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第一章 保護されました
第二十話 途方に暮れて
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私がこのロットール家に居る理由。それは政略結婚のためだと思って、ずっと、ずっと頑張ってきた。
恩を返すためだとか、そうすることが絶対に必要なのだとか、そう思ってきた。
しかし、今、それが私の独りよがりな考えだったということに気付かされて、途方に暮れた。
私の根底だったものが覆されてしまったのだから仕方がない、とも思うが、きっと、ここまで思い込んでいたのは、そうしなければ私はこの場所から離れたくなくなるからだったのではないか、とも思う。
「ミオ姉、今、良い?」
あの話の後、私は自分がどうやって自室に戻ったのかの記憶がない。ただ、ぼんやりと椅子に座っていると、ケインの声が扉の外から聞こえて、反射的に『大丈夫』と告げていた。
「ミオ姉……その、明日、一緒に出掛けない……?」
あまりたくさん喋る方ではないケインが、どうにか言葉を探して、そんな誘いをしてきた。その事実に、きっと私は、ケインからも気遣われるほどに酷い顔をしているのだろうと思えてしまって、咄嗟にうつむく。
「っ、そ、その……用事があるとか、なら、また今度にする、から……」
ただし、その反応はケインの不安を煽るだけだったらしく、私は顔を上げようとして思い留まり、そのまま首を横に振る。
「大丈夫。明日は特に、予定もないから」
「そっか……良かった。じゃあ、明日、朝食を終えた後、一緒に行こう」
「分かった」
もしかしたら、ケインは私を元気付けようとしてくれているのかもしれない。
お忍びでのお出掛けというのは、今までも何度か行っているし、そう大変なことでもない。護衛はさすがに付くものの、それも大所帯になるわけではないので安心だ。
「それと……ミオ姉。僕は、ミオ姉の味方だから。たとえ、どんなことがあっても」
私に遠慮してか、扉の近くから離れないままにそう告げたケインは、『それじゃあ、また後で!』と明るい声で言うと、そのまま部屋を出ていく。
ケインが居なくなってしばらくした頃、私はゆっくりと顔を上げて立ち上がり、鏡の前まで移動する。
「これは……心配されるわけだよ、ね」
別に、泣き腫らしたとか、眠れなくて隈がくっきりとかいうわけではない。それでも、そこには疲れ切った表情の自分が写っていて、思わず苦笑してしまう。
「私は……本当にここに居て良いのかな……?」
何の役割も与えられず、ただただここに居て良いと言ってくれるライト様とオリアナ様。
本当の子供でもないのに、優しく育ててくださった二人に、何も返せないのかと思えば、やはり、迷子になったような気分になってしまう。
「……今は、考えるのはやめておこうか」
きっと、今はどんなに考えても答えは出ない。そう感じて、私は思考を放棄する。
それよりは、ケインとのお出掛けに備えて、服でも選ぶべきだろう。そう、思った直後だった。
「あれ……? 何か、良い匂い……?」
微かな、しかし本能的な何かを掻き立てるような匂いが、少しだけした気がした……。
恩を返すためだとか、そうすることが絶対に必要なのだとか、そう思ってきた。
しかし、今、それが私の独りよがりな考えだったということに気付かされて、途方に暮れた。
私の根底だったものが覆されてしまったのだから仕方がない、とも思うが、きっと、ここまで思い込んでいたのは、そうしなければ私はこの場所から離れたくなくなるからだったのではないか、とも思う。
「ミオ姉、今、良い?」
あの話の後、私は自分がどうやって自室に戻ったのかの記憶がない。ただ、ぼんやりと椅子に座っていると、ケインの声が扉の外から聞こえて、反射的に『大丈夫』と告げていた。
「ミオ姉……その、明日、一緒に出掛けない……?」
あまりたくさん喋る方ではないケインが、どうにか言葉を探して、そんな誘いをしてきた。その事実に、きっと私は、ケインからも気遣われるほどに酷い顔をしているのだろうと思えてしまって、咄嗟にうつむく。
「っ、そ、その……用事があるとか、なら、また今度にする、から……」
ただし、その反応はケインの不安を煽るだけだったらしく、私は顔を上げようとして思い留まり、そのまま首を横に振る。
「大丈夫。明日は特に、予定もないから」
「そっか……良かった。じゃあ、明日、朝食を終えた後、一緒に行こう」
「分かった」
もしかしたら、ケインは私を元気付けようとしてくれているのかもしれない。
お忍びでのお出掛けというのは、今までも何度か行っているし、そう大変なことでもない。護衛はさすがに付くものの、それも大所帯になるわけではないので安心だ。
「それと……ミオ姉。僕は、ミオ姉の味方だから。たとえ、どんなことがあっても」
私に遠慮してか、扉の近くから離れないままにそう告げたケインは、『それじゃあ、また後で!』と明るい声で言うと、そのまま部屋を出ていく。
ケインが居なくなってしばらくした頃、私はゆっくりと顔を上げて立ち上がり、鏡の前まで移動する。
「これは……心配されるわけだよ、ね」
別に、泣き腫らしたとか、眠れなくて隈がくっきりとかいうわけではない。それでも、そこには疲れ切った表情の自分が写っていて、思わず苦笑してしまう。
「私は……本当にここに居て良いのかな……?」
何の役割も与えられず、ただただここに居て良いと言ってくれるライト様とオリアナ様。
本当の子供でもないのに、優しく育ててくださった二人に、何も返せないのかと思えば、やはり、迷子になったような気分になってしまう。
「……今は、考えるのはやめておこうか」
きっと、今はどんなに考えても答えは出ない。そう感じて、私は思考を放棄する。
それよりは、ケインとのお出掛けに備えて、服でも選ぶべきだろう。そう、思った直後だった。
「あれ……? 何か、良い匂い……?」
微かな、しかし本能的な何かを掻き立てるような匂いが、少しだけした気がした……。
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