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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第二十六話 シルド大公の外遊 5
しおりを挟む「だが‥‥‥その拷問から助け出したのは子爵家ではないか。
お前の負債を全額支払いしたのも子爵様だ。
お前は返しきれない恩義があるだろう!!!」
面白いことを言うのね、この正義の騎士様は。
アルメンヌは思わず苦笑してしまう。
世間知らずにも程がある、と。
「恩義?
恩義っていうんだ?
あの子爵家で、誰がわたしを抱いたの?
ねえ、ギース‥‥‥誰だった?
ねえ、旦那様だけだった!!??
あの城の守護を旦那様が前線でいるからと言って、結婚してすぐに代理城主に預けたのは誰だった!?
預けてから何度来たのよ、クエーサー子爵様は?
一度だって妻として抱いたことも触れたこともないじゃない。
あなたは知らないのね、幸せな人‥‥‥」
知らない?
何を知らないと言うのだ?
イルバン卿は不可思議な顔になる。
元主だったクエーサー子爵は、それでもアルメンヌを大事にしていたはずだ。
彼はそう思っていたからだ。
「待て、アリア。
旦那様は確かにお前をあの城に預けたが、しかし、お前に何もーー
不自由はさせなかったはずだ‥‥‥」
はは、本当に幸せな人ね、ギース。
あなたはあの子爵家の良い面しか見ていないんだわ。
レブナス高家のやり方も、最南端の高家として帝国を守るためにどれだけの暗部があるかも。
いいわね、アルメンヌはそう思ってしまう。
彼ほどに熱心に主を信じ、正義を信じ、紳士に生きていければどれほどよかったかと。
「ねえ、ギース。
あの城の代理城主はね。
女が好きなのよ。
若い女が。
それもね、綺麗じゃだめなの。
わかる?
どこか、汚れていたりしないと嫌なのよ」
「どう‥‥‥いう、意味、だ?
汚点が無ければいけないとは、なぜそんな?
代理城主様だった、リゼル卿は良き代理城主だったはずだ‥‥‥」
アルメンヌは面白そうに、それでいて悲し気に。
そして、憐れなものを見る目で、イルバン卿を見る。
本当に知りたいの、と。
そう問いかけるように。
「いいこと、ギース。
あの城は最前線だった。
南方大陸の諸国との賄賂なんて当たり前。
それでもレブナス高家の当主様の目が光っていたから、まだ帝国側についていたの。
これ以上、知りたい?」
はっ‥‥‥!
イルバン卿はいい加減にしろ、そう言いたそうだった。
どこにでも汚いものは存在する。
今更なにが珍しいものか。
そう、アルメンヌに面と向かって言い放つ。
「そう、なら教えてあげる。
わたしはね、あのリゼル卿に下賜されてたのよ。
子爵夫人なんて自分より上の女を楽しめる。
それも若くて、こんな拷問のあとを持つ‥‥‥わたしほどの土産は無かったのよ!!
あの城を帝国側に置いておく為には、ね」
「バカなことを‥‥‥。
自分の主の妻を、上位貴族を抱く部下がどこにーー」
首をふり、イルバン卿はそれを軽く否定する。
そんな現実は、騎士道に生きる彼にはあり得ない世界だ。
あったとしても、せいぜい高級娼婦を雇う‥‥‥
いや、待てよ。
ふと、イルバン卿は思い出した。
アルメンヌが所属していた傭兵団はあの時、そうあの城が敵に陥落させられた時にーー
「お前の元上司のボリスはあの陥落時に城にいたはずだ。
お前は‥‥‥どこにいたーー???」
それは彼にとって、最大の問題点だった。
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