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GWお遊び企画 ユーチアがグレまちた

ちょの4・レオンハルト vs. 保護者会

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「――で?」

 旅装を解いたレオンハルトは、椅子の背もたれに寄りかかって長い脚を組み、執務室に呼び出した『ユーチア保護者会』幹部メンバーたちを見回した。

 執務机越しに並ばされた、ゲルダ、イグナーツ、フィリベルト、バルナバス、フランツは、飢えたヒグマのごとき眼光に晒されうな垂れている。
 ベティーナが「あたしはまだ順番来てなかったのに!」と小声でフランツに抗議したが、「順番を待ってた時点で連帯責任でしょ」と返されて、グッと言葉に詰まった。
 ――そんな様子をじっくり眺めてから、レオンハルトはもう一度尋ねた。

「どういうことだ? これは」

 これは、と言いながら、レオンハルトの視線が下がる。
 つられて全員の視線もそこに――レモンタルト号ならぬレオンハルトの太腿に跨り、分厚い胸に顔をうずめてグズっているユーチアに、集中した。
 レオンハルトがその小さな背中をあやすようにポンポン叩いて、「ユーチア」と話しかけても、イヤイヤと首を横に振るばかりだし……

「どうして拗ねてるんだ? ん?」

 と尋ねても、顔を上げずに「ちらない」とくぐもった声で返すだけ。
 ユーチアに顔を押しつけられているレオンハルトの服の胸元は、すでに涙と鼻水でぐっしょり濡れている。
 レオンハルトはゲルダからタオルを受け取り、優しくユーチアの顔を引き剝がすと、「うー」と不満を訴える顔を丁寧に拭ってやった。
 そうして両手で小さな顔を上向かせ、潤む瞳で見上げてくる愛らしさに、ふっと笑みをこぼす。

「よし、綺麗なユーチアに戻った」

 しかし、その言葉を聞いたユーチアの瞳から、またもポロポロ涙があふれた。

「き、きれーに、ちて、まちた」
「ん?」
「垢、ためてまちぇん……」
「垢? うん、垢を溜め込んでたなんて思ってないぞ?」

 首をかしげたレオンハルトに、ゲルダが「あの」と申しわけなさそうに声をかける。

「わたくしの言い方が悪かったのです、レオンハルト様。ユーチア様に、『お顔を洗わないと、垢だらけのお顔でレオンハルト様をお出迎えすることになる』なんて、言ってしまったものですから……」
「ああ、なるほど」

 レオンハルトはクスッと笑った。
 桃色のほっぺを転がり落ちる涙を拭いてやりながら、「ユーチア」と頭を撫でる。

「いつもみたいに、元気に笑ってくれないのか? 久しぶりに帰ってきたのに、泣かれてばかりじゃ寂しいぞ?」
「う……ひっく」

 しゃくり上げた拍子に、またしても、琥珀色の瞳から大粒の涙がこぼれた。

「元気に、ちて、まちた。……名乗りも、ちまちた」
「名乗り?」
「あの、レオンハルト様」

 今度はイグナーツが、涙目で申し出た。

「わたくしが、その、正式なグレ方には『名乗り』が必要だという間違った知識を、ユーチア様にお教えしまして……ううっ。ユーチア様は……ユーチア様は! 頑張って、名乗られたのです……! それはそれは、お元気に!」
「私も、紙吹雪を撒いてお供してしまいました……」

 目頭を押さえるイグナーツとフィリベルトを見て、レオンハルトは「なぜお前たちまで泣く」と呟き、今度は話の内容も理解できずに、「名乗り……? 紙吹雪……?」と眉根を寄せて斜め上を見上げた。
 結局、考えてもわからず、ユーチアに「なんのことだ?」と尋ねた。が、ユーチアは「ちりまちぇんっ」と赤くなっている。
 レオンハルトはまた微笑んで、そんなユーチアの顔を覗き込んだ。

「そろそろ機嫌を直してくれないか? 帰ったら、ユーチアは喜んで出迎えてくれると期待していたのだぞ」
「……僕も、レオちゃまに、よ、喜んで、もらい、たか……っ、うっく」

 喋ろうとするたび、しゃくり上げて、上手く言葉にならないユーチアに代わって、バルナバスとフランツが「「申しわけありません!」」と頭を下げた。

「ユーチア様は真面目に剣技を習おうとされていたのです。レオンハルト様を驚かせようと」
「真剣に取り組んでいたのに相手がふざけているのでは、激怒して当然です。ユーチア様を傷つけた我々に、どうか処罰を」

 フランツの申し出に、ユーチアがギョッとして、レオンハルトとフランツたちを交互に見た。

「ちょ、ちょばちゅダメ! ちょばちゅいりまちぇん!」
「処罰はいらないのか? 話を聞く限りでは、全面的にこの二人がダメな大人の典型に思えるが」
「「返す言葉もございません」」
「ダメ人間でも、二人はいい人!」
「「ダメ人間は否定しないのね」」
「あちょんでくれたのでちゅ。だから、だから、ちょばちゅちないで……」
「「ユーチア様……」」

 ダメな大人二人がじーんと胸を熱くしているのを見ながら、レオンハルトは「ふむ」とうなずいた。

「じゃあ、今から明日の朝まで飯抜きで」

 騎士二人が、「先に昼飯食っとけばよかった……!」とよろめているのを無視して、レオンハルトは「――で」と再度、皆を見回した。

「そもそも何故ユーチアは、洗顔を拒否したり、名乗り? をしたり、ダメな大人に激怒したりしたんだ?」
「それは……」

 保護者会の面々が言いにくそうに視線を交わしていると、高速で扉がノックされた。レオンハルトが「入れ」と答えたとほぼ同時に扉がひらき、息を切らせて入ってきたのは、魔素研究所のクレールである。

「失礼いたします! ようやく記録を見つけました!」
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