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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第四十四話 真紅の魔女ミレイアの微笑 1
しおりを挟む「あ、あのー‥‥‥アルメンヌ、殿ー」
アルアドル卿は頬を赤らめながらその腕を優しくほどこうとする。
しかし、アルメンヌはより一層強く、彼に抱き着いていた。
アルアドル卿が困ってしまうが、その心境も分からなくはなかった。
テーブルの向かい側にいるのは、つい先日。
彼女を手にかけようとして失敗したイルバンがいるからだ。
シルドがもし、今夜から二日ほどいないのだとしたらー‥‥‥、アルメンヌは不安でたまらないだろう。
おそらく、生きた心地はしないはずだ。
「イルバン、あなたはどうお考えなのですか?
まだ、アルメンヌのことを罰したいと。
そうお考えですか?」
実直な若い騎士は、それでも、僕のアルメンヌ。
そんな顔で、彼女だけの騎士としての心境でイルバン卿を見た。
彼のまっすぐな視線は、イルバン卿の胸打ちに巣くう主君への忠誠心とある事柄で揺れていた。
「‥‥‥アルアドル、分からんのだ」
「何が分からないのですか?」
「あの子爵家を見て、あの実態を見て。
俺が思い重ねたのはー‥‥‥」
イルバン卿は重苦しく、息をすることすら過ちであるかのように言葉にした。
「まるで、我が主の様。
そのものだった。
側にいる時には騎士としての忠誠だけに目が向いていた。
だが、いまは分からん。
ただ――」
イルバン卿はアルアドル卿とアルメンヌを交互に見て悲し気に言った。
「すまんが、俺にアルメンヌを近づけないでくれ。
俺は、いまはまともではない‥‥‥」
自分は先に休む。
過ちを犯したくないからな。
そう言って、イルバン卿は二階へと上がってしまった。
顔を見合わせてアルム卿に指示を仰ぐ、アルメンヌとアルアドル卿。
壮年の彼はこれも困った顔をして、
「ま、あれも反省はしている。
そういうことだろう。
己の中にある獣を飼いならすまで時間がかかるということかな‥‥‥。
二人は――そうだな」
アルム卿はエールを煽ると、ふっと笑いかけた。
「アルアドル卿、美女と三夜ほど共にするのも悪くはないぞ?
俺は別に部屋をもらうとしよう。
ああ、それよりも‥‥‥どうせ、大公閣下の部屋が空いているだろう。
結界だのなんだの。
外敵に対する備えもあの御方ならしているはずだ。
戻られるまでそこに二人でいることを命じる。
いいな?」
まあ、若い者同士、仲良くやれよ?
命令だからな、と半ば強引にアルメンヌを若者に押し付けて彼は退散してしまった。
「ちょっと、アルム卿!!??」
アルアドル卿の抗議の声も虚しく、アルム卿は階段の奥へと消えてしまった。
残された少年の腕にしがみつくアルメンヌを見て、彼はどうしよう、と心で焦っていた。
女を知らないわけではない。
騎士見習の時に、上司に連れられてそういった場所を楽しんだこともある。
だが、それはあくまで仕方のない付き合いであり‥‥‥
自分のそんな面を、この年上の惚れてしまった美女に知られたくはなかった。
「ねえ、アルアドル?」
アルメンヌは困り果てている少年に声をかける。
「なんでしょう、アルメンヌ?」
彼女は年上のはずなのに、しかし、少女のように赤くなりアルアドル卿に質問した。
「その‥‥‥わたしはこんな身体だけど。
汚い‥‥‥かな?」
「いいえ、とんでもない。
あなたは美しい、いえ‥‥‥誰よりも。
わたしはあなた以上の女性を知りません――」
そう、とアルメンヌは顔を伏せてしまう。
二階、行こうか?
もし、大公閣下がいれば別々に過ごせばいいし?
そう誘われて入ったシルドの部屋には、獣人の少女たちもシルドもやはりおらず‥‥‥。
先に入ったアルアドル卿が振り向いた時、扉をそっとしめて鍵をかけるアルメンヌは――
何かを決意したかのように、少年にそっと歩み寄っていった。
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