13 / 84
第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第13話 木葉くんのバカ
しおりを挟むこの威圧感……いや恐怖感。
それは間違いなく、目の前の桃井さんから感じるものだった。
「木葉くん」
「はい!?」
「その人は?」
その声は、本当に桃井さんのものかと疑いたくなるほどに、冷たいものだった。いや、桃井さんのものであることには、間違いないのだろうが……
少なくとも、俺が今まで聞いたことのない、冷たい声のトーンだった。
「えっと、この子は……」
とりあえず、質問に答えなければ……だが、なんと答えればいい? 正直俺も、この子がどういうものか正確に説明できる自信がない。
そもそも、だ。俺の両親がいないことやじいちゃんと暮らしていたことは桃井さんにも話してあるが、じいちゃんが死んだことやその遺産がどうのということは話していない。
遺産に関しては俺も数時間前知ったんだが。
この子は、じいちゃんの残した莫大な遺産を狙う輩から俺を守るためにやって来たくノ一なんです……とか、言えるかよ!
信じてもらえないし、すげー嘘っぽい設定だよ!
「木葉くん、なんで黙ってるの? もしかしてこの子、かの……」
「主様をお守りする、それが私の役目です!」
なにをどう答えるべきか、悩む俺にしびれを切らしたのか、桃井さんからの追及……しかし、それに答えたのは、なんと久野市さんだった。
この時の俺は、正直、なに言ってんだこの女……と突き飛ばしてやろうかと思ったくらいだ。
それに、桃井さんも目を丸くしている。
「ある……まも、る? あなた、なにを言って……」
主様、だの守る、だのと言われ、それを素直に受け止められるはずもなく。
「あなたのような小娘にはわからないでしょう、主様の背負った大いなるものの存在を。
あらゆる厄から主様を守り、かつ主様のお世話をするのが私の使命です! 朝も、昼も、夜もね!」
「お、お世話……よ、夜のお世話……!?」
「お前ちょっと黙れよ!」
まずい、なにがまずいかはうまく説明できないんだけど、とにかくまずい! それに桃井さんはなにかを、盛大に勘違いしている!
これなら、俺から普通に説明すればよかった! 中途半端に説明するから、なんか変なことになってるし!
しかも、しかもだ。今気づいたが、久野市さんの恰好は家に来たばかりの服……もはや服と呼べるかもわからない、アレだ。
なにも知らない人から見たら、ただの痴女だよ!
「ち、違うんだ桃井さん! これはその、こいつの趣味でこういう格好をしているというか……」
「こ、木葉くんの趣味で、その子そんな変態みたいな格好してるの!?」
「ちがぁう!」
ダメだ、桃井さんはパニックになっている! なんなら俺もパニックになっている!
ちゃんと誤解を解こうにも、もうなにを説明したら通じるのか、わからない。
あと、久野市さんの格好ってやっぱ変態みたいなんだな……と、俺以外の正しい判断が聞けて、少しほっとした。
いや今はそんなことにほっとしてる場合じゃなくて……!
「さ、桃井さん! とりあえず、話を聞いて……」
「……っ、彼女、いないって……言ったのに……!」
「あの、ちょっと桃井さん? 聞いてま……」
「木葉くんのバカぁ!」
「ぐは!」
説明をする時間は、もう残されていなかった。なんとか誤解だけでも解いておきたい……しかし、桃井さんは聞く耳を持たず。
トドメの一撃が俺にクリティカルヒットし、俺がダメージを受けている間に、桃井さんはその場から走り去ってしまった。
最後まで、桃井さんになんとか説明しようとしたが……まさかのバカ発言に、思考が停止してしまったのだ。
これまでに、桃井さんにバカなんて言われたことはなく……そのダメージが、思いのほか大きかったようだ。
「さ、桃井さん……」
「あぁん、主様ぁん」
小さくなっていく桃井さんの背中を眺めながら……俺は、腰に抱き着いたままのこの女をいったいどうしてやろうか、と考えていた。
そのままその場に立ち尽くしているわけにもいかず……俺はテンション駄々下がりの状態で、部屋に戻った。
「はぁああ……絶対嫌われたぁ……」
部屋に戻った俺は、机に突っ伏していた。本当なら布団を敷いて寝転がってしまいたかったが、布団を敷く気力もなかったのだ。
桃井さんの、あの言葉が頭から離れない。
『木葉くんのバカぁ!』
あの言葉の真意は、わからない。実のところ、なにに怒っていたのかも。
その直前、彼女がどうのと言っていた気がする。もしかして、彼女がいないと嘘をついていたことに、怒っていたのか?
実際には、久野市さんは彼女ではないが、あの状況でそれを信じろというのも無理だろう。つまり、これは悲しい勘違い。
……彼女がいないって嘘ついただけで、あんなに怒るか?
「まったく、なんなんでしょうねあの女は。急に叫んだり泣いたりわけわかんないですよ」
「俺にとってはお前の方が、よっぽどなんなんでしょうねこの女なんだけどな」
そもそも、こいつがあのとき来なければ、あんなことにはならなかった。おかげで、桃井さんがなにか言おうとしたのに、最後まで聞けなかった。
あのとき桃井さんは、なにを言おうとしたのだろうか。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる