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第二章 本当の心

第二十一話 困惑

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 困ったことになった。

 そう気づいたのは、色々な勘違いに気付かされた翌日のことだった。


「ミオ姉! とても綺麗だよっ」

「ありがとう。ケインも、かっこいいよ」


 ケインと約束していたお出掛け。それそのものには問題などなかったはずなのだが、なぜか、ケインの匂いが気になった。
 とはいえ、片翼を持たない魔族は、片翼を見つけるためにも香水をつけることは滅多にない。
 片翼を見つけたくないという極少数の魔族が片翼避けに香水を付ける場合。もしくは、すでに片翼を見つけて結ばれていて、片翼が好きな香水を付けている場合。それ以外となると、香水の類を生業にしている者くらいしか、魔族は香水を付けることがない。
 そうなると、ケインも香水を付けるはずがないのだが……なぜか、とても良い香りがほんのりとしていて、心が安らぐ。


 まぁ、いっか。


 魔族特有の言い回しで、『香水を付けていませんかか?』という言葉は、『あなたはわた片翼かもしれません』という意味になったりする。
 さすがに、年の離れた弟に欲情しているなどという誤解は受けたくないので、そこに関しては貝になることにした。

 ケインとのお出掛けは、十中八九、落ち込んでいるだろう私のことを考えてのもの。可愛らしいブティックや、女性に人気のカフェなんて、そうでもない限りケインには用のない場所だろう。


「今日はありがとう。ケイン」

「どういたしまして。……少しは、楽しめた?」


 実際、ケインとのお出掛けは、良い気晴らしにはなった。ただ……どうしてもケインからと思われる匂いが気になって仕方がなく、度々集中力が途切れることだけは、少なからず問題があるような気もしたが……。


「うん、楽しかったよ。気遣ってくれてありがとう。もう大丈夫だから」


 そう、『もう大丈夫』。
 大切に思われているということは、まだまだこそばゆくて、ちゃんと受け入れられているかは分からないが、それでも、自分を大切にしないといけない、ということだけは理解できた。
 こうして、心配してくれる人が居る、というのは、とてもありがたくて、かけがえのないものなのだということも知った。


「本当に、ありがとう」


 もしかしたら、今の居場所が無くなるかもしれないと怯えるだけではいけない。
 具体的にどうすれば良いのかは分からなくとも、何か目標を見つけようというところまでは考えられた。だから……。


「今度、お礼に美味しい焼き肉店に連れて行ってあげるね」

「あ、ありがとう」


 まずは、将来の約束からしよう。

 たとえ、私の狂った感覚が、ケインを片翼だと認識していたとしても、私の想いがおかしなものなのだとしても、それをキッパリ無視して、仲の良い姉弟であり続けよう。
 きっと、片翼の感覚が分からなかったはずの私のこれは、誤作動を起こしているだけなのだから……。
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