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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第12話 お気になさらず
しおりを挟む『木葉くんって、か、彼女とか、いるの?』
……桃井さんの口から出た言葉は、これまでの会話の内容と、繋がりがない。まあ、今までだっていきなり話の内容が変わることはあったから、それ自体はいい。
問題は、その内容だ。
今までは、こうした色恋沙汰の話になることなんて、なかったのに。彼女がいるか聞かれることはなかったし……
逆に俺から、桃井さんに彼氏の話を聞くのも、なかった。聞いたらなんかキモい気がしたし。
「ど、どう、なの?」
「いえ……いませんけど……」
もしかして、高校生にもなって彼女がいないとかださっ、とか思われてる? いやいや、桃井さんはそんなこと思うような人じゃない。
ただ、ここで嘘をついても仕方ないので、正直に話す。
その瞬間……桃井さんが少しだけ、ほっとしたように見えた。
「そ、そうなんだ……っ、あ、いや、木葉くん学校やバイトで忙しいじゃない? 彼女さんがいたら、二人きりの時間とか取れないんじゃないかなぁーって、ね」
「上京してから、そんなこと考える余裕もなかったですし。そりゃ学校ではかわいいなって思う子はいますけど、彼女はいませんよ」
「そ、そうなんだ……って、私は友達じゃないの?」
「へ?」
ありのままを伝えたが、どうやら桃井さん的に引っかかる部分があったらしい。ちょっと拗ねているように見える。
私は友達ではないのか……その言葉に、俺は開いた口が塞がらない。
そりゃ、桃井さんとは、よく話すけど……友達かと言われると、そんな意識はなかった。あくまでお世話になっている人、の印象が強いからだ。
「桃井さんは、その……確かに、こっちじゃよく話す異性ですけど……」
「よく? 一番じゃないんだ」
「あー……異性って枠だと、篠原さんとどっこいどっこいかなって……」
バカ正直に答えすぎただろうか。桃井さんは、ふふっと小さく笑った。
「そっか……
……その、今は、彼女とかいなくてもさ。前に住んでたっていう村で、そういう関係になった子とか……」
「いませんね。女友達……妹ってイメージが強かったので」
「そ、そうなんだ……!」
ふむ……これまで色恋沙汰の話をしたことなかったからわかんなかったけど、こんな感じなのか……よくわからんな。
ただ、学校で男友達に絡まれてそういう話になるときの感じとは、ちょっと違う気がする。異性だからだろうか。
それにしても、桃井さんはどうしてこうも、俺の女性事情を知りたがるのだろうか……
……っと、そうこう話しているうちに、アパートが見えてきたな。
「やっぱり桃井さんと話してると、時間があっという間だなぁ」
「……あ、あの、木葉くん!」
ふいに、呼び止められる。それは、今までにも名前を呼ばれることはあったが……それらとは違う、強制的に足を止めてしまう、不思議な力があった。
立ち止まり、振り向くと……桃井さんは、先ほどのように立ち止まっていた。ただ、さっきよりは近い。
胸の前で手を組み、じっと俺を見ていた。年上だが、桃井さんの方が背が低いので、俺を見上げる形になる。
「桃井さん……?」
「あの……木葉、くん!」
「は、はいっ」
「私……」
気のせい、だろうか……桃井さんの頬は、赤らんでいた。それとも、街頭で照らされて、そう見えるだけだろうか。
なんだろう、このシチュエーション……人生経験の乏しい俺でも、頭によぎることがある。心臓が、高鳴る。
次に、なにを言われるのだろう……桃井さんの口から紡がれる言葉を聞き逃すまいと、全神経を集中させて……
「主様ー! お帰りなさいませー!」
「ぶへぇ!?」
……いやでも頭の中に残ってしまった能天気な声と、わき腹に突き刺さる鈍い衝撃が、俺を襲った。
なにかを言おうとした桃井さん。そのなにかを聞き逃すまいと、桃井さんに集中していたせいだろうか。それとも、単純に"彼女"が早かっただけだろうか。
横から飛んできたなにか……彼女に、俺はもろにその衝撃をくらってしまう。それでも、その場に踏みとどまったのは男の意地だ。
足を踏みしめ、俺の腰に抱き着く女……久野市 忍を、見た。
「く、久野市……さん……? どうしてここに……」
「どうして、なんて冷たいことを言わないでください。
主様が帰ってくる気配を感じたので、お外でお迎えしようと思いまして」
「こわっ」
俺の腰で、すりすりとほおずりしている久野市さんを引き離そうとするが、全然離れない。力強いなこの子!
そうして、彼女に気をとられていたためだろう。一瞬、桃井さんのことが意識から消えてしまっていた。
俺は、久野市さんを引き離す作業を続けながら、桃井さんへと視線を戻して……
「す、すみません桃井さん。話を中断させてしまっ……て……」
「いえ、お気になさらず」
なぜだか、とてつもない違和感に襲われた。違和感……というか、これは恐怖と言った方がいいだろうか。
なぜ、恐怖を感じているのか。それはわからない。だが、なにから恐怖を感じるかはわかる。
……桃井さんから、この上ない恐怖を感じている。
なんだ、なにがおかしいんだ? 桃井さんはいつも通り、なにも変わらずに笑顔を向けてくれているのに……
その笑顔が、とっても怖い!?
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