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第七章 大陸横断編

445話 夜は危険だから

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「北、かぁ」

 私たちが目指すべき場所、ベルザ王国。
 その場所があるのは、ここから遥かに北の方角にあるという。

 とりあえず、目的地の方角がわかっただけでも、上等だと言うべきだろう。

「おいおい本当かじじい。なんだって北だってわかんだよ、適当ぶっこいてんじゃ……むぐっ」

「はいはい、黙って」

 エレガが茶々を入れてしまいそうだったので、もう一度口を縛る。
 手と口を縛り、『絶対服従』の魔法をかけているので、これはもうほとんどなにもできないも同じだ。

「……あえて触れなかったが、なんなんじゃそいつらは」

「まあ、気にしないでよ」

 気にしないでって言うのも無理かもしれないけど、気にしてもしょうがないのは確かだ。
 あんまり深くは知らない方が、じいさんのためにもいいだろう。

 とにかく、方角はわかったんだ。あとはそっちに向かって、進むだけ。

「……その男の言うことを真に受けるわけではないが、わしが北と言ってその真偽はわからんだろう」

 ……真面目なじいさんだな。わざわざ、私たちに確認するように言ってくれるなんて。

「確かに、本当か嘘かは実際のところわからないけれど……
 嘘をつく理由は、ないでしょ?」

「……」

 私たちとこのじいさんは、初めて会った。
 いくら意地悪な人でも、初めて会った相手に嘘はつかないだろう。そのはずだ。

 それに……これは、私の勘だけど。

「あなたは、嘘をつく人には見えない」

「……そうか」

 これだけは、確かだと思えた。
 それから私は、ルリーちゃんたちに改めて、目的地を伝える。

「私たちの目指す場所は、北にあるみたい。だから、まずは北を目指そう」

「きた……きたって、どっち?」

「北はあっち」

 リーメイに説明するように、私は北を指差した。そしてその指先に、蝶が止まった。
 それを目にしたラッヘがはしゃいで、蝶を捕まえようとする。が、逃げられる。

 ラッヘは蝶を追いかけ、キャッキャと遊んでいる。

「……なんか、気が削がれる」

「あはは。まあ、いいじゃないですか」

 確かに、ルリーちゃんの言うように、気を張り詰めたままなのもそれはそれでいざという時に倒れてしまう、か。
 ここなら、魔大陸とは違って存分に魔法が使える。

 ただ、回復魔術で傷は治せても、疲労までは回復しない。精神には作用しないのだ。
 だから、充分な休息も必要になる。

「じゃあ、おじいさん。私たち行くね」

「あぁ。まあ、道中気をつけてな」

「うん。道教えてくれて、ありがとうね」

 最初は、敵意むき出しで対峙したけど。話してみると、結構いい人だった。
 魔柱まばしらが立っているだけのこの場所で、他には誰もおらず一人きり。そんな生活を、じいさんは送ってきたんだろうか。

 私には、関係ないことだけど……ちょっと、かわいそうだな。

「じゃーねー!」

 私たちはその場から、歩き出す。
 しばらく歩いても、ラッヘはじいさんが見えなくなるまで、手を振り続けていた。

 思えば、ラッヘのおかげでじいさんの敵意も解けたんだから、助けられたよな。

「ただ、北ってどれだけ歩けばいいのか……」

 それからもしばらく歩くけど、これといったものは見えてこない。
 さすがにベルザ王国にはすぐに着かないだろうけど、他に国や街みたいな場所もない。

 大陸の端って、意外となんにもないんだなぁ。
 それとも、魔柱があるからある程度の位置にはなにもないように、しているんだろうか。

「……これなら、クロガネさんに乗せてもらってもよかったかもしれませんね」

 ルリーちゃんが、ぼそっとつぶやく。
 クロガネに乗らない理由の一つが、飛んでいたら誰かに見つかるからかもしれないからだ。

 でも、そもそも人がいないんだから、飛んでもバレる以前の問題かもしれない。

「あ、ごめんなさい。クロガネさんには、休んでもらわないといけないのに」

「ううん、大丈夫。わかってるから」

 ルリーちゃんだって、わかっている。わかっていても、言っちゃうことはある。
 私だって、ちょっとは思ったし。

 どこまで歩けばいいかわからないっていうのは、不安になるものだ。
 それに、空も薄暗くなってきた。

「夜、か」

 魔大陸では、昼や夜の認識なんかなく、ずっと暗かったから、なんだか久しぶりな感じだ。
 うーむ、夜か。もっと暗くなって、移動するのは逆に危険かな。

 魔大陸ほどではないにしても、周辺に魔物がいないとも限らないし。
 モンスターはちょくちょく見かけるけど、おとなしいタイプなのか襲ってはこない。

「暗くなる前に、野宿の準備をしたほうがいいかもしれません」

 暗くなる前に……と考えていたところで、私よりも先にルリーちゃんが、手を上げる。
 それは、私の考えていたこととまったく同じだった。

「私もちょうど、そう言おうと思っていたんだ」

「さすがはエランさんです。暗くなってから移動するのは、視界に充分な情報が確保できないですし、なにより夜行性のモンスターや魔物は凶暴性が増しますから。
 まあ、エルフの私は夜目は効くんですけどね」

 それでも夜歩くのは体力が削られます……と言う、ルリーちゃん。
 それは多分、実体験から来るものだろう。

 ダークエルフであるルリーちゃんは、人目を避けて生活していたという。屋根もない場所で寝ることはしょっちゅうだったかもしれない。
 だから、夜に移動することの危険性を、知っているのだ。

「よし……じゃあ今日は、ここまでにしようか」
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