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一章 見捨てられた地方都市と『希望の力』

避難所崩壊 3

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 そして、加藤さんが亡くなった日に事件は起こった。

 昼間から門の警備をしていた警察の一人が突如姿を消し、そのまま夜になっても戻ってこなかったのだ。

 その人は村田さんの補佐をしていた人で、警察の中でもベテランの人だった。とても慎重な人で、魔物に遅れを取るとは思えない、と村田さんは言っていた。そして、昨日までこれからの事を真剣に話しており、自殺する素振りも無かった、と。

 翌朝、周辺の探索が行われたが手掛かりは何も見つからなかった。村田さんもあまりそこに人手を割くことも出来ず、泣く泣く探索を打ち切った。


 それを聞いた俺には、黒薙さんの睨む目が頭から離れずにいた。だが何も証拠も無いし、流石にそこまでするとは思えない。それでも一応、村田さんへ注意するように伝えておいた。

 この時点で黒薙さん達は避難民の働かない連中に対して強く当たるようになっていた。まだ暴力を振るうまでには発展していないが、それも時間の問題に感じている。
 だが——警察の人数は減り、どうしても黒薙さん達の力は必要だ。村田さんも黒薙さん達の行動について、強く言えずにいた。


 俺も身の危険を感じ、痛みを我慢しながら両腕を動かす練習をしていた。だがまだ動かせるのは指先のみ。まともに動かせるのはもう数日掛かりそうだ。

 頼む、両腕よ動いてくれ。きっと、早くしないと間に合わなくなる。そう思っていても何も出来ない状況に、俺はかなり焦り始めていた。



♦︎



 次の日の昼過ぎ、村田は警察署から離れ食糧の調達に出ていた。

 暁門の忠告により黒薙と組むのは危険だと判断し、信頼出来る警察の後輩の浦井と共に二人で行動していた——筈だった。

「浦井!お前何をしてるのか分かってるのか!」

 住宅に入り食糧を物色していた村田に、突如浦井は石弾の銃を発砲した。その弾は村田の左肩を掠め、着ていた警察の制服を血が染めていく。
 村田はすぐにキッチンへと姿を隠し、浦井の追撃から逃れる。

「へへっ、すいませんねぇ村田さん。実は黒薙さんと取引してましてねぇ……黒薙さんが避難所のトップになったら、好きな女をあてがってもらえるそうで」

「な!?お前には警察としての誇りはないのか!」

「警察なんて、別にただの仕事でしょ?村田さんは堅いなぁ。それに、黒薙さんに付いたのは俺だけじゃ無いですよ。後は村田さんが消えれば後は……ヒヒッ」

「クソッ!」

 村田が一瞬顔を出し、浦井に対して銃を発砲する。だが、浦井は既に姿を隠しておりそれは当たらなかった。

「おー怖い。サシじゃ流石に怖いですね。一旦引かせて貰いますよ、っと」

「待て!」
 
 言葉と足音に反応し村田が顔を出した、その瞬間。

 村田が見たのは、浦井が銃を向けている姿だった。それを見て浦井は口角を上げて笑う。

「しまっ——」

 村田が己の失敗を理解した瞬間、浦井が銃の引き金を引き石弾が発射されていた。

 村田はせめて、と思い咄嗟に銃を撃ち返す。

 
 少しずれた二発の銃声の後、何かが倒れる音が二回した。
 
 そして、住宅に倒れた二つの人の姿が残り……その後には物音一つない静寂だけだった。
 


♦︎


 そして夜。

「村田さんともう一人が戻らない?」

 その情報が告げられた避難民達が動揺し、ざわめきが起こる。
 
「これからどうなるのよ!大丈夫なんでしょうね!死にたくないわよ!」
「え、マジで?誰が守ってくれんの?」
「警察何やってんだよ!銃持っててゴブリンにやられんなよ!また食べるもん減るじゃねぇか!」

 コイツら……こんな時まで自分の事しか考えられないのか?
 もう、この状況で頼れる人なんて居ない。中には分かって危機感を持っている人だっていてもいい筈だ。
 ——なのに。

「……暁門君」

 話しかけてくる沙生さんに、俺は耳打ちする

「……沙生さん、大丈夫。今ならまだ間に合う筈だ。明日の朝にここを出よう」

 沙生さんは言葉に出さずに首を縦に振る。

 明日も俺の両腕が動かなければ、ゴブリンの相手は沙生さんに頼むことになるが……もうこれしか手がない。一刻も早くここから離れないと何が起こるかが分からない。

 警察署内は暗く、黒薙さんの表情は読めない。だが、その口元は笑っているように思えたのだった。
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