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新章 魔導士シルドの成り上がり ~復縁を許された苦労する大公の領地経営~
第四十六話 真紅の魔女ミレイアの微笑 3
しおりを挟む「ええい、放しなさい!!!
ここで斬らなきゃ、しかも夫婦のベッドに連れ込むなんて!
あんな獣人!!??」
と、部下の騎士たちが、
「お待ちを奥様!」
「ここは城内です、冷静に!!
あちらは大公殿下ですぞ!?
御夫君ではないですか、そのような剣など!!」
などとエイシャから剣を奪おうとし、そして蹴られ、噛みつかれ、ひっかかれ‥‥‥
まあ、剣の錆にならなかっただけましと言うべきか。
さんざん、暴れた最後に、
「なんで、シルドの裏切り者――そんな、獣人なんて三人も!!?
え、獣人‥‥‥???」
ピタリ、とその事実がようやく認識できたのか。
三匹?
それとも三人?
あられもない下着姿同然の首輪だの手枷足枷をつけられた彼女たちは、エイシャの暴れている間にベッドから床に降り立つと、そのまま正座のような格好で額を床につけて伏せていた。
奴隷の作法?
なんでそんなことをさせているのよ、この男は!?
別の意味で、怒りがこみあげてくるエイシャの思考の切り替えの速さには誰もついていけない。
苛烈で、やきもち焼きで、少しばかり早合点する点は、まだ少女の幼さがあるもいえる。
そんな、彼女の心のうちを理解出来て応対できる機敏さがあるのは多分、シルドかユニス。
その父親のエシャーナ公くらいかもしれない。
「いいよ、お前たち。
頭をあげて、そのソファーに腰かけていなさい」
慌てて床に伏せた奴隷たちに指示をすると、シルドはやれやれ。
そういった表情になり、まだ剣先を緩めない妻の懐に易々と潜り込む。
「ただいま、プロム。
今夜もいつにも増して、愛情のある迎え方だな?
その剣はお前には似合わないぞ?」
シルドの手は、エイシャががっしりと握りしめていた剣を、その両手からするりと抜き取ってしまう。
「お前たち、誤解を与えてすまなかったな。
今夜、ここにいる物には特別、後から禄を授ける。
それで勘弁してくれな?」
臨時ボーナスが出ると聞いて、巻き込まれた被害者の騎士たちは抗議の声を上げずに済んだ。
エイシャの被害者の会は結成されないまま、その傷はシルドの治癒魔導により癒されていく。
「いえ‥‥‥旦那様、これはよいのですが。
しかし、奥様の誤解もあのような者たちと寝室にいられてはそれは仕方ないかとー‥‥‥」
側近の一人が、転移魔導で戻られるのは構いませんが、あそびは見えないところでされた方が。
そう、シルドにささやいてくれる。
彼もシルドの立場であれば、妻だけではいけないだろう。
側室も迎えて子を成さなければ、大公家の跡継ぎが成り立たない。
そう理解しての発言だった。
「まあ、そう言うな。
僕は側室を迎える気はないからな。
愛人も、妾もだ、な?
プロム?」
ぶすっとした顔で知りません。
そう言う、シルドの胸辺りにまでしか身長のない小柄な妻を抱き上げて、彼はすまなかったな。
と、再度、謝罪する。
「でも、なぜ獣人なのですか?
それも三体も、あのような鎖につなぐ趣味なんて悪趣味な。
どこから連れて来たの?」
「まあ、待て。
話をするよ。
お前たち、もういいぞ。
解散してくれ。
ああ、侍女を数人寄越してくれるか?
あの者たちの湯浴みと服をな、揃えて欲しいんだ」
部下たちが一度、解散するとシルドはエイシャをその腕に抱きかかえたままソファーに座る獣人たちに向き会わせた。
「プロム、どこで彼女たちと会ったと思う?
なんとな、アーハンルドの管理者の子爵家からの献上品だ。
枢軸経由ではなく、南方大陸経由だという」
「それってー、人間以外の奴隷売買は帝国の法では――」
エイシャはあまり関心のなかった法律を思い出す。
奴隷法においては、帝国内に獣人はほぼ皆無といっていいほど存在しない。
人間については事細かく規定があり、獣人は――
「あいまいな存在で、希少価値を高める。
そういうことですか。
それにしても、アーハンルドの子爵家なんて」
そうだ、シルドは面白そうに言った。
「あんな内陸部で奴隷売買が成り立つはずがない。
成立するとすれば、この戦乱が治まった後の人員補充ではなく‥‥‥」
「上級貴族、もしくは諸外国への愛玩奴隷‥‥‥」
大公夫妻は、この新たな商売を考え着いた悪党をまずはどうするか。
頭を悩ませるのだった。
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