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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第三十七話 城塞都市アーハンルドの闇 6
しおりを挟む「まったく‥‥‥」
アルメンヌのそのぼやきはシルドにだけ聞こえていた。
それほどに、小さな小言だったからだ。
「子爵様ってのはー‥‥‥どこもかしこも同じ趣味!?」
怒りを含めてアルメンヌはそうぼやいている。
自分に与えられた衣服よりも派手で、女の怪しさを見たものを惑わすその光景に。
彼女はぼやいていた。
「おい、そんなことを言うな。
良い光景ではないかー‥‥‥なあ、イルバン卿?」
この地方のものでは無い品々に取り囲まれたその部屋。
床にははるか南方大陸の更に果て辺りから取り寄せただろう絨毯はこの帝国産のものよりもはるかに厚みがある。
ふわふわとした足元と尻から伝わる感触に、その更に数倍の緩やかさをもつクッション。
そして、座り込むソファーの数々。
ここまで贅沢に奢侈を凝らしているとはな‥‥‥
シルドだけではなく、イルバン卿すらも首を振る様だった。
主のためにいまは従順な従僕と化しているイルバン卿はさて、頼れる存在かどうか。
少なくとも、近付いてくることにアルメンヌは恐怖を感じていた。
「大丈夫だ。
俺がいる」
ささやくシルドは、過去の人に戻っていた。
エイシャと出会う前の、銀鎖の魔導士。
いや、その心に秘めた闇すらも再び顔を見せるような、どこか空恐ろしい感触をアルメンヌに与える。
「旦那様‥‥‥?」
まるで人が変わった様。
これが芝居なら、彼は大舞台を張る都会の歌劇場でも主演男優を張れるだろう。
あんた、こんな男が旦那でいいの、エイシャ?
思わずアルメンヌは旧友の心配をしてしまう。
シルドはまるで俺のものだ、触るな。
そう、視線でイルバン卿を威嚇しながらアルメンヌを強く抱き寄せていた。
「あ‥‥‥っ」
吐息を出すほどに片方の胸を強くつかまれて甘い声がアルメンヌから出てしまう。
シルドはそれほどに、彼女を愛妾をして扱っていた。
目の前に座る、数人の同様の女性たちを従えるこの城塞都市アーハンルドの主に向かって。
「大公閣下。
この場はー‥‥‥」
アルメンヌの吐息に顔をしかめてイルバン卿がシルドに苦言を呈する。
ここは異常な場所だ。
そう、彼は伝えたかったに違いない。
このシルドの従える仲間のうちで、イルバン卿とアルメンヌ以外に、南方大陸に詳しい者はいない。
彼らが異常と言うならば‥‥‥
「どう思う、お前?
いい掛け心地だな、なあ子爵殿?」
視線の先にいるのは――レグアル子爵。
さて、どこがアルメンヌの言う、どいつもこいつも同じ趣味なのか。
シルドの視線は彼を探っていた。
帝国の東方、この大公領に多くいる容姿に対して変わりはない。
連れている女たちはその恰好に良い心境ではないようだ。
しかし、己の美しさには自信があるらしい。
アルメンヌの肌を彩る傷や火傷、彫り物に侮蔑の視線を投げかけていた。
つまり――
「色恋を多くするのは子爵様の御趣味、そういうことかな?
レグアル殿?」
シルドの嫌味に、四十代の子爵はいやらし気な笑みを浮かべる。
「いえいえ、大公閣下。
閣下の御趣味も、また。
哀れな女に情けをかけてやるなどとは――わたくしには出来ない所存」
アルメンヌの肌にあるそれらを指しているのだろう。
シルドは軽く失笑してやる。
「情け?
子爵殿、美しさだけしか誇れぬ御婦人よりも、この――」
「ひゃっ!?」
足元を隠していた前裾をはだかれてアルメンヌは悲鳴を上げる。
「戦場だの、これまでの生きざまを誇っている我が妾の方が。
俺には何よりも愛おしいー‥‥‥」
そちらの貴婦人方には何もそそられんな?
シルドの嘲笑に、子爵の女性陣は一様にアルメンヌに怒りの視線を投げつけていた‥‥‥
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