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書き換えその一 ジャックの盗みをやめさせたい②
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「ジャックの盗みを…やめさせたい?」
いったいどういうことだろう。
「詳しく教えていただけますか?」
縁が先を促す。夕は小さくうなずいて話を続ける。
「私はこのお話を最近知ったんです。有名なお話なのに全然知らなくて…。そしたら、その、何て言うか…。」
少し間をおいて夕は意を決したように言った。
「ひどい話だと思ったんです。」
咳を切ったように一気に話し始める。
「だってそうじゃないですか?ジャックくんはただお母さんと幸せに暮らしたいだけなのに人からものを盗んで巨人を殺して…ホントは優しい人のはずなのに…。可哀想です…。でも、そのことをクラスのみんなに話しても『たかがおとぎ話でそんなおおげさな』って笑われて…。それで…私…。」
そう話しているうちに夕の瞳はどんどんうるんでいって最後には顔を伏せて泣き出してしまった。
栞には夕が思い切って話してくれたその感情が正直よく分からなかった。栞も本は大好きだが、物語の登場人物にここまで感情移入したことがはたしてあっただろうか。
どうしたらいいのか分からずオロオロしていると、縁が優しく声をかけた。
「心中お察しします。自分の気持ちを誰にも分かってもらえないのはつらいですよね…。事情は分かりました。斎藤様のご依頼、私が引き受けましょう。」
夕が顔を上げる。
「いいんですか?」
「もちろんです。」
縁は夕のうるんだ目を見て言った。
「すべての物語は人を幸せにするためにあるのですから。」
「明日までに本の書き換えをしておきますので明日またお店にいらしてください。」
「ありがとうございます。」
そう礼をいうと夕は扉を開け店を後にした。扉が閉まると私は縁に言った。
「このお店がどういうお店なのか分かるどころかますます謎が深まったんですけど…。」
「あ、やっぱりそうですよね。」
『この人…しっかり者っぽい見た目だけどけっこう抜けてる人なのかも。』
「そうだ、それならこの後この本の書き換えを見学しませんか?」
「え!? い、いいんですか?無関係の人にそんな様子を見せて…」
「だって、気になるでしょう?依頼の物語がどう書き換わるのか…。」
縁がいたずらっ子のように笑う。
「そもそもその〝書き換え〟って一体何なんですか?」
「それを説明する前に斎藤様の依頼の物語をご覧ください。」
そう言って「ジャックと豆の木」を差し出してくる。そう言われるとたしかに話の大筋は知っているが細かい部分は所々忘れているかもしれない。栞は本を受け取り、ざっくりと中を読む。
大まかな話しの内容は
母と二人暮らしのジャックはお金を稼ぐため牛を市場へ売りに行く途中、ある男と取引をして牛のかわりに魔法の豆を手に入れる。それを地面に埋めると次の日の朝には空まで届く大きな豆の木が生えていた。それを登っていくと雲の上にある巨人の家を見つける。ジャックは一度目は金貨を、二度目は金の卵を産むガチョウを、三度目は歌うハープを盗んだ。しかしハープを盗む途中、巨人にバレてしまう。ジャックは急いで豆の木を降り、巨人が追って来れないように豆の木を切り倒す。巨人は木を降りている途中で木を切られて落下死してしまう。ジャックは巨人から奪ったお宝を売ったお金で幸せに暮らしましたとさ。
みたいな感じ。
「この話、ホントに巨人悪くないですよね。」
「まぁ、お話によってはジャックの父親が巨人に食べられたみたいな設定があるものもありますが…。」
そこで一旦言葉を区切り、またいたずらっ子のような笑顔を浮かべて言った。
「でも、だからこそ気になりませんか?巨人ではなくジャックが可愛そうだといって依頼した斎藤様の物語がどう書き換わるのか。」
そして静かに宣言する。
「さぁ、書き換えをはじめましょう。」
いったいどういうことだろう。
「詳しく教えていただけますか?」
縁が先を促す。夕は小さくうなずいて話を続ける。
「私はこのお話を最近知ったんです。有名なお話なのに全然知らなくて…。そしたら、その、何て言うか…。」
少し間をおいて夕は意を決したように言った。
「ひどい話だと思ったんです。」
咳を切ったように一気に話し始める。
「だってそうじゃないですか?ジャックくんはただお母さんと幸せに暮らしたいだけなのに人からものを盗んで巨人を殺して…ホントは優しい人のはずなのに…。可哀想です…。でも、そのことをクラスのみんなに話しても『たかがおとぎ話でそんなおおげさな』って笑われて…。それで…私…。」
そう話しているうちに夕の瞳はどんどんうるんでいって最後には顔を伏せて泣き出してしまった。
栞には夕が思い切って話してくれたその感情が正直よく分からなかった。栞も本は大好きだが、物語の登場人物にここまで感情移入したことがはたしてあっただろうか。
どうしたらいいのか分からずオロオロしていると、縁が優しく声をかけた。
「心中お察しします。自分の気持ちを誰にも分かってもらえないのはつらいですよね…。事情は分かりました。斎藤様のご依頼、私が引き受けましょう。」
夕が顔を上げる。
「いいんですか?」
「もちろんです。」
縁は夕のうるんだ目を見て言った。
「すべての物語は人を幸せにするためにあるのですから。」
「明日までに本の書き換えをしておきますので明日またお店にいらしてください。」
「ありがとうございます。」
そう礼をいうと夕は扉を開け店を後にした。扉が閉まると私は縁に言った。
「このお店がどういうお店なのか分かるどころかますます謎が深まったんですけど…。」
「あ、やっぱりそうですよね。」
『この人…しっかり者っぽい見た目だけどけっこう抜けてる人なのかも。』
「そうだ、それならこの後この本の書き換えを見学しませんか?」
「え!? い、いいんですか?無関係の人にそんな様子を見せて…」
「だって、気になるでしょう?依頼の物語がどう書き換わるのか…。」
縁がいたずらっ子のように笑う。
「そもそもその〝書き換え〟って一体何なんですか?」
「それを説明する前に斎藤様の依頼の物語をご覧ください。」
そう言って「ジャックと豆の木」を差し出してくる。そう言われるとたしかに話の大筋は知っているが細かい部分は所々忘れているかもしれない。栞は本を受け取り、ざっくりと中を読む。
大まかな話しの内容は
母と二人暮らしのジャックはお金を稼ぐため牛を市場へ売りに行く途中、ある男と取引をして牛のかわりに魔法の豆を手に入れる。それを地面に埋めると次の日の朝には空まで届く大きな豆の木が生えていた。それを登っていくと雲の上にある巨人の家を見つける。ジャックは一度目は金貨を、二度目は金の卵を産むガチョウを、三度目は歌うハープを盗んだ。しかしハープを盗む途中、巨人にバレてしまう。ジャックは急いで豆の木を降り、巨人が追って来れないように豆の木を切り倒す。巨人は木を降りている途中で木を切られて落下死してしまう。ジャックは巨人から奪ったお宝を売ったお金で幸せに暮らしましたとさ。
みたいな感じ。
「この話、ホントに巨人悪くないですよね。」
「まぁ、お話によってはジャックの父親が巨人に食べられたみたいな設定があるものもありますが…。」
そこで一旦言葉を区切り、またいたずらっ子のような笑顔を浮かべて言った。
「でも、だからこそ気になりませんか?巨人ではなくジャックが可愛そうだといって依頼した斎藤様の物語がどう書き換わるのか。」
そして静かに宣言する。
「さぁ、書き換えをはじめましょう。」
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