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元Sランクの俺、危険人物と対面する

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 昼前、レンはティエリナと共にケルアの街内を肩を並べて散策するように歩き回っていた。

 最初に露店から始まり、アクセサリーが売られている店の中での談笑。途中、ティエリナに似合うアクセサリーがあったのでレンが気を利かせて買おうとしたところ、思いのほか値段が高くて断念した。

 パーティから追放されるときに全財産を叩きつけた自分の行為に悔やみつつも、レンはティエリナに連れられて人通りの多い道で出る。

 そしてその道中、レンはあることに気付く。
 それは歩いてる途中で冒険者らしき人物と何度かすれ違ったことだ。

 冒険者というのは、武器や防具が商売道具である。なのでいくら遊びに行くといっても、レンは聖剣を肌身離さず腰にぶら下げていた。

 それは他の冒険者も同じで、すれ違う者達は皆武器をぶら下げていたり背負ったりしており、重厚な鎧を身にまとっていたりしており、この辺りが冒険者に人気のあるスポットだとすぐに理解出来た。

「なぁ、ちょっと気になるんだが……」

「はい、どうしましたか?」

「今って、どこに向かってるんだ?」

「うふふ、それは…………秘密ですっ」

 最初にアクセサリーなどを見たので、てっきりオシャレなカフェでお茶を飲んだり、豪華なレストランで食事を済ませるのだと思っていた。

 だがそんな予想とは裏腹に、どんどんケルアの北部に向かっている。周りにはオシャレなカフェや豪華なレストランの姿形はなく、レンガやコンクリートの壁や道しか目に入らなかった。

 そうしてレンが周りを見ていると、大剣を背負った大男が正面からやってくる。

 その大男が背負っている大剣の先は横に飛び出ており、あともう少しでティエリナにぶつかりそうな距離であった。

「ちょっと失礼」

「あっ」

 後ろからティエリナの肩を掴み、大剣の先にぶつからないようにそっと自分の元に引き寄せてから横に一歩ズレて歩く。

 そんな行為のおかげか、大男は『おぉ、すまねぇ』と一言だっけ謝ってそのまま真っ直ぐギルドのある方角へと歩いていってしまった。

「怪我はないか? 一応あんな風に歩く奴もいるから、気を付けろよ?」

「は、はい……ありがとうございます」

 一度レンは辺りを見渡し、危ない人物がいないことを確認してからティエリナの肩を離す。

 過去に何度か冒険者とぶつかってしまったことのあるレンだからこそ、このように気を遣うことができるのだ。

 その理由は『めんどくさい』からである。
 冒険者というのは無駄なプライドを持ってる者が多いので、要らぬイチャモンをつけてくる者が大半なのだ。

 ただの偏見に過ぎないが、先ほど謝ってくれた大男もぶつかってしまったらイチャモンをつけてきた可能性もなくはない。

 なのでレンは余計なお世話かと思いつつも、ティエリナの肩を掴んでぶつからないように移動させたのだ。

「レンさんって、結構肝が据わってますよね」

「まぁ、ずっと冒険者稼業を続けてきてるからな」

「…………ずっと?」

「いや、あー……誤解だ誤解。冒険者稼業を続けてたのは父親で、よく一緒にこういう道を歩いてたから慣れてるだけだ」

「なるほど、納得しました。レンさんのお父さんも冒険者なんですね」

「まぁ……そうだな」

 咄嗟に嘘をついたが、どうやら疑われていないようでレンはホッと一息つく。

 少し気を抜いただけで自分が新人冒険者ということを忘れて昔の自分と照らし合わせてしまう。それは悪いことではないが、あまり都合の良くないことであった。

「レンさんのお父さんってすごい人なんですか?」

「んー…………まぁ、すごいんじゃないか?」

 今はなにしてるか分からないが、一応レンの父親である《レオーダ》は小さな村で冒険者稼業を続けていた。

 レンがその村を飛び出したとき、レオーダはBランク冒険者として活動してたが、今現在は何ランクなのか分からない。

 もしかしたら冒険者稼業を辞めてるかもしれないし、Sランク冒険者になってるかもしれない。それは不明だが、この先再び会話を交わす可能性は低い存在である。

 それはレンとレオーダが喧嘩したからだ。
 レンは冒険者になりたいと主張し、レオーダは危険だからやめろと主張する。そんないざこざがあり、レンは村に一日一回だけ来る商人の馬車に乗り込んで村の外に行ったのである。

 最初は未知の世界に混乱したものだが、実際今はこうして生きることができている。世の中、本当になにがあるか分からないものであると実感したものだ。

「レンさんが冒険者になったのは、そのお父さんが冒険者だからですか? 憧れだとか、目標だとかで」

「どうなんだろうな。そんなこと思ったことないと言ったら嘘になるし、父親が憧れなのかと聞かれても……あんまり納得がいかないな」

「それって、お父さんを尊敬してる証拠じゃないですか」

「……そうなのか?」

「はい。憧れてるけど、納得いかない。心の中ではお父さんを尊敬しているのに、なにかが引っかかって認めたくない。ほら、口ではそうは言っても、実際は尊敬し、憧れているんですよ」

 そう言われてみると、賛成はできないが否定もできない。

 実際子供の頃、魔物から守ってくれた父親をカッコイイとは思ったことはあったのは事実だし、毎日夜遅くに帰ってきたのも知っている。

 だがある日からそんな気持ちが薄れていった。それはなぜかは不明だが、きっとそう思ってしまうが芽生えてしまったのだろう。

「あ、レンさん。もうすぐで到着しますよ」

「到着って……ここら辺になんか店でもあるのか?」

「んー……店というより、工房でしょうか」

「なるほど、工房ね…………は? 工房?」

 ティエリナとは全く無縁な《工房》という単語を聞き、レンは素っ頓狂な声を上げてオウム返しする。

 だがティエリナは笑顔のまま頷くだけで、なにも言わず先へ進んでしまう。そんな後ろ姿を早歩きで追うと、ティエリナは薄暗い路地裏へ入っていく。

 そして昼なのに夕方のように暗い路地裏を歩いていくと、その先に明るい場所を見つける。そこは確かに工房と呼ぶには相応しい場所で、鉄床やら槌やらが無造作に置かれていた。

「おやおや、これはこれは珍しい。こんな場所にお客さんが来るなんて物好きがいるもんだねぇ」

 突如頭上から声が聞こえたので、レンが上を見上げるとそこには鉄骨に腰を下ろす一人の少女の姿があった。

 その少女、なんと不思議なことに両目の色が同じではなかった。

 右は赤色なのに左は青色と、どこか幻想的な、そしてどこか神秘的なそんな雰囲気が醸し出されていた。

「まさか、こんな早く来るとは思ってなくてね。昨日いきなりティエリナがここに来て『明日用事あるから』って言うから気合い入れたのにさ。彼氏を連れてくるなんてボクへの当てつけかい?」

「はぁ、レンさんは彼氏じゃないわよ。私がギルドで受付嬢をやってたのは知ってるでしょ? レンさんはそのギルドの冒険者で、私はレンさんの専属受付嬢になったってわけ」

「へぇ、専属ねぇ。それって、夜のお世話とかもするのかい?」

「よ、夜のお世話……? ~~~ッ! もう! そんなんじゃないから!」

「ははは、知ってるよ。ごめんごめん、ちょっとからかいたくなっちゃって」

 そんな二人のやり取りを見て、レンは目の前の少女がティエリナの知り合い、もしくは友人であることを察する。

 いつも業務的な喋り方のティエリナは消え、今のティエリナは完全にフランクな口調で目の前の少女とコミュニケーションをとっていた。

 きっと、古くから関わりがある人物なのだろう。

「よっと、名前は聞いてるよ。キミはレンサンって言うんだよね?」

「いや、レンサンじゃなくてレンなんだが……」

「ははは、知ってるよ。ジョークだよジョーク。ボクはカラリア、よろしくねレンさん」

「あ、あぁ。よろしく、カラリアさん」

 カラリアが手を差し伸べてきたので、レンが手を差し伸べると意外にもカラリアがレンの手を先に掴んでなにやら力を強めたり弱めたりしながら握ってくる。

 そして目を閉じて小さく頷き、カラリアはニカッと笑ってみせた。

「ティエリナ、いつの間にこんな人を見つけてきたんだい?」

「え、どういうこと……?」

「とぼけないでくれ。こんな寸胴体系なボクでも一人前の工房を持ってるんだよ? 人の手を握っただけでその人の力は分かる。レンさん、キミは冒険者をやってるんだよね?」

「ま、まぁ……その通りだが」

「うん。じゃあ……ギルドランクはどれくらいかな? この感じだと、BとかAはくだらないと思うけど」

「っ!」

 そう言われ、レンは目を見開いて手を振り払おうとする。

 だがそれをしてしまった場合、カラリアを肯定してしまうのと同じなため、振り払う寸前で奥歯を噛み締めてなんとか持ちこたえる。

「ん~? 筋肉が硬化、脈が早くなったね。図星だったかい?」

「いや、まさかEランクの俺をそこまで過大評価してくれるなんてと感激しただけだ」

「そうかそうか。あはは、キミは面白い人だねぇ……ボクはキミみたいな人、嫌いじゃないよ」

 カラリアが気さくに笑うが、レンは警戒心をむき出しにしていた。

 過去の経験から、このように一瞬で相手の力を予想できる者、そして一瞬で脈拍を測る者は危険だと知っているからだ。

 そのとき、レンはあることを思い出す。
 それはカラリアの目の色が左右違うことだ。左右の目の色が違う、それはとある《スキル》に関係することであった。

「その目……魔眼系のスキルか」

「ご明察。ボクは《鑑識眼》を持っている。勝手に覗いて悪いけど、キミの力が筒抜けというわけさ」

 それを知り、レンは誰にも聞こえないくらい小さな舌打ちをする。

 魔眼系のスキル、それはとても優秀で、取得者が滅多に現れないくらい希少なスキルだ。

 しかし、そのスキルを持つ者に見られてしまったら終わり。もう自分の情報はダダ漏れになってしまう。ということである。

「あはは、ボクにかかればレンさんの力なんてお見通──」

「こら、カラリア。それ昔からの悪い癖だって言ったでしょ!?」

「イテッ! は、叩かないでほしいな。ボクは別に疚しいことは──イタタッ!」

 カラリアにマウントを取られそうになる刹那、ティエリナがレンとカラリアの間に入ってカラリアの頭を少し強めに叩く。

 それに対し、カラリアは冗談交じりな口調のまま反論し、ティエリナが口答えするなと追撃する。

 そんな中、レンはカラリアを強く睨んでいた。

 こいつに関わったら危ない──と。
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