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治癒の神獣
266:邪魔をするな!
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「どういう事だ? 狐の王から『王国にて勇者と思わしき存在が現れた。注意せよ』と報せが来ていたが……」
「お前は本当に『勇者』なのか?」
戦士達から俺を疑う言葉が溢れた。
全員が全員俺の事を疑っているわけじゃないと思うけど、それでも半分以上は俺のことを疑っているように思える。
「ああそうだ! この方は我々王国が召喚した勇者様だ!」
さっきまで黙っていたはずの襲撃犯の男は、いきなり威勢よく大声で話し出した。
勝手に喋った男に対して、押さえつけている者は更に力を入れて押さえつける。
自身のことを押さえつける力が強まったからか襲撃犯の男は、ぐぅっ、と呻き声を漏らしている。が、それだけだ。
男を押さえつけている者もそれ以上動く事はなく、先ほどのように槍で黙らせられる事はない。
「ここにいるのだって王女殿下からの任務を受けての事。なんだ? お前たち気付いていなかったのかよ! そんなんだから自分らの祀る化け物を殺されるんだよ!」
「貴様ッ!」
押さえつけられたままでもなお吐き出されるのは、まるで自身を追い込むような煽り。このままいけば男は殺されてもおかしくはない。
だが、そんな男に向けられている殺意は、同時に俺にも向けられていた。
里の者達が冷静であれば、もし本当に俺が潜入している存在であるのならわざわざ俺の存在をバラすようなことをするはずがないと気づけるだろう。そもそも、今こいつがつかまっているのだって俺が捉えたからだ。
だが、男が言ったように、殺された、というわけではないが、それでも自身達の祀る神獣が傷つけられて冷静さを欠いているようで気づけない。
だとしても、本来ならこの程度の疑いなんて、確たる証拠があるわけでもないしどうにでもなった。黒髪黒目は珍しくはあるが、過去の勇者には日本以外の人もいたみたいだし勇者である証拠にはなり得ないのだから。
けど、今は少し状況がまずい。タイミングとしては最悪だ。向こうとしては最高なのかもしれないけど。
だって、チオーナ達の手には俺が渡した嘘感知の魔術具があるのだから。聞かれた事次第では誤魔化すこともできずに襲撃犯の仲間として判断されるだろう。
「……お前は王国で召喚された勇者であるか? 偽りなく答えろ」
嫌な質問をしてくる。これが『お前は王国の手の者か?』とかだったらハッキリと否定できるんだが、俺が王国で勇者として召喚されたのは間違いない事実だ。
嘘感知の魔術具がある以上、下手に嘘をついて否定すると言うのはまずい。
かと言って答えないのもまずい。
「そうだ。だが──」
「フンッ!」
だからすぐに俺の事情を話そうとしたのだが、俺が反論する前に、背後にいた奴が俺に切りかかってきた。
「なにっ!?」
だが、その攻撃は俺に当たった瞬間武器がなくなった事で無効化された。
……最初から、もしかしたらこういう奴がいるかもなと思っていた。
ソーラルの反応を見ればわかる事だ。俺を敵視している奴らがいるのは分かってたし、俺を殺しにかかるほど疎んでいるのがアイツ一人だとは思えなかった。
だから、もしもの場合に備えて今回はしっかりと警戒していたから、襲われたところで怪我なんてしようがない。
だから大丈夫と言えば大丈夫なんだけど、問題がないわけじゃない。反論の機会を潰されるのは困るのだ。
「ちょっと待──」
「セヤア!」
「ハアアッ!」
俺が王国に敵対している事や、ここにいる理由を話すために制止するが、その声は更に襲いかかってきた者達によって遮られてしまう。
「話を聞け!」
「くっ!」
「なんだこれは!?」
話を聞かないで攻撃してくる者達に苛立ち叫んだ俺の体に剣と槍の攻撃が当たるが、それらは収納されていき攻撃を仕掛けた二人の行動は意味のないものとなった。
「ウオオオオ!」
武器をなくして驚愕している二人のうち、一人は茫然と自身の手を見ているが、もう一人が素でのまま殴りかかってきた。
武器の攻撃を無効化できる俺への対処法としては正しいのだけど、今はただ邪魔なだけだ。
「オオオ──オゴッ!?」
迫り来る拳を避けて、殴りかかってきた奴の腹に収納魔術付きの拳を叩き込む。
単なる俺の拳では対して効果はないだろうけど、身体強化と収納魔術を併用しての一撃なら、まともに喰らわせれば悶絶させることぐらいはできる。
まともに喰らう事なんてここの戦士達なら有り得ないだろう。多分、というかほぼ確実に目の前にいるこいつは純粋な武術のみなら俺よりも強い。
けど、それ故にこいつは俺の事を侮っていたんだろう。
大したことがない。一撃もらっても問題はない。耐えてから自分の攻撃を喰らわせてやればいい。
多分だけど、そんな感じの事を考えていたんだと思う。
もしかしたらそこには、グラティースの配下に対する憂さ晴らしや復讐のようなものがあって考えが鈍ったのかもしれないが、結果としては変わらない。
「貴様っ!」
だが、その男を倒してしまったことで、周りにいた奴らまでもが武器を構えて俺に向けた。
俺は話し合いをしようと思っていたのに、先に攻撃してきたのはそっちだろうがっ!
そんな理不尽な状況に、俺の中でそんな苛立ちがどんどん強くなっていく。
「ありがとうございます勇者様! 王女殿下には貴方が助けてくれた事を絶対にお伝えします!」
そしてそんな状況を作り出した張本人である襲撃犯は、更にこの里の奴らを煽って俺たちの対立を決定的なものにしようとしたのか叫んでいる。
いまだに押さえつけられたままのそいつのことを見てみると、丁度視線が合った。
すると、そいつの口元がニヤリと歪む。
その瞬間、俺の苛立ちは限界を超えた。
「──チッ。邪魔をするな!」
叫びながらチオーナとその周囲の奴ら以外の頭上から収納魔術を叩き込み、地面に叩きつけて這いつくばらせる。
「ぐああっ!」
「きゃあっ!」
そんな悲鳴があちこちから聞こえるが気にしない。
これで立っているのはチオーナとその周りの少数だけだ。やっと静かに話せる。
ああ、さっさと説明してしまおう。怪我は問題ないみたいだけど、それでも早くイリンのところに戻らないと。
邪魔する奴がいなくなったなと思い、少しスッキリした頭でそう考える。
「なん、だ、これは……」
襲撃犯の男の声が周囲にいた奴らを押しつぶす収納の渦の下から聞こえた気がするが、他の叫び声に紛れてしまいよく分からなかった。
もしかしたら俺の勇者としての能力について知っていたのかもしれないな。だからこそ情報との食い違いに驚いているのかもしれない。捕まえる時に一度見てるはずなんだけどな……。俺以外の誰かがやったとでも思ったのか?
……まあ気にする必要はないか。
「さて……」
「お下がりください、神子様!」
俺がチオーナに説明を再開しようと思い足を踏み出すと、押しつぶさなかった護衛達が俺の道を阻むようにして前に出てきた。
完全に敵認定されてるな。まあ仲間を潰してるんだから仕方ないのかもしれないけど。
「いいえ。下がるのは貴方達です」
だが、そんな護衛達の間から、チオーナが前に出てきた。
「ごめんなさいね、アンドーさん。みんな神獣様のことで気が立ってるだけなの……」
どうやらチオーナは、俺が敵対する気はないのを理解しているようだ。
護衛達はまだ俺の事を警戒しているけど……
「いや。こっちとしては襲撃犯どもから話が聞ければいいだけだから。それに、イリンの治療が終わったらすぐに出て行くから、どう思われようと問題ないさ」
でも、そう。結局のところ、ここの人たちにどう思われたとしてもどうでもいい。ここには治療で来てるだけで定住するつもりはないんだし。
今回の騒ぎは、俺がここを出て行くのが一番の解決方法だろう。
イリンの治療が終わるまでは出て行く気はないけど、治療が終わったらすぐにでも出て行こう。そうすればこの里の人達も余計な事を心配しなくて済んで安心するだろう。
「そう……」
だが、里が落ち着くことはまとめ役であるチオーナにもとって喜ばしい事のはずなのに、チオーナの表情は少し悲しげだった。
「お前は本当に『勇者』なのか?」
戦士達から俺を疑う言葉が溢れた。
全員が全員俺の事を疑っているわけじゃないと思うけど、それでも半分以上は俺のことを疑っているように思える。
「ああそうだ! この方は我々王国が召喚した勇者様だ!」
さっきまで黙っていたはずの襲撃犯の男は、いきなり威勢よく大声で話し出した。
勝手に喋った男に対して、押さえつけている者は更に力を入れて押さえつける。
自身のことを押さえつける力が強まったからか襲撃犯の男は、ぐぅっ、と呻き声を漏らしている。が、それだけだ。
男を押さえつけている者もそれ以上動く事はなく、先ほどのように槍で黙らせられる事はない。
「ここにいるのだって王女殿下からの任務を受けての事。なんだ? お前たち気付いていなかったのかよ! そんなんだから自分らの祀る化け物を殺されるんだよ!」
「貴様ッ!」
押さえつけられたままでもなお吐き出されるのは、まるで自身を追い込むような煽り。このままいけば男は殺されてもおかしくはない。
だが、そんな男に向けられている殺意は、同時に俺にも向けられていた。
里の者達が冷静であれば、もし本当に俺が潜入している存在であるのならわざわざ俺の存在をバラすようなことをするはずがないと気づけるだろう。そもそも、今こいつがつかまっているのだって俺が捉えたからだ。
だが、男が言ったように、殺された、というわけではないが、それでも自身達の祀る神獣が傷つけられて冷静さを欠いているようで気づけない。
だとしても、本来ならこの程度の疑いなんて、確たる証拠があるわけでもないしどうにでもなった。黒髪黒目は珍しくはあるが、過去の勇者には日本以外の人もいたみたいだし勇者である証拠にはなり得ないのだから。
けど、今は少し状況がまずい。タイミングとしては最悪だ。向こうとしては最高なのかもしれないけど。
だって、チオーナ達の手には俺が渡した嘘感知の魔術具があるのだから。聞かれた事次第では誤魔化すこともできずに襲撃犯の仲間として判断されるだろう。
「……お前は王国で召喚された勇者であるか? 偽りなく答えろ」
嫌な質問をしてくる。これが『お前は王国の手の者か?』とかだったらハッキリと否定できるんだが、俺が王国で勇者として召喚されたのは間違いない事実だ。
嘘感知の魔術具がある以上、下手に嘘をついて否定すると言うのはまずい。
かと言って答えないのもまずい。
「そうだ。だが──」
「フンッ!」
だからすぐに俺の事情を話そうとしたのだが、俺が反論する前に、背後にいた奴が俺に切りかかってきた。
「なにっ!?」
だが、その攻撃は俺に当たった瞬間武器がなくなった事で無効化された。
……最初から、もしかしたらこういう奴がいるかもなと思っていた。
ソーラルの反応を見ればわかる事だ。俺を敵視している奴らがいるのは分かってたし、俺を殺しにかかるほど疎んでいるのがアイツ一人だとは思えなかった。
だから、もしもの場合に備えて今回はしっかりと警戒していたから、襲われたところで怪我なんてしようがない。
だから大丈夫と言えば大丈夫なんだけど、問題がないわけじゃない。反論の機会を潰されるのは困るのだ。
「ちょっと待──」
「セヤア!」
「ハアアッ!」
俺が王国に敵対している事や、ここにいる理由を話すために制止するが、その声は更に襲いかかってきた者達によって遮られてしまう。
「話を聞け!」
「くっ!」
「なんだこれは!?」
話を聞かないで攻撃してくる者達に苛立ち叫んだ俺の体に剣と槍の攻撃が当たるが、それらは収納されていき攻撃を仕掛けた二人の行動は意味のないものとなった。
「ウオオオオ!」
武器をなくして驚愕している二人のうち、一人は茫然と自身の手を見ているが、もう一人が素でのまま殴りかかってきた。
武器の攻撃を無効化できる俺への対処法としては正しいのだけど、今はただ邪魔なだけだ。
「オオオ──オゴッ!?」
迫り来る拳を避けて、殴りかかってきた奴の腹に収納魔術付きの拳を叩き込む。
単なる俺の拳では対して効果はないだろうけど、身体強化と収納魔術を併用しての一撃なら、まともに喰らわせれば悶絶させることぐらいはできる。
まともに喰らう事なんてここの戦士達なら有り得ないだろう。多分、というかほぼ確実に目の前にいるこいつは純粋な武術のみなら俺よりも強い。
けど、それ故にこいつは俺の事を侮っていたんだろう。
大したことがない。一撃もらっても問題はない。耐えてから自分の攻撃を喰らわせてやればいい。
多分だけど、そんな感じの事を考えていたんだと思う。
もしかしたらそこには、グラティースの配下に対する憂さ晴らしや復讐のようなものがあって考えが鈍ったのかもしれないが、結果としては変わらない。
「貴様っ!」
だが、その男を倒してしまったことで、周りにいた奴らまでもが武器を構えて俺に向けた。
俺は話し合いをしようと思っていたのに、先に攻撃してきたのはそっちだろうがっ!
そんな理不尽な状況に、俺の中でそんな苛立ちがどんどん強くなっていく。
「ありがとうございます勇者様! 王女殿下には貴方が助けてくれた事を絶対にお伝えします!」
そしてそんな状況を作り出した張本人である襲撃犯は、更にこの里の奴らを煽って俺たちの対立を決定的なものにしようとしたのか叫んでいる。
いまだに押さえつけられたままのそいつのことを見てみると、丁度視線が合った。
すると、そいつの口元がニヤリと歪む。
その瞬間、俺の苛立ちは限界を超えた。
「──チッ。邪魔をするな!」
叫びながらチオーナとその周囲の奴ら以外の頭上から収納魔術を叩き込み、地面に叩きつけて這いつくばらせる。
「ぐああっ!」
「きゃあっ!」
そんな悲鳴があちこちから聞こえるが気にしない。
これで立っているのはチオーナとその周りの少数だけだ。やっと静かに話せる。
ああ、さっさと説明してしまおう。怪我は問題ないみたいだけど、それでも早くイリンのところに戻らないと。
邪魔する奴がいなくなったなと思い、少しスッキリした頭でそう考える。
「なん、だ、これは……」
襲撃犯の男の声が周囲にいた奴らを押しつぶす収納の渦の下から聞こえた気がするが、他の叫び声に紛れてしまいよく分からなかった。
もしかしたら俺の勇者としての能力について知っていたのかもしれないな。だからこそ情報との食い違いに驚いているのかもしれない。捕まえる時に一度見てるはずなんだけどな……。俺以外の誰かがやったとでも思ったのか?
……まあ気にする必要はないか。
「さて……」
「お下がりください、神子様!」
俺がチオーナに説明を再開しようと思い足を踏み出すと、押しつぶさなかった護衛達が俺の道を阻むようにして前に出てきた。
完全に敵認定されてるな。まあ仲間を潰してるんだから仕方ないのかもしれないけど。
「いいえ。下がるのは貴方達です」
だが、そんな護衛達の間から、チオーナが前に出てきた。
「ごめんなさいね、アンドーさん。みんな神獣様のことで気が立ってるだけなの……」
どうやらチオーナは、俺が敵対する気はないのを理解しているようだ。
護衛達はまだ俺の事を警戒しているけど……
「いや。こっちとしては襲撃犯どもから話が聞ければいいだけだから。それに、イリンの治療が終わったらすぐに出て行くから、どう思われようと問題ないさ」
でも、そう。結局のところ、ここの人たちにどう思われたとしてもどうでもいい。ここには治療で来てるだけで定住するつもりはないんだし。
今回の騒ぎは、俺がここを出て行くのが一番の解決方法だろう。
イリンの治療が終わるまでは出て行く気はないけど、治療が終わったらすぐにでも出て行こう。そうすればこの里の人達も余計な事を心配しなくて済んで安心するだろう。
「そう……」
だが、里が落ち着くことはまとめ役であるチオーナにもとって喜ばしい事のはずなのに、チオーナの表情は少し悲しげだった。
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