119 / 150
新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第三十七話 城塞都市アーハンルドの闇 6
しおりを挟む「まったく‥‥‥」
アルメンヌのそのぼやきはシルドにだけ聞こえていた。
それほどに、小さな小言だったからだ。
「子爵様ってのはー‥‥‥どこもかしこも同じ趣味!?」
怒りを含めてアルメンヌはそうぼやいている。
自分に与えられた衣服よりも派手で、女の怪しさを見たものを惑わすその光景に。
彼女はぼやいていた。
「おい、そんなことを言うな。
良い光景ではないかー‥‥‥なあ、イルバン卿?」
この地方のものでは無い品々に取り囲まれたその部屋。
床にははるか南方大陸の更に果て辺りから取り寄せただろう絨毯はこの帝国産のものよりもはるかに厚みがある。
ふわふわとした足元と尻から伝わる感触に、その更に数倍の緩やかさをもつクッション。
そして、座り込むソファーの数々。
ここまで贅沢に奢侈を凝らしているとはな‥‥‥
シルドだけではなく、イルバン卿すらも首を振る様だった。
主のためにいまは従順な従僕と化しているイルバン卿はさて、頼れる存在かどうか。
少なくとも、近付いてくることにアルメンヌは恐怖を感じていた。
「大丈夫だ。
俺がいる」
ささやくシルドは、過去の人に戻っていた。
エイシャと出会う前の、銀鎖の魔導士。
いや、その心に秘めた闇すらも再び顔を見せるような、どこか空恐ろしい感触をアルメンヌに与える。
「旦那様‥‥‥?」
まるで人が変わった様。
これが芝居なら、彼は大舞台を張る都会の歌劇場でも主演男優を張れるだろう。
あんた、こんな男が旦那でいいの、エイシャ?
思わずアルメンヌは旧友の心配をしてしまう。
シルドはまるで俺のものだ、触るな。
そう、視線でイルバン卿を威嚇しながらアルメンヌを強く抱き寄せていた。
「あ‥‥‥っ」
吐息を出すほどに片方の胸を強くつかまれて甘い声がアルメンヌから出てしまう。
シルドはそれほどに、彼女を愛妾をして扱っていた。
目の前に座る、数人の同様の女性たちを従えるこの城塞都市アーハンルドの主に向かって。
「大公閣下。
この場はー‥‥‥」
アルメンヌの吐息に顔をしかめてイルバン卿がシルドに苦言を呈する。
ここは異常な場所だ。
そう、彼は伝えたかったに違いない。
このシルドの従える仲間のうちで、イルバン卿とアルメンヌ以外に、南方大陸に詳しい者はいない。
彼らが異常と言うならば‥‥‥
「どう思う、お前?
いい掛け心地だな、なあ子爵殿?」
視線の先にいるのは――レグアル子爵。
さて、どこがアルメンヌの言う、どいつもこいつも同じ趣味なのか。
シルドの視線は彼を探っていた。
帝国の東方、この大公領に多くいる容姿に対して変わりはない。
連れている女たちはその恰好に良い心境ではないようだ。
しかし、己の美しさには自信があるらしい。
アルメンヌの肌を彩る傷や火傷、彫り物に侮蔑の視線を投げかけていた。
つまり――
「色恋を多くするのは子爵様の御趣味、そういうことかな?
レグアル殿?」
シルドの嫌味に、四十代の子爵はいやらし気な笑みを浮かべる。
「いえいえ、大公閣下。
閣下の御趣味も、また。
哀れな女に情けをかけてやるなどとは――わたくしには出来ない所存」
アルメンヌの肌にあるそれらを指しているのだろう。
シルドは軽く失笑してやる。
「情け?
子爵殿、美しさだけしか誇れぬ御婦人よりも、この――」
「ひゃっ!?」
足元を隠していた前裾をはだかれてアルメンヌは悲鳴を上げる。
「戦場だの、これまでの生きざまを誇っている我が妾の方が。
俺には何よりも愛おしいー‥‥‥」
そちらの貴婦人方には何もそそられんな?
シルドの嘲笑に、子爵の女性陣は一様にアルメンヌに怒りの視線を投げつけていた‥‥‥
0
あなたにおすすめの小説
結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。
佐藤 美奈
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。
結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。
アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。
アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
田舎娘をバカにした令嬢の末路
冬吹せいら
恋愛
オーロラ・レンジ―は、小国の産まれでありながらも、名門バッテンデン学園に、首席で合格した。
それを不快に思った、令嬢のディアナ・カルホーンは、オーロラが試験官を買収したと嘘をつく。
――あんな田舎娘に、私が負けるわけないじゃない。
田舎娘をバカにした令嬢の末路は……。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
あっ、追放されちゃった…。
satomi
恋愛
ガイダール侯爵家の長女であるパールは精霊の話を聞くことができる。がそのことは誰にも話してはいない。亡き母との約束。
母が亡くなって喪も明けないうちに義母を父は連れてきた。義妹付きで。義妹はパールのものをなんでも欲しがった。事前に精霊の話を聞いていたパールは対処なりをできていたけれど、これは…。
ついにウラルはパールの婚約者である王太子を横取りした。
そのことについては王太子は特に魅力のある人ではないし、なんにも感じなかったのですが、王宮内でも噂になり、家の恥だと、家まで追い出されてしまったのです。
精霊さんのアドバイスによりブルハング帝国へと行ったパールですが…。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】え?今になって婚約破棄ですか?私は構いませんが大丈夫ですか?
ゆうぎり
恋愛
カリンは幼少期からの婚約者オリバーに学園で婚約破棄されました。
卒業3か月前の事です。
卒業後すぐの結婚予定で、既に招待状も出し終わり済みです。
もちろんその場で受け入れましたよ。一向に構いません。
カリンはずっと婚約解消を願っていましたから。
でも大丈夫ですか?
婚約破棄したのなら既に他人。迷惑だけはかけないで下さいね。
※ゆるゆる設定です
※軽い感じで読み流して下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる