書き換えオーダーメイド

夜船 銀

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書き換えその一  ジャックの盗みをやめさせたい③

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「書き換えを始めるって…、一体どうするんですか?新しいお話でも考えるの?」

縁は答える。

「いいえ、違います。確かに書き換え屋の中には自分でお話を考えて書き換えを行う人もいますが、琥珀堂は一味違います。」

「で、具体的にはどういう…?」

「登場人物を説得するんですよ。」

「は?」

得意そうに答える縁に思わず声が出てしまった。
しかし物語の登場人物を説得って…、何を言ってるんだこのひとは…。

「あ、あの、それどういう意味ですか?」

「まぁ、聞いただけじゃ理解できないですよね。」

うーん と悩むように縁は腕を組んだがやがてこちらを向いて言った。

「あんまり人には知られたくないんですが、書き換えを見学していただくと言いましたもんね。お見せしましょう。琥珀堂の魔法を!」

栞が言葉の意味を聞き返すより早く、縁は栞が持っていた「ジャックと豆の木」に向かってぱちんと指を鳴らした。するとどうだろうか、本がみるみるうちに金色に輝き始めたのだ。

縁が叫ぶ。

「栞さん!本を開いて!」

言われるがままに本の表紙を開けると、まるで言葉の波のような金色の光が溢れ出し、栞の体を包み込んだ。途端、栞は強烈な眠気に襲われた。抗うことができず薄れゆく意識の中で栞はふと一つ疑問に思った。

あれ…、私…。縁さんに自分の名前言ったっけ…?

そこまで考えて栞の意識は夢の世界に誘われた。




 どのくらい眠っていたんだろう。気がつくと栞は若葉色の平原に立っていた。驚いてあたりを見回す。遠くに地平線が見えるほど広大な平原に雲ひとつない塗りつぶしたような青空。そしてそれらのバランスのとれた景色をぶち壊すように一本の巨大なつたのようなものが天空にむかって伸びている。
 一体なにがどうなっているんだろう。これじゃあまるで本当に…。

そのとき、話しかけている声がした。

「気分はどうですか?どうやらうまくいったようですね。」

縁だった。

「じゃあ行きましょうか。」

縁はさも当然のように歩き出す。栞は慌てて後を追う。

「縁さん!ここはどこ!?琥珀堂の魔法って何!?」

「まぁまぁ落ち着いてください。」

縁はのんきな声で答える。

「まずここはどこかという質問ですが、うすうす感づいているんじゃないですか?ここはジャックと豆の木の本の中です。」

「え、じゃあ本当に…。」

自分は本当に物語の中の世界に入り込んでしまったというのか。

「次に琥珀堂の魔法についてですがこれは追々説明するとして、今は書き換えに専念しましょう。」

「え、一体何をやるんですか?」

「言ったはずです。説得をすると…。」

 縁が足を止めた。栞たちは豆の木の根本まで移動したのだ。近くにくるとこの豆の木の大きさがより一層実感できる。あまりの大きさにはるか上にあるはずの木の先端が見えなかった。
 よく見ると木の根元には他にも人がいた。縁はその人に声をかけた。

「おはようございます。ジャックさん。」
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