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第一章 現代くノ一、ただいま参上です!
第14話 近くの公園で寝泊まりしてましたよ?
しおりを挟むはぁああ……嫌われたかなぁ。バカって言われたしなぁ。まさか、桃井さんにそんなこと言われるだなんて、考えたこともなかった。
なんかすげーきついぞこれ。
……と、なにかが引っかかった。それは、直前の台詞の中にある。
「……ん? なぁ、今なんて言った? 桃井さんが泣いてたって……」
「主様、ばいとーお疲れ様でした! ささ、お風呂に入ってください!」
さっき桃井さんが言った言葉が気にかかったので、それを聞こうとするが、それは最後まで言えなかった。
……いや、聞き違いだろうか。あの状況で、桃井さんが泣いていただなんて。
まあ、今は……いくら考えても仕方ない。次に桃井さんに会った時、全力で誤解を解こう。別に、遺産の話とかも隠しておく必要はないし、必要なら話すさ。信じてもらえるかはともかく。
とりあえずは、風呂、か。
「もしかして風呂、入れといてくれたの? ありがと。でもよくわかったね、初めて見ただろうに……」
「? 入れてませんよ」
「……」
なに言ってんだこいつ……と言わんばかりに、久野市さんは首を傾げていた。
いや、なに言ってんだこいつは俺の気持ちなんだけどな。
え、入れてないの? そりゃ俺だって、留守を任せただけで風呂入れてくれとは言ってないけどさ……今、言ったじゃん。お風呂に入ってくださいって、言ったじゃん。
それって、お風呂入れたから入ってくださいって意味なんじゃないの?
そんな俺の疑問が通じたのかはわからないが、久野市さんは答える。
「すみません、お風呂場らしき場所はわかったのですが、かまどではないですし、水場も近くになく。水道を使うのかとも思ったのですが、村では近くの水場から水を汲んできていたので……
それに、お風呂場にはなんだか、押すところがいっぱいあって、よくわからなくて」
「……」
きょとんとした久野市さんの言葉に、俺は軽くため息を漏らす。本人に、悪気はないのだ。それに、気持ちはわかる。
ずっと村で暮らしてきた俺も、都会のハイテク機械に面食らったもんだ。事前にこういうものだと聞いてはいたが、実際に見てみるとやっぱりわからなくなった。
暮らしていた村は、まあ田舎も田舎で……お風呂は、今彼女が言ったようにかまど。さらに、近くの水場から水を汲んできて、それを沸かすという方法で湯を張っていた。
この都会で、そんな方法はもちろんない。お風呂は機械式で、ボタン一つで湯を張ってくれるハイテク機能だ。
だが、そんなこと久野市さんにわかるはずもなく……結果として、なにもできなくなってしまったわけだ。
それと同時に、気になることが出てきた。
「……いや、そういや聞くの忘れてたんだけどさ。この一週間、どこでどう暮らしてたのさ。寝床とか、風呂場とか」
一週間前、家までやって来たこの子を、俺は追い出した。そして、一週間経った今日、またここに現れた。
忘れていた……というか気にする必要もなかったのだが、さすがに気になってしまったのだ。
どこか、ホテル……はお高いにしても、ネカフェとか泊まれる場所はある。
場所によってはシャワー付きのところもあるらしいし、そういうところを利用したのならば多少は、機械云々に詳しくなっててもおかしくはないが……
なぜだか、とたんに嫌な予感がして。
「この一週間、近くの公園で寝泊まりしてましたよ?」
……久野市さんは、きょとんとした顔で、当たり前のように、そう言った。
「……え?」
「ですから、近くの公園に。あ、水飲み場はありましたので、助かりました。食べ物はなくともひと月以上は凌げますが、さすがに水がなければ……」
「えぇええええ!?」
予想もしていなかった発言。俺は、今が夜だということも忘れて声を上げてしまい、とっさに押さえる。ご近所さん迷惑に、なっていないだろうか。
……嘘は、ついてないっぽい、けど……
それが本当だとして……えぇ、一週間公園で寝泊まり……えぇ……
「てことは俺、女の子を追い出して、公園で寝泊まりさせたクソ野郎ってことなのでは……」
「主様? おーい、主様ー?」
たまらず、うなだれる。なんてことだ……いや、まさかそんなことになってるとは、思わないじゃん?
事情を知らなかったとはいえ、俺は女の子になんてことを……!
ただ、この子、一週間外泊……と言っていいのかわからないけど……していたわりに、平気そうな顔をしているんだよな。なにか問題でもありますか、と言わんばかりの。
この子にとって、外で寝て過ごすのはたいした苦じゃないってことか?
「まあ、私のことはどうでもいいんです。ささ、主様、お風呂どうぞ」
「……すぐ入れるもんでもないから、まず湯を張らないとな」
「どうやってです?」
ていうかこの子、一週間公園生活ってそれこそ風呂とか……いや、考えるのはよそう。
ああもう、考えるの面倒くさい、風呂だ風呂。それに、もうこんな時間だし……
あんな話を聞いては、せめて今日はこの子をここに置いておくしかないじゃないか。これから追い出すわけにもいかないし、それがなくてもメシ作ってくれた相手を無下にはできないし。
今夜は、久野市さんを部屋に泊めることにして……
……いやそれはそれで、まずくないか?
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