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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第十九話 アルメンヌの嘆息 4
しおりを挟むふうん。
それもいいかもしれないわね?
ならばどうしようかしら。
あの子がそれなりに情けをかけてくれと、自ら嘆願させるのも悪くないわ。
うちの狼二頭は最近‥‥‥
そこまで怒りを募らせてユニスはふと、にこやかにこちらを見ている従僕のアルフレッドの視線に気が付く。
他の者は畏怖やとばっちりを受けないようにと視線をそらすなか、彼だけは生来の気質なのか。
のんびりとしていて騎士には向かないかもしれないと、過去にグレンが言っていたのを思い出していた。
「嫌ね、わたしはなにをしているのかしら‥‥‥」
嫉妬ほど醜いものはない。
過去の人間はよくぞ言ったものだとユニスは思いとどまった。
自分の嫉妬と怒りを暴走させることにだ。
「あの時の殿下は本当に輝いていて、わたしも命をかけて恩返しをするつもりでしていたから。
結果的にそれが周りの助けを運よく授けて頂けただけなんだわ。
ああ、情けない‥‥‥」
側室だ公務だと言い訳の底には、エイシャとシルドへの羨望があるのかもしれない。
シェイルズとライナ夫妻はいつも幸せそうに、何年もの思い合った上での結婚だからそれは当たり前なのだがあの仲睦まじい様子が脳裏から離れない。
シルドは全てを捨てて王国から帝国へとやってきた。
自分の始めたことの始末をつけ、妻を愛するために。
さて、我が夫はーーーー???
ニーエ様を妊娠させ、子供には悲しみを与えていまは祖父である皇帝陛下の庇護下にある。
それは聖者サユキ様が最後に残してくれた恩情だったのだろう。
「シェイルズを怒らせ、陛下たち帝国の会からは放逐されそれでも信頼されていて、か。
結局、親友と更なる友人に元婚約者にまで迎えに来させてあの塔ではへばっていたし。
でも、枢軸のあの数万の軍勢を一人で撃退したし。
どれが本当のイズバイアなんでしょう」
誰にも聞こえないように本人は呟いたつもりだが、その周囲にいた者の耳にはしっかりと耳に入っていた。
ただ、誰も素知らぬフリをするしかない。
「ねえ、お父様」
ふと、かけたその声に元エシャーナ公はビクっと身体を震わせる。
なぜわしなのだ、ユニス!?
そう背中が語っていた。
「な、なにかな、当主殿???」
ついつい返事まで官公口調になる父親だった。
「なんでそんな形式ばった言い方をされるのですか?」
不思議そうな娘に、
「なぜと言われても、そう言うしかなあ、グレン殿?」
ここは、義理の息子も巻き込んでうまく煙に巻こう。
そういう作戦に彼は出た。
「いえ、旦那様はよいのです。
でしゃばるようで申し訳ありませんが」
「そ、そうか‥‥‥」
出鼻をくじかれ、彼は逃げ場がないことを察した。
周囲にはすでに、網が張り巡らされた状態だ。
戦場では鳴らした青き狼の勇士も娘には弱かった。
「で、なにかな、ユニス?」
「もう四十代、側室を貰って子供が成人だと六十代。
そうなると、今度は帝位継承権争いに関与する可能性が出て来ます。
それでも欲しいものですか?」
欲しいものですかと言われても‥‥‥一時の、たまに若い者の男女問わずの憩いの時間も許されないのか?
彼はそう逆に問いかけたかった。
「あのなあ、ユニスや。
もう二人も妻を迎え、娘も二人。
三人目よりは、孫を見たいのだがね?」
こうなっては娘夫婦を急かすしかない。
いまさら、側室など持ったところでこの十年近い歳月を妻なしで過ごしてきたのだ。
この自由を失いたくはなかった。
「孫、ですか。
そうですか‥‥‥」
ユニスの視線はじっと黙ってことの成行きを見守っているグレンに注がれる。
いや、その時は室内全員の視線が注がれていた。
この場を円満に切り上げてくださいよ、旦那様!
その天然を発揮しないでくださいよ!!!
そう、全員が視線で語っていた。
「あの夜は白銀の鷹が舞い降りたかと思ったのですけど。
いまの帝国には漆黒の鷹しかいないのかしら‥‥‥」
表舞台に出れないグレンは、二頭の鷹から外されてしまっている。
代わりになるのは、そう。
シルドだろう。
「次は金色の鷹になるのかしらねー‥‥‥」
「あのなあ、妻よ。
そこまでぼやかないといけないことか?
僕が裏にいても、きちんと銀色の月のごとく照らせばいいのだろう?」
「それは赤い太陽が後ろで照らしてるからだとは、思いませんか、旦那様?」
月は太陽がなければ輝かない。
赤い太陽とは、もちろん、ユニスのことだ。
黙って聞いていたグレンもそろそろ我慢の限界がきたようにいらいらとし始めていた。
「なら、銀色の太陽になれば文句が無かろう?」
ユニスはにっこりと微笑んだ。
「もちろんよ、旦那様。
その一言を聞きたかったの」
しまったー‥‥‥。
最初からここまではかられていたのか。
グレンはしてやられたと感じ、元エシャーナ公は単なる出汁に使われたと知り。
そして、周囲の家臣たちは、あーあ、またやり込められている。
その光景を見てため息をつく始末だ。
「で、その太陽になにを求めているのだ、ニアム?
義父上様を出汁に使うなど。
側室の話にしてもそうだが、僕はいらないぞ」
「当たり前です。
もうそのような控えめなユニスはおりませんから。
あの塔の日から誰にも譲りません」
「なら、なぜそんな話をだしてきた!?」
そうだそうだと元エシャーナ公も心の中で叫んでいた。
娘が怖いからさすがに声には出さないが‥‥‥
「ねえ、旦那様。
公務をしばらく変わりますから、しばらく領内を見てこられてはいかがですか?
皇太子殿下ではなく、平凡な騎士としてお父様と共に」
「それは陛下から堅く禁じると‥‥‥」
「いまさら、陛下からの命令がどうこう言ったところで‥‥‥
こうのんびりと過ごしていたのではどうかとユニスは思います。
幸い、お父様は一からこの領内の平定をなさいましたから。
ねえ、お父様?」
殿下とわたしだけでなく、三者で連帯責任をしましょうね?
釣りをした罰に。
ユニスは不敵に微笑んでいた。
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