突然ですが、侯爵令息から婚約破棄された私は、皇太子殿下の求婚を受けることにしました!

星ふくろう

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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~

第四十二話 城塞都市アーハンルドの闇 11

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 戻り時の馬車は六頭立てが一台。
 向かい席が二組、縦につながれた馬車の箱の中には、八人の男女が微妙な面持ちで座っていた。
 三匹?
 それとも三人?
 獣人であり、亜人でもある彼女たちをどう言い表すのが正しいのか?
 それよりも――
「なんで、こういう席次になるの?
 ねえ、大公様!?」
 左手にアルメンヌ。
 右手にはなぜか、先程抱き上げていた獣人の少女が心細いように腕に引っ付いている。
 その前には二人の獣人の奴隷が対面し、後ろに三卿が腰かけていた。
「仕方がないだろう?
 アルメンヌ、お前は知らないだろうがな。
 戒めを解かれた獣人は、一人で人間の兵士十人分をはるかに越えるぞ?」
 そこに、そして隣にいるのは――
 明らかな自分たちを殺せる兵器になりうる。
 シルドはそう言っていた。
 戒めを解かれた?
「でも、彼女たち。
 まだ、鎖だってー‥‥‥」
 ああ、本当に理解していない。
 シルドは困ったように頭を振った。
「いいか、これは人間用だ。
 人間の奴隷、それ用だ。アルメンヌ。
 この子たちがあの屋敷で大人しかったのは単に仲間が多かったから。
 意味が分かるか?」
「それって、仲間の命が危険だからってこと?」
「いいや、違うよ、アルメンヌ。
 この子たちは、いつでも反乱できたのさ。
 しなかったのは――」
 シルドは右腕にしがみつく少女の首に手を回す。
「なあ?
 来るべき理由があったから。
 そうではないのか?」
 甘えるようにしていた彼女は、その手の中に光る光球を見て身体をこわばらせた。
 シルドは対面する二人の奴隷にも、その視線を向ける。
「逆らってもいいが、安全には戻れんぞ?
 なあ?
 これがどういう意味かは、理解できるな?
 名前だけでも知りたいものだ。
 俺はシルド。
 お前は?」
 光球を眼前に浮かんだまま置かれ、頭をゆっくりと撫でられて少女は恐怖した。
 この人間の持つ力のその異様さに。
「ダリア。
 ダリアです、御主人様‥‥‥」
 御主人様?
 そんな呼び名は要らんのだがな。
 シルドは微妙な顔をする。
「そっちの二人は、ダリア?
 奴隷と主人としての御主人様など要らんぞ?
 妾と夫としての主の意味なら、あってもいいがな?」
「そのお言葉を信じる理由がありませんー‥‥‥。
 あの二人は、リムとリザ。
 なぜ、妾と言われるのですか?」
 少しばかり、なまりのある言葉を話す彼女は、ダリアは戦いたい。
 しかし、目の前にある光球をどうにかしない限り勝機はない。
 残る二人は、ダリアを奪われて手が出せない。
 そんな、顔をしていた。
「なぜ、か。
 まんまと子爵から三人の商品を奪うまではうまく行った。
 この先にあるのは、お前たちの安全と」
「子爵位のはく奪、ですかな。
 大公閣下」
 アルム卿が、前席の光景を面白そうに眺め、そして声を上げた。
 アルアドル卿とイルバン卿もまた、背にしていたシルドを振り返り見ていた。
「そうだな、アルム卿。
 しかし、理解できんな。ダリア。
 抵抗も出来れば、仲間と共にこの地に来るまでどうにでも逃げ出すことは可能だったはずだ。
 まあ、信用しろといきなり言われても無理か」
「あ‥‥‥っ、なぜ!?」
 ダリアは掻き消えた光球を見て叫んだ。
 一体、何を企んでいるの、と。
「まあ、なぜなぜばかり語っても仕方あるまい。
 まずは、俺は危害を加える気はない。
 だが、逃げるのもその爪と牙を出すのも、もう数日は待って欲しいな?」
 救いたいだろ、仲間を?
 シルドの不敵な笑みは、獣人たちの不信感をより募らせ、アルメンヌのため息を大きくし‥‥‥。
 三卿はさて、この主人はなにをどう駒にする気なのか。
 そこに頭を悩ませていた。

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