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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第二十五話 シルド大公の外遊 4
しおりを挟むシルドとアルム卿が面白そうに二階を眺めている頃。
二階のイルバン卿が割り当てられている部屋では、彼と連れ込まれたアルメンヌのひと悶着が起きていた。
イルバン卿の物言いにアルメンヌは男気質も勝ってか一歩も引かず、険悪な雰囲気が室内には漂っていた。
「どういうことだ?
こんな茶番劇など聞いていないぞ、アリア!?」
アリア?
そんな名前で今更、わたしを呼べるような身分じゃないでしょうが?
アルメンヌは一笑に伏してしまう。
あなただって、どっちの味方なのよ、と。
「へえ、まだそんな呼び方をするんだ?
ねえ、ギース??」
「ふざけるな。
俺がそう呼ぶのは当たり前だ。
まだお前はーー」
「レブナス高家の御意思なんて知らないわよ!!」
アルメンヌは声を張り上げた。
もう、アルメンヌ・アリア・クエーサー子爵夫人ではない、と。
「わたしはもう、アルメンヌ。
それだけよ。
誰もものにもならない。
ああ、そうね。
いまは大公閣下の情婦よ!!
でもーーそれでいいわ‥‥‥」
イルバン卿は怒声をあげる、それで言い訳がないだろうが!、と。
「お前はまだ子爵家の物だ、籍すら抜かれてはいない。
旦那様の恩情がわからんのか!?
レブナス高家からの怒りの矛先を逃がすためにわざとお前を離した、そのことが!!」
「わざと?
わざと、なんていうの?
あなたも知ってるわよね?
いまわたしは十九歳よ!!!
子爵家に入るまえは単なる騎士の娘、それもレブナス高家の税を納められない農民をしながらの騎士の娘よ?
唯一、ユニス様の御母上様の一族の端くれにいて‥‥‥
一時期だけ見習いとしてエシャーナ子爵家に奉公にあがったけどね。
すぐに呼び戻されて税金代わりに売られたわ‥‥‥徴用、徴兵。
そんな名目で、十歳から五年間も!」
アルメンヌは泣きそうになりながら‥‥‥
心の思いを吐露していた。
「五年間よ?
男どもと一緒に、一つの船で傭兵みたいなことをさされて今回は南方大陸、次は枢軸、次は王国。
まるでスパイみたいにあちらこちらに行かされて報告する度に自分の心が腐りだった!
この身体も綺麗じゃないわよ!?」
そう言い、アルメンヌは左足の大きな傷跡を見せつける。
イルバン卿はまるで汚いものを見るように目をそらした。
その仕草がアルメンヌは気に入らない。
「あなたも分かるでしょう?
同じ船で、同じ隊で。
女が数人、男が数十人。
そんな混成の傭兵団なんて、女がどうなるか。
ねえ、分かってて言ってるんでしょ?
この傷は戦いの痕じゃないのよ?
あの団のサディストだった、ボリス団長に、なにか落ち度がある度に‥‥‥剣で斬られ、火であぶられ。
ねえ、わかる!?
‥‥‥拷問だったのよ!?」
しかし、イルバン卿は自分の見識を改めようとはしなかった。
それどころか、恩知らずはお前だろう。
そう、アルメンヌのことを侮蔑する。
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