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書き換えその一 ジャックの盗みをやめさせたい⑥
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翌日、私は学校が終わった後、再び琥珀堂を訪れていた。この書き換えの行く末を見届けるために。
少し緊張感を覚えながら栞は扉を開けた。昨日と同じ位置に縁が腰掛けている。
「いらっしゃいませ。斎藤様はまだお見えになっていませんよ。」
「『ジャックと豆の木』はどうなりました?」
「えぇ、しっかり書き換わりましたよ。」
そう言って栞に本を差し出してきた。見た所、本の外見にはさして変化はないようだった。
本を両手で受け取ろうとしたそのとき、
「ごめんください。」
店の扉を開けて夕が入ってきた。昨日と同じセーラー服に身を包んでいる。
縁が席を立つ。
「いらっしゃいませ斎藤様。ご依頼の本、無事に書き換えが完了しております。」
それを聞いた途端、夕の顔が紅潮する。
「本当ですか!? 見せてください。」
差し出された本を夕はサッと奪い取りページをめくる。その本の中身をを栞はさり気なく覗き込む。どうやら話の大筋に変化はないらしい。しかしラストシーンが大きく変わっていた。
金の卵を産むガチョウを売ったお金を使い切ったジャックは次は歌うハープを盗もうとしました。しかしもうこれ以上人から物を奪い取ってはいけないと思った彼は巨人にいままでのことをすべて話しました。すると巨人は雲の上で自分の所で働けば許そうっと言いました。こうしてジャックは母親と共に雲の上に住み、巨人と平和に暮らしましたとさ。おしまい。
本を読み終えて背表紙を閉じた夕は満足げな表情を浮かべていた。
「素敵…。このお話の方がよっぽど好き。」
「ご満足いただけたようで何よりです。その物語は斎藤様だけのオーダーメイドです。どうか大切になさってください。」
「はい、ありがとうございます。」
夕は本を大切そうに胸に抱いて何度も何度もお礼を言いながら琥珀堂を後にした。
夕が去った後、縁はどこからともなく一冊の本を取り出した。さっきの『ジャックと豆の木』と同じくらいのサイズだ。それを壁際の立ち並ぶ大量の本の中に滑り込ませた。
「その本はなんですか?」
「あぁ、これは先程の『ジャックと豆の木』と同じ内容の本です。書き換えを行うたび、記念に一冊複製しているんです。」
「え…。てことはここにある本全部…?」
「はい。過去に私が書き換えた物語です」
そう言うと、縁はこちらに向き直った。
「以上で一つの書き換えの仕事が全て終了しました。今度こそこの店がどういう店なのかご理解いただけたと思います。そこで昨日の質問をもう一度しましょう。」
「なにかお探しでしょうか。お望みはありますでしょうか。」
望み…。私、私は…。自分が思っていたことを思い切って口にする。
「私をここで雇ってくれませんか?」
縁はあまりに予想外だったのか縁はポカンとしている。
「私はいままで、『ジャックと豆の木』の巨人が可哀想だなんて思ったことありませんでした。いままで当たり前だと思っていたものが全てひっくり返った気分でした。」
自然と声が強くなる。
「もっと私の知っている物語の、別のストーリーに出会いたいんです!!」
縁は腕を組んで考え込むような仕草をする。
やっぱり無理だろうか…。あまりに急すぎると…。
「時給…。」
縁がつぶやく
「時給出せませんよ。雇うというよりボランティアのようになりますが…。」
「いいんですか!?」
縁は栞の言葉を肯定するように首をすくめて見せた。
「書き換えだけじゃなく雑務も手伝ってもらいますよ。」
「はい!ありがとうございます!」
こうして、栞は書き換え屋の見習いとして琥珀堂で働くことになったのでした。
『書き換えその一 ジャックの盗みをやめさせたい』
おしまい
少し緊張感を覚えながら栞は扉を開けた。昨日と同じ位置に縁が腰掛けている。
「いらっしゃいませ。斎藤様はまだお見えになっていませんよ。」
「『ジャックと豆の木』はどうなりました?」
「えぇ、しっかり書き換わりましたよ。」
そう言って栞に本を差し出してきた。見た所、本の外見にはさして変化はないようだった。
本を両手で受け取ろうとしたそのとき、
「ごめんください。」
店の扉を開けて夕が入ってきた。昨日と同じセーラー服に身を包んでいる。
縁が席を立つ。
「いらっしゃいませ斎藤様。ご依頼の本、無事に書き換えが完了しております。」
それを聞いた途端、夕の顔が紅潮する。
「本当ですか!? 見せてください。」
差し出された本を夕はサッと奪い取りページをめくる。その本の中身をを栞はさり気なく覗き込む。どうやら話の大筋に変化はないらしい。しかしラストシーンが大きく変わっていた。
金の卵を産むガチョウを売ったお金を使い切ったジャックは次は歌うハープを盗もうとしました。しかしもうこれ以上人から物を奪い取ってはいけないと思った彼は巨人にいままでのことをすべて話しました。すると巨人は雲の上で自分の所で働けば許そうっと言いました。こうしてジャックは母親と共に雲の上に住み、巨人と平和に暮らしましたとさ。おしまい。
本を読み終えて背表紙を閉じた夕は満足げな表情を浮かべていた。
「素敵…。このお話の方がよっぽど好き。」
「ご満足いただけたようで何よりです。その物語は斎藤様だけのオーダーメイドです。どうか大切になさってください。」
「はい、ありがとうございます。」
夕は本を大切そうに胸に抱いて何度も何度もお礼を言いながら琥珀堂を後にした。
夕が去った後、縁はどこからともなく一冊の本を取り出した。さっきの『ジャックと豆の木』と同じくらいのサイズだ。それを壁際の立ち並ぶ大量の本の中に滑り込ませた。
「その本はなんですか?」
「あぁ、これは先程の『ジャックと豆の木』と同じ内容の本です。書き換えを行うたび、記念に一冊複製しているんです。」
「え…。てことはここにある本全部…?」
「はい。過去に私が書き換えた物語です」
そう言うと、縁はこちらに向き直った。
「以上で一つの書き換えの仕事が全て終了しました。今度こそこの店がどういう店なのかご理解いただけたと思います。そこで昨日の質問をもう一度しましょう。」
「なにかお探しでしょうか。お望みはありますでしょうか。」
望み…。私、私は…。自分が思っていたことを思い切って口にする。
「私をここで雇ってくれませんか?」
縁はあまりに予想外だったのか縁はポカンとしている。
「私はいままで、『ジャックと豆の木』の巨人が可哀想だなんて思ったことありませんでした。いままで当たり前だと思っていたものが全てひっくり返った気分でした。」
自然と声が強くなる。
「もっと私の知っている物語の、別のストーリーに出会いたいんです!!」
縁は腕を組んで考え込むような仕草をする。
やっぱり無理だろうか…。あまりに急すぎると…。
「時給…。」
縁がつぶやく
「時給出せませんよ。雇うというよりボランティアのようになりますが…。」
「いいんですか!?」
縁は栞の言葉を肯定するように首をすくめて見せた。
「書き換えだけじゃなく雑務も手伝ってもらいますよ。」
「はい!ありがとうございます!」
こうして、栞は書き換え屋の見習いとして琥珀堂で働くことになったのでした。
『書き換えその一 ジャックの盗みをやめさせたい』
おしまい
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