俺の番 番外編

星宮歌

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バレンタイン*

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 様々な神々が暮らす神界。その一角で、小さな木造の家が一つある。そこに暮らすのは、シグルド・スナー・コルロ。銀髪に銀の犬耳と青い瞳を持つ獣の神。それと、その番である黒髪に藍色の瞳を持つ淫の神、ルカだ。
 色々あって、仲良く一緒に暮らし始めた二人だったが、この日、いや、この前日から、ルカはシグルドの様子に不審感を抱いていた。


(シグルドが僕を見て尻尾を振るのはいつものことだけど……昨日から、随分上機嫌だね?)


 外に行けば、何やら甘ったるい香りが満ちていたため、家の中でのんびりしていたルカだが、なぜか、その甘ったるい匂いの元らしきものをシグルドが外で入手してきたらしい。せっかく避難してきたのにこれでは意味がないと思いながらも、ルカは何が原因か分からずに、キッチンでエプロンをいそいそとつけているシグルドを見て首をかしげる。


「シグルド、何してるの?」


 分からないならば聞けば良いと、ルカはテクテクとシグルドの側に寄って尋ねる。


「ん? チョコを作ろうと思ってな」

「チョコ?」


 満面の笑みで応えるシグルドに、ルカはさらに怪訝な表情を浮かべる。


「チョコが好きなの?」

「ん? いや、これはルカにと思って、だな……」


 そんなシグルドの返答にさらに疑問符を浮かべたルカだったが、ふと、思い至るものがあったらしく、小さく声をあげる。


「……もしかして、バレンタイン?」

「おっ、ルカは知ってるんだなっ! そうなんだ。今日は、バレンタインだから、ルカにチョコを贈ろうと思ってるんだ!」


 ブンブンブンブンと高速で尻尾を振るシグルドに、ルカは心なしか頬を引つらせる。実をいうと、ルカは、果物くらいならば問題なく食べられるものの、あまりにも甘ったるい食べ物……特に、あんこやらチョコレートやらといったものはあまり好きではなかったりする。ただ、そんなこととは知らないシグルドは、愛するルカに贈り物をと鼻息荒く意気込んでいる。


「……そう」

「あぁ、楽しみにしていてくれっ!」


 そんなわけで始まったシグルドのクッキングタイム。出来上がるまでは別の部屋で待っていてほしいという言葉に従って、二階に上がってみたルカだったが、階下では、なぜかガチャンっだとか、パリーンだとかの音が響く。


「…………大丈夫、かな?」


 さすがに心配そうにするルカではあったが、できあがったらできあがったで、ルカは頑張って食べなければならない。
 二時間、三時間と時間が過ぎていく中で、徐々に騒がしさも落ち着いてくる。そして……。


「できたっ!!」


 二階にまで聞こえてきた歓声に、ルカは、ビクビクしながらそっと、下りていく。


「……シグルド?」

「っ、ルカ! できたぞっ!」


 そうしてシグルドが差し出して来たのは、狼を模したホワイトチョコ。これは、きっと、湯煎で溶かしたものを固めただけ、くらいのものなのだろうが、それでも、不器用ながらもチョコペンで目や鼻やらも書かれており、何とも愛嬌のある狼型のチョコが並ぶ。


「ルカ、あーん」

「っ……あ、あーん」


 とても嬉しそうに、ルカが拒否することなど欠片も考えていない様子のシグルドが差し出すチョコ。甘い香りを前に腰が引けていたルカは、多少躊躇いながらも、シグルドの要望通り、口を開ける。


(……あ、甘い……)


 眉間にシワが寄りそうになるのをどうにか抑えながら咀嚼するルカ。その姿を、期待で目をキラキラさせたシグルドが、感想を求めるかのように見つめてくる。


「ど、どうだ?」


 正直に言えば、好みではない。しかし、それを今、直球に告げるのはさすがに躊躇ったらしいルカは、シグルドが持つ皿から、もう一枚を手に取って、シグルドの口へと突っ込む。


「むぐっ」

「甘いよ。だから、さ」


 目を白黒させるシグルドが、その味を認識するであろう瞬間に、ルカはグッとシグルドの前に顔を寄せる。


「もっと甘くしてあげる」

「んんっ」


 強く口づけをするルカは、シグルドが持つ皿をサッと奪い取ると、シグルドの背後にある机へそっと置く。


「はっ、ルカ……」

「ふふっ、甘いね。ねぇ、もっと……ほしい?」


 皿から一つだけ、またチョコレートを取り出して見せると、シグルドはゴクリと喉を鳴らす。
 そんなシグルドに、蕩けるような笑みを見せたルカは、チョコを口先で咥えて、シグルドへ食べさせる。

 一時間後、そこには、空っぽの皿と、顔を真っ赤にして、完全に蕩けた状態のシグルドが存在しており……ルカが、そのままシグルドをペロリと食べたのは、言うまでもない。
 ただ、ルカの誤算は、これに味をしめたシグルドが、バレンタインの度に狼のチョコを大量に用意することになったことだが……その度に、シグルドはチョコレートよりも甘く甘く、溶かされるのだった。
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