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第四章 魔動乱編

144話 激動の一日

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「あ、戻ってきた」

「ど、どうもー」

 リーサと別れた私は、みんなが待つ場所へと戻った。いや、待ってはいないだろうけど。
 戻ると、さっきまでと光景はあんまり変わってはいなかった。


『この空間だけ、外とは時間の流れが違う結界が張られていたんだよ』


 と、リーサは言っていたけど。本当に、外では時間があんまり経っていないんだ。
 戻ってきた私を見て、まず声をかけてきたのはタメリア先輩だ。

「エランちゃん、大丈夫なの?」

「へ?」

「いや、トイレだって言って、見当違いの方向に行っちゃうし」

 心配そうに、というか言いにくそうにしながらも、タメリア先輩は言う。
 あぁ、そっか……私、銀髪を追いかける言い訳として、トイレに行くって言いたんだっけ。

 あんな走っていったんだ、そりゃそんな顔にもなるよね。

「大丈夫です、もう引っ込んだので」

 そもそも嘘だし。

「ひっ……
 エランちゃんはもう少し、慎みというか、そういうのを覚えた方がいいと思う」

「?」

 なんだろう、なんで頭を抱えているんだ? 私、変なことを言ったかな?
 うーん……なんでか、ゴルさんやメメメリ先輩も苦々しい表情を浮かべている。

 あは、そんな顔初めて見たよ。

「お前は生徒会の一員として、節度ある行動、言動を学べ」

「はぁ」

 なんか、注意されてしまった。
 まあ、それは追々なんとかしていこう。

 ゴルさんからそれ以上の追及がないのは、今がまだ無駄話をしているような状況じゃないからだ。
 "魔死事件"の被害者、レオ・ブライデント。彼が学園内で殺されたことで、周囲はぴりついた空気だ。
 学園内での死傷者など、無視していい問題ではない。これが事件である以上、性急な判断が必要なのだろう。

 私は、この事件の犯人を知っている。それは、ダークエルフのルラン……ルリ―ちゃんのお兄さんだ。私は、この事実をどうしたらいいんだろう。誰かに話すべきなのか、それとも……
 ……そういえば、ルランはどうやって学園に侵入したんだろう。それにリーサも。

「これ以上は、新たな手掛かりは出そうにないぜ、ゴルっち」

「んん……」

 ここにいるみんながわかっていることと言えば、被害者は体内の魔力が暴走して死に至った……ということくらいだ。
 そしてこの事件は、国内でも多く起こっている。国を挙げて調査している。それでもなにもわかってないのだ、ここでみんなが頭を悩ませても、答えは出ないだろう。

 だからか、すでに先生たちは死体の処理にかかっている。まあ、魔法で体の腐敗を止めたり、ブルーシートを被せたりしているくらいだけど。
 勝手に死体を動かしたりはできない。あとは、憲兵に調査を続行してもらう。

 明日から、学園はどうなるのだろう。この一帯は立ち入り禁止になるだろうけど……もしかして、休校とかに、なったりするのだろうか。

「エラン、今回の件は他言無用だ」

 ゴルさんが、私に釘をさすように言ってくる。
 まあ、私としてもこんなこと、話せる内容じゃないよ。

「はい」

「っても、どうせ明日には先生たちから話があるだろうけどね」

「俺たちが騒ぎ立てる話ではない、ということだ」

 続けて、タメリア先輩とメメメリ先輩が言う。
 いくら生徒会でも、こんな事件を勝手に言いふらすことはできない。その判断からだ。

 被害者、レオ・ブライデントの恋人だという第一発見者の生徒には、同じく話さないようにと注意があるはずだ。
 私には恋人なんていないからわからないけど……友達とはまた違った、大切な相手。それが殺されたのだ。それも、こんな無惨な形で。
 その悲しみは、計り知れないだろう。

「じゃあ、今日は解散ってことですかね」

「だね。
 ……にしてもエランちゃん、災難だったね。今日二度も、あんなの見ちゃうなんて」

「あはは……」

 午前中、ダンジョンでも私は、"魔死者"を見た。人の死体なんて初めて見るのに、よりによって"魔死者"だもんな。
 正直、今日はもうお肉とか食べたくない。

 そういえば、"魔死事件"の犯人がルランだってことは、ダンジョン内の"魔死者"もルランの犯行によるもの、だよな。
 どうやって憲兵さんの目を掻い潜ったのか……それとも、ダークエルフなら誰かに気付かれずに移動する方法もあるのか?
 ダークエルフは、闇属性の魔術を使うみたいだし。


闇幕ダークネスカーテン……!』


『当時の闇の魔術士、ダークエルフの力は膨大で、その力はすべてを飲み込んでいった』


 ルリ―ちゃんが使っていた、闇の魔術。それに、以前読んだ本に書いてあった文。
 長く師匠に魔導について教えてもらってきたけど、闇属性の魔術なんて聞いたこともない。それに、ダークエルフは精霊ではなく、邪精霊に好かれるっていうのも。

 本当なら、自分の知らない、未知の魔導のことなんて胸躍るはずなのに……
 なんか、すごい……ざわざわする。

「じゃ、俺たちはもう少しだけここで作業があるが、エランは寮に戻るといい」

「え、でも……」

「いいのいいの。女の子にこれ以上無理なんてさせられないし」

「ほぉ? 私も女なのですが」

「うぉあ、リリアーナ!」

 いつの間にそこにいたのだろう、軽口を叩くタメリア先輩の背後から、リリアーナ先輩が姿を現す。
 まるでどこかから生えてきたみたいだ。

 驚くタメリア先輩と対称に、リリアーナ先輩は落ち着いた様子だ。

「リリアーナ、第一発見者の生徒は?」

「今は先生に預けています。話も聞き終えたので、付き添われて寮に戻っているはずです」

「そうか」

 さっきまで、第一発見者の生徒と話していたリリアーナ先輩。彼女の相手に神経を使っていたのだろう、少し疲れが見える。
 でも、普段と変わらない様子を見せようとしているのは、さすがだ。

「フィールドさん、癪ですがこのバカの言う通りです」

「バカ!?」

「フィールドさんはまだ一年生、むしろここまで付き合わせて申し訳なく思っています。
 それに、午前から動き詰めで疲れているでしょう」

「それは……」

 リリアーナ先輩の指摘に、私は苦笑いを浮かべた。
 確かに、ダンジョン探索から魔物討伐、"魔死者"発見にルランやリーサとの遭遇……うん、疲れている。

 ただまあ、ルランとリーサのことは話せないから、疲れているという言葉にうなずくのみにしておく。

「あぁ。今日はよくやってくれた。
 ゆっくりと、体を休めるといい」

「……はい」

 ゴルさんって、厳しそうに見えて実は優しいんだよね。
 みんなこう言ってくれているんだし、ここはお言葉に甘えるとしよう。

 最後に、先輩たちに頭を下げたから……私はこの場を、後にした。
 なんか、激動の一日だったな。
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