‥‥あ」
気づいた時には、予備の釣り竿が凶器と化していた。
ヴンっ!!
空気を凄まじい勢いで切裂くその剣先にも似た竿を、彼は必死で避ける。
「あ、ではありませんよ‥‥‥なにが付き合わされたですか‥‥‥???」
さあ、避けるのではありませんよ、そう妻は夫に再度の怒りの鉄槌を下そうとする。
その隙に、あの輿入れの際に侍女となった少女はそっと竿を置いて逃げ出そうとしていた。
「あなたも!!
動かないでね‥‥‥アンリエッタ?
あとから話がありますから。
まずは、あなたです‥‥‥イズバイア?
よもや、このユニスの一撃程度で死ぬことはありませんよね?」
侍女は、青い顔をしてその場に不動直立してしまう。
妻は微笑み、夫は最初の一撃を受けとめて綺麗にその部分だけが撃ち込まれて折れ曲がっている木製のもの。
グレンは撃ち込まれた部分をはた目に確信する。
それでも、数センチはありそうな材木でできたテラスの一部が凹み、撃ち込んだ竿本体は、まだ無事なのを確認してから冷や汗を垂らした。
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