黒板の怪談

星宮歌

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第二章 答えを求めて

第三十五話 取り憑く者

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「僕に取り憑いてた人は多分ー、ここで死んだ人でー、優愛ちゃんの仮定を採用するなら、昔、いじめを見過ごしたことで呪われて死んだ人だろうねー」


 さらっと重要なことを暴露する鹿野田。しかも、あの資料の中で鹿野田に見せるべきかどうか悩んだ箇所をいつの間にか知っているという衝撃に、望月は開いた口が塞がらない。
 鹿野田に誰かが取り憑いたらしいという話を知らない中田と杉下には、芦田が軽く説明して、納得してもらっていた。


「子孫にも呪いが引き継がれたならー、僕も無関係じゃないねー」

「……それ、大丈夫なの?」

「うーん、分かんないけど、優愛ちゃんと一緒なら何とかなりそうー?」


 そっと問いかける望月にヘラヘラと応える鹿野田。
 しかし、実際のところ、大丈夫かどうかなど今の段階では分からない。そのため、望月もそれ以上を追求することなく、『そう』とだけ返した。


「望月さん、さっき見つけた資料、鹿野田君にも見てもらおう。何か分かるかもしれないし」


 もはや、今頼れるのはそれしかない。
 さらっと自分達と合流する前に望月が資料を見つけていたことを隠した杉下は、望月へそう提案する。


「あっ、そっか。鹿野田君、これ読んでみてほしいんだけど。あ、中田君も見てないよねっ。二人で読んでみて」


 そう言って、ずっと握り締めていたその資料を鹿野田と中田へと渡す。
 二人はしばらくそれを読んで、中田は真剣な表情になるのに対し、鹿野田はどんどんと青ざめ……。


『思い出した。あれは、黒板の怪談は、昔、この学校がまだ、願希小学校という名前ですらなかった頃に起こった殺人事件が発端だ』

「「「「えっ?」」」」


 鹿野田の姿で、女性の声が発せられる。それは恐らく、鹿野田恭子なのだろうと思われた。


「えっと、恭子、さん?」

『うん、そうだよ。ごめんね。大切な友達に取り憑いちゃって』


 オズオズと問いかける望月に鹿野田の姿で鹿野田恭子は微笑む。


『でも、時間がない。ひとまず、私が知ってることは全て話そう』


 そうして語られたのは、大昔の凄惨な事件。いじめられて、親にも虐待されて育った子供が、大人になったタイミングで、同級生達を皆殺しにして、建て替え中だった学校の壁の中に死体を隠した、という事件。


『黒板がある面の壁の中から死体が発見されたのは、七月七日だった。そしてここから十年単位で、この小学校では不思議な事件が度々起こることとなる』


 それは、川で溺れて亡くなったはずの生徒の遺体が学校で発見されるというものだったり、集団でいじめをしていた子供達が、これまた学校で自殺をしていたり。


『何かが起こるのは、決まって一つの教室だった。死体が見つかった、あの教室だ。黒板の怪談は、多分、この辺りから出てきた話だ』


 そして、この黒板の怪談は、恐らくは新たなる犠牲者を呼び寄せるための呼び水のような役割をしていると、恭子は話す。


『いじめの加害者と被害者。そのどちらもを引き寄せるために、まずは被害者に怨霊が取り憑く。そして、黒板の怪談を聞かせることで自分のテリトリーに引き込んで殺す、という流れだと思う』


 ただし、恐らくは今回は違うと、恭子は言った。


『大きくなりすぎた怨念は、もう、いじめそのものを生み出して、勝手に被害者を作っている可能性が高い。つまり、清美ちゃんという子は、怨霊に目をつけられて、取り憑かれて、いじめを受けていると勘違いさせられたんだろう』


 そんな説明を受け、あまりの理不尽さに芦田が声を荒げる。


「そんなっ、くだらないことのために、清美が犠牲になったのか!?」

『恐らく。でも、そもそものいじめの加害者と被害者が招かれるというルールが破綻している以上、つけ込む隙はある。きっと、それが私であり、君だ。芦田君』

「俺?」


 真剣な表情で告げる恭子に、芦田は怪訝な表情になる。


『私なら、君達を逃がすことができる。そして、芦田君、君なら、清美さんを助けることができる。道は示そう。だから、どうか、全員無事に帰還してほしい』


 そう、恭子が告げた直後、グラリと世界が揺れるような感覚を全員が味わう。そして……。


「これって……」

「開かずの、教室……」


 彼らの目の前には、開かずの教室が現れていた。
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