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1.リーリウス王子、恋に落ちる
王子、求婚する
生まれて初めて自分の心をガッチリ掴んでくれた人と、このまま別れてなるものかと、リーリウスの脳内は凄い勢いで策を練っていた。
だが皆の注視の中では、円舞の慣習をほっぽり出して追いかけることもできない。それを実行して自分があとから小言責めになるのはかまわないが、相手に迷惑がかかることは必定。
(どうすればこのまま、この人を連れ出せる?)
笑顔の下で焦燥を募らせていると、いきなり、窓の外がぱっと明るくなった。
皆が驚き、そちらを見る。
と同時に、ドン、ドン、と轟音が響いた。
「花火だ!」
「早すぎないか? ダンスのあとのはずだろう」
そう。夜空にまばゆい光の花を咲かせたのは、舞踏会の最後を飾るはずの花火だ。
「おい、まだ花火はあげるな!」
怒鳴ったその声は、外を見回ってくると言っていたシュナイゼの声のようだった。
その間も、大輪の花は次々夜空で咲き誇り、そうなれば誰もが歓声を上げて、もっとよく見ようと動き始める。
「愛の精霊の導きだ」
思わず呟くと、腕の中の人が怪訝そうに見上げてきた。
リーリウスはにっこり笑って、つないだ手はそのままに、扉に向かって走り出した。
あとからお叱りを受けようと、皆の興味が逸れたこの千載一遇の好機を、逃す手はない。
黒衣の麗人があわてた声を上げた。
「お待ちを、どこへ行くのですか殿下……!」
「お話はのちほど」
大広間を飛び出したリーリウスは、相手を気遣いつつ、勝手知ったる王城内を走り抜ける。
なるべく人目につきづらい回廊を選び、階段をのぼって三階へ。
目的地はリーリウスが占有している、王族の居住棟の中で最も奥まった一角。
正直そこはこれまでも、ひとときの情人たちとの戯れに使われてきた部屋だ。
しかし今は、これまでとまったく違う心境だった。
……下半身的には同じだが。
精神的にまったく違う。
目の前で息を整える愛しい人に、一夜限りの遊びだなどとは、断じて思ってほしくない。
最奥の部屋の扉をあけると、黒衣の肩がびくっと揺れた。
リーリウスは先に暗い室内に踏み込み、くるりと向き直って仮面をはずし、再び跪く。
「私はあなたが欲しい。この夜だけでなく、すべての昼と夜とのあなたが」
「殿下……お、お戯れはそのくらいに……」
「私の浮名を思えば、信じていただけないのも無理はありません。けれど王族の血に誓って、こんなことを言うのはこれが初めてなのです。どうか」
廊下に立ちつくす相手に向かって、手を伸ばす。
「私の妻になってください。私のただひとりの伴侶に、なってください」
異形の仮面の下で、息を呑むのがわかった。
「な、何を仰るのです! こ、今夜お会いしたばかりで素性の知れぬ相手に。こちらは顔すら晒していないのですよ!」
「私は自分の直感を盲信していますから。はずれた例しが無いのでね」
微笑むと、相手は小さく首を振った。
「で、でもいけません。わたくしは……」
「男だということなら、とうに気づいていましたよ」
「!」
驚愕している様子が、またいじらしい。
第一印象はまさに「貴婦人」で、みごとに装っているけれど、近づいて見ればすぐわかる。
女性に劣らぬ美しさとはいえ、骨格が違う。
仕草も優雅だが、女性のそれとは違う。
男も女も知り尽くしたリーリウスの目には一目瞭然だったが、そんなことはどうでもいいのだ。イルギアスでは同性同士の結婚も法的に認められているのだから。
「私の気持ちが重荷であれば、無理強いはしたくありません。どうぞはっきりとお断りください。けれどもし、私の愛を受け入れてくださるのなら……」
赤い唇が震えるのを、リーリウスは見ていた。
そこから言葉がこぼれるまでの時を、永遠のように感じた。
こんなに緊張しながら、誰かの反応を窺うのも初めての経験だった。
やがて、差し出した手のひらに、黒レースの手袋につつまれた手が重ねられると。
リーリウスは安堵と歓喜のあまり、相手を引き寄せ、思いきり強く抱きしめた。
それでも、
(本当によいのだろうか。嫌なのに我慢しているのではなかろうか)
などと、どこかで怯える気持ちもあって。
自分にこんなにも気弱な側面があったのかとしみじみ思っていたら、黒衣の人がギュッと抱き返してくれた。それだけのことが、リーリウスを有頂天にさせる。
こうなったらもう、遠慮知らずに攻めるのみ。
抱きしめた躰を離さぬまま扉を閉めて、白い顎に指を添えた。
口づけたくて仮面に手をかけると、「あ」とあわてた声が上がる。
「どうか、はずさないで。見ないでください……このまま、仮面をつけたままで……!」
だが皆の注視の中では、円舞の慣習をほっぽり出して追いかけることもできない。それを実行して自分があとから小言責めになるのはかまわないが、相手に迷惑がかかることは必定。
(どうすればこのまま、この人を連れ出せる?)
笑顔の下で焦燥を募らせていると、いきなり、窓の外がぱっと明るくなった。
皆が驚き、そちらを見る。
と同時に、ドン、ドン、と轟音が響いた。
「花火だ!」
「早すぎないか? ダンスのあとのはずだろう」
そう。夜空にまばゆい光の花を咲かせたのは、舞踏会の最後を飾るはずの花火だ。
「おい、まだ花火はあげるな!」
怒鳴ったその声は、外を見回ってくると言っていたシュナイゼの声のようだった。
その間も、大輪の花は次々夜空で咲き誇り、そうなれば誰もが歓声を上げて、もっとよく見ようと動き始める。
「愛の精霊の導きだ」
思わず呟くと、腕の中の人が怪訝そうに見上げてきた。
リーリウスはにっこり笑って、つないだ手はそのままに、扉に向かって走り出した。
あとからお叱りを受けようと、皆の興味が逸れたこの千載一遇の好機を、逃す手はない。
黒衣の麗人があわてた声を上げた。
「お待ちを、どこへ行くのですか殿下……!」
「お話はのちほど」
大広間を飛び出したリーリウスは、相手を気遣いつつ、勝手知ったる王城内を走り抜ける。
なるべく人目につきづらい回廊を選び、階段をのぼって三階へ。
目的地はリーリウスが占有している、王族の居住棟の中で最も奥まった一角。
正直そこはこれまでも、ひとときの情人たちとの戯れに使われてきた部屋だ。
しかし今は、これまでとまったく違う心境だった。
……下半身的には同じだが。
精神的にまったく違う。
目の前で息を整える愛しい人に、一夜限りの遊びだなどとは、断じて思ってほしくない。
最奥の部屋の扉をあけると、黒衣の肩がびくっと揺れた。
リーリウスは先に暗い室内に踏み込み、くるりと向き直って仮面をはずし、再び跪く。
「私はあなたが欲しい。この夜だけでなく、すべての昼と夜とのあなたが」
「殿下……お、お戯れはそのくらいに……」
「私の浮名を思えば、信じていただけないのも無理はありません。けれど王族の血に誓って、こんなことを言うのはこれが初めてなのです。どうか」
廊下に立ちつくす相手に向かって、手を伸ばす。
「私の妻になってください。私のただひとりの伴侶に、なってください」
異形の仮面の下で、息を呑むのがわかった。
「な、何を仰るのです! こ、今夜お会いしたばかりで素性の知れぬ相手に。こちらは顔すら晒していないのですよ!」
「私は自分の直感を盲信していますから。はずれた例しが無いのでね」
微笑むと、相手は小さく首を振った。
「で、でもいけません。わたくしは……」
「男だということなら、とうに気づいていましたよ」
「!」
驚愕している様子が、またいじらしい。
第一印象はまさに「貴婦人」で、みごとに装っているけれど、近づいて見ればすぐわかる。
女性に劣らぬ美しさとはいえ、骨格が違う。
仕草も優雅だが、女性のそれとは違う。
男も女も知り尽くしたリーリウスの目には一目瞭然だったが、そんなことはどうでもいいのだ。イルギアスでは同性同士の結婚も法的に認められているのだから。
「私の気持ちが重荷であれば、無理強いはしたくありません。どうぞはっきりとお断りください。けれどもし、私の愛を受け入れてくださるのなら……」
赤い唇が震えるのを、リーリウスは見ていた。
そこから言葉がこぼれるまでの時を、永遠のように感じた。
こんなに緊張しながら、誰かの反応を窺うのも初めての経験だった。
やがて、差し出した手のひらに、黒レースの手袋につつまれた手が重ねられると。
リーリウスは安堵と歓喜のあまり、相手を引き寄せ、思いきり強く抱きしめた。
それでも、
(本当によいのだろうか。嫌なのに我慢しているのではなかろうか)
などと、どこかで怯える気持ちもあって。
自分にこんなにも気弱な側面があったのかとしみじみ思っていたら、黒衣の人がギュッと抱き返してくれた。それだけのことが、リーリウスを有頂天にさせる。
こうなったらもう、遠慮知らずに攻めるのみ。
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「どうか、はずさないで。見ないでください……このまま、仮面をつけたままで……!」
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